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招待②


はぁ。昨日は散々だった。

お父様の親バカ加減なんとかならないかしら。


「お嬢様、まもなくお客様が到着されますのでお出迎えを。」

「はーい」


漆黒の馬車に刻まれた黒豹の家紋。

誰もが恐れるシャノワール公爵家の証だ。

わかりやすいな〜。黒=悪って。


「本日はお招き頂きありがとうございます。」

「こちらこそ招待に応じてくださり感謝します。」

「先日は娘がお世話になりました。」

「いえ、令嬢が元気そうで何よりです。」


顔は作り笑顔だけど、この言葉はきっと本心ね。


「シャノワール様、先日はありがとうございました。本日は気兼ねなくお過ごしください。」

「…あぁ、そうさせてもらうよ。」


他愛もない話をしながら昼食を共にし、食後の運動も兼ねて私はシャノワールに庭園を案内している。


「なぁ、お前は俺が怖くないの?」

「え?」

「俺はシャノワール家の人間だ。周りはみんな恐れるか嫌悪するかなのにお前は…」

「シャノワール公爵家の噂は耳にしたことがありますけど…それはあくまでお家の噂であって、シャノワール様自身の事ではないですよね。」

「っ!」

「それに、あの日シャノワール様は体調の優れない私を休憩室まで運んでくださったじゃないですか。感謝こそあれど恐怖心なんて抱くはずないです。」

「…そ。」

「あの時も言いましたがシャノワール様は優しい方ですよ。」


今日ここに1人で来てくれたのがその証拠。

成人前の子供が親なしで訪問するなんて普通はありえない。けれど彼は1人で来た。

あの時私のチカラを口外しないと約束してくれたから連れてこなかったのだ。


「私が今も平穏な生活をおくれているのは、シャノワール様や王家の方達が私のチカラを秘密にしてくれているおかげです。ありがとうございます。」

「はぁ…まったく…お前には敵わないよ。」


ワシャワシャと私の頭を撫でながら照れくさそうに笑うから、思わず私も笑ってしまった。


「なぁ妖精姫、俺のこと名前で呼んでよ。」

「この前も思いましたがその妖精姫ってなんなんです?恥ずかしいんですけど。」

「知らないのか?あの日会場に入って来たお前をみて、童話に出てくる妖精のお姫様みたいだって騒がれてたのに。」


そ、そんな!?ヒロインがいるから誰も見てないと思ってたのに…恥ずかしすぎる!


「と、とにかくそんな恥ずかしい呼び方やめて下さい!私にはちゃんと名前があるんですから!」

「なら…フローラって呼んでも?」

「もちろんどうぞ!」

「…他の奴らからも名前で呼ばれてたりは?」

「?両親以外では初めてですね。」

「ふ〜ん。」


なんだか機嫌が良さそう。

そっか…悪名高い公爵家の令息だ。名前で呼ぶほど親しい関係の人は中々居ないのか。


「ほら、俺のことも名前で呼んで」

「はい!グラン様って呼びますね!」

「"様"なんてつけなくていいのに。」

「あら!"侯爵令嬢"が"公爵令息"にそんなことできませんよ!」

「ゔっ…意外と根に持つタイプ…あの時はほら、アイツがいたからつい突っかかりたくなって…。」

「微妙な関係なのもわかりますが、5歳も年下の子に突っかからないでください。お2人に挟まれたら混乱します。」

「嫌な絡み方して悪かった。」

「次は普通に話しかけてくださいね。」

「あぁ。でも仲良いと思われるぞ。」

「そりゃあ名前を呼び合うくらいには仲良いですしね。というかもう私達、友達なのでは?」

「友達…ぷっ…はははっ…俺とっ…」


流石に10歳と15歳で友達はないか?

