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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第76話 止められない場所

 鐘の音が、途中で途切れた。


 乾いた音だった。


 いつもの時刻を知らせる鐘ではない。

 警告の鐘。


 私は顔を上げた。


(来た)


 広場の空気が、一瞬で変わる。


 人が止まる。

 次に――走る。


「南区で火災!」

「倉庫だ!」


 声が飛び交う。


 役人が動き、兵が走り、馬が駆ける。


 命令が、瞬時に広がる。


 そして――


 人が押し寄せる。


 私はミレイアの腕を掴んだ。


「行くわ」


「え、でも――」


「今しかない」


 止められない状況。


 アルヴェリックが言った通りの場面。


 私たちは人の流れに乗る。


 南区へ。


 煙が見えた。


 黒い煙。


 空を裂くように立ち上る。


 倉庫街だ。


 木造の建物が密集している。


 延焼すれば終わる。


 兵が叫ぶ。


「水を運べ!」

「優先搬送路を開けろ!」


 人が動く。


 だが――


 混ざる。


 水を持つ者。

 逃げる者。

 指示を受ける者。


 順番がない。


 命令はある。


 だが足りない。


 水の列が詰まる。


「こっちだ!」

「いやあっちだ!」


 指示がぶつかる。


 誰も優先を理解できない。


 結果――


 止まる。


(……来てる)


 私は周囲を見る。


 アルヴェリックがいた。


 すでに現場にいる。


 指示を出している。


 速い。


 正確だ。


 だが――


 回らない。


 人が多すぎる。


 命令が届かない。


 途中で止まる。


 混乱が広がる。


「後ろに下がれ!」

「邪魔だ!」


 怒号。


 押し合い。


 順番は存在しない。


 止められない。


 止めれば――燃える。


 ミレイアが震える声で言った。


「……どうすれば」


 私は一瞬、目を閉じた。


 焚き火はない。


 止められない。


 命令は足りない。


 順番は崩れている。


 だが。


(ある)


 私は前に出た。


「水を並べて!」


 誰も聞かない。


 当然だ。


 命令ではない。


 私は近くの男の腕を掴んだ。


「並んで」


「何だよ今――」


「並んで!」


 声を強める。


 男が一瞬止まる。


 その隙に、隣の者が並ぶ。


「ここから渡して」


「前へ」


 水桶を渡す。


 一人、二人、三人。


 列ができる。


 短い。


 だが流れる。


 水が運ばれる。


「こっちも!」


 誰かが叫ぶ。


 別の列ができる。


 短い列。


 だが増える。


 アルヴェリックがこちらを見る。


 私は何も言わない。


 ただ動く。


「順番!」


 叫ぶ。


「渡して!」


 命令ではない。


 だが――通る。


 なぜなら。


 分かるからだ。


 目の前で。


 列が動く。


 水が届く。


 火にかかる。


 火が弱まる。


 それが見える。


 理由がある。


 だから守る。


 列が伸びる。


 人が自然に並ぶ。


 押さない。


 抜けない。


 ただ――渡す。


 火が抑えられていく。


 完全ではない。


 だが止まる。


 延焼が止まる。


 沈黙。


 そして。


「……止まった」


 誰かが呟く。


 煙が薄くなる。


 火が小さくなる。


 人が、ゆっくり息を吐く。


 ミレイアが、その場に座り込んだ。


「……できた」


 私は立っている。


 手が震えている。


 だが、見ている。


 列。


 順番。


 短く。


 即席で。


 不完全。


 それでも――機能した。


 アルヴェリックが、ゆっくり歩いてくる。


 周囲が静まる。


「止められない状況」


 彼が言う。


「ええ」


 私は答える。


「止めませんでした」


 沈黙。


 彼は列を見る。


 人がまだ水を運んでいる。


 必要なくなっても、続いている。


 順番は、止まっていない。


「……作ったのか」


「いいえ」


 私は首を振る。


「見えるようにしただけです」


 彼は、しばらく何も言わなかった。


 やがて。


「命令ではなかった」


「ええ」


「だが動いた」


「ええ」


 沈黙。


 長い。


 初めて。


 彼が答えを持っていない沈黙。


 私は静かに言った。


「順番は止められません」


「守れない時でも」


「作れます」


 彼は、ゆっくり目を閉じた。


 そして開く。


「……認めます」


 その言葉は、静かだった。


 だが確かだった。


「順番は、有効です」


 私は答えなかった。


 まだ終わっていないからだ。


 彼は続ける。


「だが」


 来る。


「国家は、それを使う」


 私は彼を見た。


 変わった。


 だが――


 折れていない。


「使うのではなく」


 私は言った。


「残すんです」


 沈黙。


 火は消えた。


 煙が流れる。


 だが。


 順番は、まだ動いている。


 誰も止めていないのに。


 アルヴェリックは、最後に言った。


「次は、制度として試します」


 私は目を細めた。


「制度として?」


「ええ」


 彼は静かに言う。


「順番を、制度にする」


 沈黙。


 それは。


 最初の問いに戻る。


 制度は誰のものか。


 順番は、誰が持つのか。


 火は消えた。


 だが。


 次は――


 もっと大きい。


 私は空を見上げた。


 王都の空。


 煙が消えていく。


 だが戦いは終わらない。


 ここからが。


 本当の対決になる。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに「止められない状況」で順番が機能するかが描かれました。

そしてアルヴェリックもついに「順番」を認めましたが――まだ終わっていません。


次は「順番を制度にする」という最大の対立に入ります。


ここから物語はクライマックスへ向けて一気に加速していきます。


面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価で応援いただけるととても励みになります。


次話もぜひお楽しみに。

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