第27話 説明できない正義は、信用されない
翌朝、辺境はいつもより静かだった。
人がいないわけではない。
作業は進み、市場も開いている。
ただ、会話が少ない。
(情報が、外に出た)
公開した数字と条件は、すでに他領に届いている。
そして今、評価されているのは“結果”ではない。
――説明だ。
「……反応が、割れています」
ミレイアが、届いた伝聞をまとめていた。
「理解を示す声と、反発と……半々です」
「妥当ね」
私は頷いた。
「むしろ、健全」
全員に好かれる説明は、説明ではない。
ただの迎合だ。
「でも……」
ミレイアは、少し言いづらそうに続ける。
「“冷酷だ”という評価も」
「ええ」
私は否定しない。
「それも、事実の一部よ」
助けなかった。
選んだ。
境界線を引いた。
それを冷酷と呼ぶ自由は、相手にある。
昼前、アデルハイトが執務室に入ってきた。
珍しく、苛立った様子だ。
「王都の使者が動いている」
「早いわね」
「“人道的観点からの説明要求”」
彼女は、皮肉を込めて言う。
「要するに、言葉で殴れ、ってこと」
私は、少しだけ考えた。
「……来るなら、歓迎します」
「え?」
「説明できない正義は、信用されない」
私は、はっきりと言った。
「なら、説明すればいい」
逃げる理由はない。
数字も、条件も、判断も――全部、開いている。
午後、臨時の公開説明の場が設けられた。
領民、他領の使者、名も名乗らない観察者。
私は、壇上に立った。
拍手はない。
「まず、誤解を一つ訂正します」
静かな声で、私は言った。
「私たちは、人を切り捨てるために条件を設けたのではありません」
「切り捨てずに済む範囲を、守るためです」
ざわめき。
「無制限に助けることは、簡単です」
「でも、その先で壊れます」
私は、数字を示した。
人口、食料、生産量。
誰でも読める形で。
「助けられる人数は、有限です」
「それを隠して“全員救う”と言う方が、無責任です」
一人の使者が、声を上げた。
「それは、弱者を切る論理だ!」
「違います」
私は即座に答えた。
「順番を決める論理です」
空気が、張り詰める。
「先に来た者」
「条件を守れる者」
「役割を持てる者」
「これは、特別扱いではありません」
「全員に、同じ条件を出しています」
沈黙。
私は、最後にこう言った。
「正義は、気持ちではありません」
「続くかどうかです」
壇上を降りると、誰も拍手しなかった。
だが、誰も怒鳴らなかった。
それで、十分だった。
夜、アデルハイトがぽつりと呟く。
「……怖い人ね、あなた」
「よく言われます」
「でも」
彼女は、真剣な目で言った。
「信用できる」
私は、何も答えなかった。
説明できない正義は、信用されない。
だから私は、今日も説明する。
嫌われても。
誤解されても。
この仕組みが、
誰かを救い続ける限り――
それでいい。
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