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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第29話 速さは、いつも正義の顔をする

 知らせは、朝一番で届いた。


「……ノルト西境が、交易拠点として認可されました」


 ミレイアの声に、わずかな緊張が混じる。

 それは、単なる噂ではない。

 正式な話だ。


「王都が?」

「はい。特例措置付きで」


 私は、しばらく黙っていた。


(来たわね)


 速い改革は、分かりやすい成果を出す。

 税収、物流、効率。

 数字が跳ねれば、王都は評価せざるを得ない。


 たとえ、その裏で何が切り捨てられていようと。


「……アデルハイトですね」

「ええ」


 彼女は、選んだ。

 遅さより、速さを。

 戻れなさより、今を。


 それが、彼女の正義だ。


 昼前、市場の様子が変わった。

 商人の数が、明らかに減っている。


「向こうに、流れました」

 ハロルドが報告する。

「税が安く、手続きも早い」


「当然ね」

 私は頷く。

「速い方が、楽だもの」


 人も、金も、速さに流れる。

 それは、責められない。


 午後、私は久しぶりに高台に登った。

 ここからなら、交易路が見える。


 一つは、こちら。

 もう一つは――ノルト西境へ。


 二本の道。

 選ぶのは、いつも人だ。


「……不安ですか」


 隣で、ミレイアが聞いた。

「いいえ」

 私は答える。

「覚悟していただけ」


 速さは、いつも正義の顔をする。

 「今すぐ救う」

 「今すぐ変える」

 「今すぐ良くする」


 その言葉は、魅力的だ。

 だからこそ、危うい。


 夕方、使者が一人、やって来た。

 アデルハイトからだ。


 短い書簡。


 ――人が足りない

 ――戻れない者が、溢れている


 私は、読み終え、そっと紙を畳んだ。


(もう、始まっている)


 速さが生んだ歪みは、速くは直らない。


 夜、私は帳簿とは別の紙を取り出した。

 そこに、静かに書く。


 ――比較対象:成立

 ――選択圧:発生


 ミレイアが、不安そうに言った。

「……どうしますか」


「何もしない」

 私は即答した。

「今は」


 助けに行けば、正しさがぶつかる。

 競争になり、争いになる。


「見て、待つ」

「……冷たいですね」


「ええ」

 私は、微笑んだ。

「でも、長く続く」


 焚き火の数は、少し減っていた。

 商人が減った分だけ。


 それでも、消えてはいない。


 速さは、正義の顔をする。

 だが――


 正義の顔をしたものほど、

 あとで、重たい代償を連れてくる。


 その時、

 誰が立っていられるか。


 それを決める時間が、

 今、静かに流れていた。


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