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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第10話 王都は、数字を嫌う

 王国財務局の役人が去った翌朝、辺境の空気は昨日までと同じだった。

 寒く、静かで、忙しい。


 それが、この領地の強さだと私は思う。

 外がどう動こうと、現場は現場の速度で回る。


「リリアーナ様、こちらを」


 ミレイアが差し出したのは、新しくまとめた収支表だった。

 紙はまだ粗悪だが、数字は嘘をつかない。


「昨日までの分です」

「ありがとう」


 私は目を通し、静かに頷いた。


(支出は増えている)

(だが、食料ロスは減った)

(人件は増えたが、治安コストは下がっている)


 典型的な、立て直し初期の動きだ。

 王都の連中が一番嫌うタイプの数字でもある。


「……また来ると思いますか」

 ミレイアが小声で聞いた。


「ええ」

 私は即答した。

「しかも次は、“善意”を装って」


 案の定だった。


 昼前、集落の入口が再びざわついた。

 今度は馬車が二台。護衛付き。肩書きを隠す気もない。


「王国より、正式な視察団が到着した!」


 代官ハロルドの声が、少し裏返っている。

 緊張するのも無理はない。だが私は、静かに外へ出た。


 先頭に立っていたのは、見覚えのある男だった。

 グレゴール宰相の腹心――財務顧問の一人。


「久しぶりだな、リリアーナ嬢」

「ご足労様です」


 形式的な挨拶。

 だが視線は、すでに周囲を査定している。


「辺境が賑わっていると聞いてね」

「噂は早いですから」

「ええ。特に、都合の悪い噂ほど」


 私は微笑み、何も否定しなかった。


 視察は半日かかった。

 倉庫、作業場、修繕中の家屋、簡易帳簿。

 彼らは一見丁寧に見て回り、最後に執務室へ通された。


「率直に言おう」


 顧問は椅子に腰掛け、指を組んだ。


「この改革は、危険だ」

「どのあたりがでしょうか」


 私は感情を挟まずに聞いた。

 彼は、少しだけ眉をひそめる。


「中央の許可なく、勝手に交易を始め」

「雇用を作り」

「税の流れを変えている」


 どれも事実だ。

 そして、どれも“嫌われる理由”だ。


「辺境は、静かに衰退していればいい」

 彼は、そう言った。

「それが、王都にとって一番管理しやすい」


 代官ハロルドが、思わず息を呑む。

 だが私は、驚かなかった。


(やはり、そこ)


「では、お聞きします」

 私は机の上の紙を一枚、前に出した。

「この数字は、ご覧になりましたか」


 食料ロス率、治安件数、死亡者数。

 すべて、改善している。


 顧問は一瞬だけ目を落とし、すぐに逸らした。


「数字は、いくらでも作れる」

「では、現場をご覧になったのは無駄でしたか」

「……」


 沈黙。

 その間に、私は続けた。


「私は王都に逆らうつもりはありません」

「ただ、“壊れたままにする理由”もありません」


 顧問は、しばらく私を見つめていた。

 やがて、ため息をつく。


「君は、相変わらずだな」

「そう言われます」


「……王都は、この動きを快く思わない」

「承知しています」

「それでも、続けるか」

「続けます」


 即答だった。


 顧問は、ゆっくり立ち上がった。

「では、正式な命令が下るだろう」

「内容は?」

「監査だ。厳しいものになる」


 脅しではない。

 事実の通告だ。


 視察団が去った後、執務室には重い沈黙が残った。

 ハロルドが、震える声で言う。


「……大丈夫なのでしょうか」

「大丈夫ではありません」

 私は正直に答えた。

「でも、想定内です」


 私は帳簿を開き、次の頁に線を引いた。


 ――中央監査対策(必須)


 ミレイアが、不安そうにこちらを見る。

「……止められますか」

「いいえ」

「では……」

「だから、止められない形にします」


 制度は、人を守るためにある。

 だが同時に、人を縛る。


 なら、縛れない形で組み直すだけだ。


 窓の外では、今日も作業が続いている。

 誰も、王都の顔色など見ていない。


(王都は、数字を嫌う)

(だから私は、数字で押す)


 辺境は、もう後戻りしない。

 この改革は――

 見られても、止まらない段階に入った。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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