だからってそんなに笑わなくてもいいじゃない。

だんだん恥ずかしくなってきた。


「…そんなに笑うならいいです。ただの"顔見知り"でいきましょう。」

「悪い悪い!俺にそんなこと言うやついないから嬉しかったんだ!」

「…そうですか。」

「本当にお前変わってるよ。いい意味で。」


この前の殿下といい、グランといい、人のこと変わってる変わってるって…。

でも2人とも、とても嬉しそうで優しい顔をするから怒る気にはなれないんだよなぁ。


「グラン様も変わってますよ。本当はいい人なのにそれを隠そうとして。」

「おいおい、俺は悪名高い"シャノワール"だぞ?」

「はい。シャノワール公爵家の"グラン様"は私の恩人です。悪い人じゃありません。」

「まったく…頑固だなぁ。」

「だって貴方はきっと他のシャノワールの方々とは違うから。」

「…なんで、そう思う?」

「貴方の笑顔はとても寂しそうなので。」

「笑顔なのに寂しそう…か。これでも自慢のポーカーフェイスなのにな。」

「殿下もグラン様もその歳で完璧だと思いますよ。ですがそれは悲しい才能です。お二人ともそうならざるを得ない環境にいたってことですから。」

「気を抜けないからな。俺と殿下はなおさら。」


王族の象徴である赤い瞳をもつ2人。

そう、これが"グラン=シャノワール"が悪役になる理由。彼にも王位継承権があるのだ。

グランの母親は現国王陛下の妹、元王女様だった。出産後すぐに亡くなってしまったけれど。

シャノワール公爵は元々欲望の塊みたいな人でグランの瞳を見て夢を見てしまった。この国を手に入れるという壮大な夢を。


「グラン様は何かやりたいことは無いのですか?」

「やりたいこと?」

「はい。グラン様自身がやりたいことです。」

「やりたいことか…考えた事もなかった。やらなきゃいけないことはたくさんあるのに。」

「じゃあ逆に、やりたくないことはありますか?」

「…父さんの言うことを聞きたくない…かな。」

「え…」

「父さんが俺に望んでることがあって、でも俺は興味もないし柄じゃない…だから本当はやりたくないんだ。まぁ逆らえないけど。」

「…そうなんですね。」


やっぱり貴方自身は何も望んでいないのね。

きっと親のエゴで貴方は悪役になってしまった。


「グラン様、ちょっと場所を移動しましょうか。」

「?」


庭園を抜けた先にある噴水。

噴水に彫ってある柄で1箇所だけ違うところを押すと小さな東屋が出てくる仕組みになっている。

ここは屋敷内でも私と両親、ごく僅かな使用人のみが知っている。何かあった時のシェルターみたいなもの。


「凄いな。こんな仕組みは初めて見た。」

「この東屋は屋敷内でも数人しか知りません。万が一何か起きた時のために両親が作ったそうです。」

「…そんな秘密の場所をなぜ俺に?」

「グラン様がとても苦しそうに見えたので。」

「フッ…答えになってないけど。」

「どうしても逃げ出したい時にここを使って下さい。普段は地下に隠れているので他の者には気付かれることはないでしょう。」

「使うって…どうやって?警備を回避するのは骨が折れそうなんだけど?」


それでも出来なくはないと思ってるあたりがグランらしい。

実際はミラの闇のチカラを使って屋敷全体を囲うように見えない防御幕が降りているから正門以外から入ろうとしても私が許可した者以外はすぐに捕まるんだけどね。

だから貴方の逃げ場としてちょうどいい。シャノワール家が追ってきてもここなら誰も入れないから。


「…実はグラン様に先日のお礼をかねてカフスボタンを用意したんです。このカフスボタンに私が聖獣印を刻みます。この東屋にある聖獣印と繋げるのでいつでも瞬間移動できますよ。」

