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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第42話 国家という帳簿

 王都の会議室は、静かすぎた。


 窓は高く、光は入る。

 だが、外の音はほとんど届かない。


 ここは、現場から切り離された場所だ。


 机の上に広げられた資料は、私の知る帳簿よりも分厚い。

 国家規模の数字は、美しく整えられている。


「まずは人口再配置について」


 レオンハルトが淡々と口を開く。


「北部の三領は慢性的赤字です」

「貴領方式を適用すれば、労働人口の再編成が可能でしょう」


 言葉は穏やかだ。

 だが、中身は重い。


「再編成、とは」

 私は問い返す。


「移動です」

「非効率地域から、生産性の高い地域へ」


 つまり――

 切る代わりに、動かす。


 だが、その“動かされた側”は、

 本当に生き残れるのか。


「戻る道は」

 私は静かに聞く。


「国家規模では、全体最適が優先されます」

 レオンハルトは即答した。

「個別最適は、後回しです」


 ヴィクトールが補足する。


「誤解なきよう。国家は感情で動けません」


 私は、目を伏せた。


(分かっている)


 国家は、領地ではない。

 一人ひとりを見ていられない。


 だが――


「順番を守らない最適化は」

 私は顔を上げる。

「破綻を前倒しするだけです」


 レオンハルトの視線が、少しだけ鋭くなる。


「具体的には?」


「再配置の前に、移行設計を」

「移行設計の前に、生活保障を」


「保障の財源は?」


 来ると思っていた問いだ。


「削減を急がないこと」

「段階的に利益を積み上げること」


「遅い」


「ええ」


 私は否定しない。


「しかし、持続します」


 沈黙が落ちる。


 レオンハルトは、ゆっくりと紙をめくった。


「軍需費についてはどうですか」

「不採算地域の維持費を削れば、軍備に回せます」


 私は、ほんの一瞬だけ目を閉じた。


(これだ)


 国家の帳簿は、

 常に“何かを削る理由”を探している。


「軍備を強化しても」

 私は静かに言う。

「内側が崩れれば、守るものがありません」


「理想論です」


「現場論です」


 視線が交差する。


 レオンハルトは、怒らない。

 ただ、分析する。


「あなたの制度は、領地では機能しました」

「だが、国家ではスケールが違う」


「ええ」


「では、国家では諦めますか?」


 その問いに、私は即答しなかった。


 諦めるか。

 折れるか。

 利用されるか。


 どれも違う。


「国家でも」

 私はゆっくり言葉を選ぶ。

「順番は作れます」


「どうやって」


「一度にやらない」

「優先順位を明確にし、段階を固定する」


 レオンハルトは、ほんのわずかに口元を緩めた。


「つまり」

「国家にも“戻る道”を?」


「ええ」


「失敗した政策を、撤回できる余白を」


 ヴィクトールが、初めて明確に笑った。


「政治が、それを許すと思いますか?」


「許させるしかありません」


 私は、はっきり言った。


 国家という帳簿は、巨大だ。

 だが、巨大であるほど――


 崩れた時の傷も大きい。


 会議が一旦区切られ、私は廊下に出た。


 窓の外には、整然とした王都の街並み。

 整いすぎている。


(ここには、焚き火が見えない)


 レオンハルトが、静かに隣に立った。


「あなたは、国家を信じていますか」


 突然の問い。


「信じていません」

 私は即答する。

「機能を信じています」


 彼は、興味深そうに目を細めた。


「機能が暴走したら?」


「止める仕組みを入れます」


「それを、誰が止める?」


 私は、彼を見た。


「あなたです」


 わずかに、彼の表情が揺れた。


 理解している者ほど、危険だ。

 だが、理解している者しか止められない。


「……面白い」

 彼は低く言った。


「あなたの制度は、削減の道具ではない」

「しかし、削減にも使える」


「使い方を固定します」


「国家で?」


「ええ」


 彼は、しばらく黙った。


「あなたは、王にならないと言ったそうですね」


「ええ」


「では、何になるつもりですか」


 私は、ほんの少し考えた。


「戻れる場所の、設計者です」


 彼は、初めて明確に笑った。


「国家に、戻る場所を?」

「ええ」


「……難しい」


「知っています」


 国家という帳簿は、冷たい。

 だが、その中に“戻る道”を書き込めるなら。


 この戦いは、

 削減の是非ではない。


 制度の意味を、

 国家の言葉で定義し直す戦いだ。


 そして私は、まだ折れていない。


 焚き火は、遠い。


 だが――

 消えてはいない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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