「危機感がないな。簡単に屋敷に侵入出来る方法を俺なんかに与えようとするなんて。」

「グラン様は悪用しないでしょう?それに、私の聖獣のチカラなのでグラン様がここに来たことは私にだけはわかってしまうんです。」

「ふーん。わかったからって止められると?」

「ふふ、もちろん!」

「ま、そうだよな。光と闇の聖獣だもんな。」

「さて、印を刻んだので付けてみてください。」

「シンプルでいいな。俺の瞳の色に合わせてくれたのか。つけた感じは特に変わった様子はないけど」

「念じてみてください。逃げたいとか、遠くへ行きたいとか、東屋の中へ移動できます。」


次の瞬間、グランは目の前から消えた。

けれど東屋の中にはしっかりと彼の気配がある。


ガチャ


「あら、ちゃんと成功しましたね!」

「おいおい俺を実験台にしたのか?」

「ふふっ!…グラン様逃げたくなったら逃げていいんですよ。ここを貴方の逃げ場所にして下さい。」

「…本当になんで…俺なんかにそこまでしてくれるんだよ。」


まだたった15歳の貴方が今にも押し潰されそうになっているから。

家でも外でも気が休まらない貴方が少しでも安らげる場所があれば未来が変わるかもしれない。

貴方を悪役にしたくない。


「だってグラン様は私の初めてのお友達ですもの!特別です!」

「ふっ…そうか特別か…ありがとうフローラ」

「はい。いつでも気兼ねなく来てください。私を呼びたい時はここで呟いて頂ければ聖獣が教えてくれるのですぐ飛んできます!」

「お、それは頼もしいな!」

「1人になりたい時は気配は感じてしまいますがそっとしておきます。好きなだけ居てもらって構いません。誰も近づけさせませんので。」

「うん。これから世話になるよ。」

「はい!」

「さて、名残惜しいけどそろそろ時間だ。」


馬車が来るので正門まで送って行くとすでにお父様とお母様がまっていた。


「ウィズリーン侯爵様、夫人、本日はありがとうございました。とても楽しく穏やかな時間を過ごさせていただきました。」

「楽しんでいただけたなら何より。またいつでもいらして下さい。我が家は大歓迎です。」

「はい。是非また。」

「あら?迎えの馬車が来た時と違うような?」

「っ!なぜっ!?」


グランの表情が一瞬にして凍りつく。

私でさえ悪寒がする。


キィイッーガチャ


「息子が世話になったな。ウィズリーン侯爵。」

「いえ、ご子息にお越し頂いたおかげで私達も楽しく過ごすことができました。」

「私達はいつでも歓迎ですのでまたいらして下さいとお伝えしていたところですのよ。」


クロトワ=シャノワール公爵

グランの父でありすべての元凶

誰もが恐れる公爵を前にしながらもお父様とお母様は顔色一つ変えずにいる。

突然の訪問なのだから動揺してもおかしくないのに凄いわ。


「…父さん、何故ここに?」

「お前を迎えに来たんだよ。ウィズリーン侯爵家へ訪問するなら一言声を掛ければよかったものを」

「…すみません。」


あの忙しい公爵がわざわざ来たってことはウチに何か興味があるってことね。


「あぁ、君がウィズリーン家の姫君か。」

「初めましてシャノワール公爵様、フローラ=ウィズリーンと申します。」


狙いは私か。通常5歳で契約した聖獣を公表するはずのウィズリーン家が、私が10歳になってもまだ公表していないから様子見をしに来たわけね。


「グランは私と似て人付き合いが苦手でね。これからも仲良くしてくれるかい?」

「もちろんです!」

「さて、それでは失礼するよ。グラン、行くぞ。」

「はい」


あぁ、そんな悲しい顔をしないで。

ギュッ


「グラン様!また来てくださいね!絶対!」

「ふっ…あぁ。またなフローラ。」


よかった。少し表情が和らいだ。

グランと公爵を乗せた馬車はあっという間に見えなくなった。


「フローラ、そろそろ中に入ろう。」

「シャノワール令息と仲良くなったみたいね。またお茶にでも招待しましょ。」

「うん、そうする。」


公爵が来た瞬間、グランの瞳から光が消えたようだった。すぐに表情は戻していたけど。

公爵は少しでも私の情報を得ようと凝視してたけど挨拶程度じゃ何もわからないでしょう。

酷く冷たい瞳だった。一体何があったらあそこまで冷酷な瞳になるのか…。


「私、グラン様に手紙を書きます。今日のお礼とまた会いましょうって。」

「うん、いいと思うよ。」

「じゃあ素敵な便箋を用意しましょ!」


きっと公爵にチェックされるだろうから当たり障りのない内容で。

"いつでも迎える準備はできている"と伝えておけばきっとグランには伝わるから。

これから、少しでも彼が平穏に過ごせたらいいな。

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