招待
1週間の外出禁止が解け、私は今お父様と馬車で王宮へ向かっている。
私に届いていた2通の招待状、そのひとつは王太子殿下からのもので、先日のお礼をしたいとのことだった。
「フローラ、めずらしく緊張してるね。」
「うん…今日は国王陛下と王妃殿下もいるっていうから…ちゃんと挨拶できるか心配…。」
「フローラなら大丈夫さ。」
私より自信満々なお父様。
殿下の誕生パーティーの次の日、お父様は王宮へ出掛けていた。事件の経緯を説明しに行ったのだ。
そこで何があったのかは知らないが、お父様はルンルンで帰ってきた。
まぁ、超がつくほどの親バカのお父様がルンルンな時点で大体想像はつくけどね。
そのおかげで、緊張している私とは別で余裕なのだ。
「さて、ついたね。フローラ、今日もとっても可愛いから大丈夫だよ!」
「お父様、ちょっと意味がわからないかな。」
可愛いから大丈夫は本当に意味がわからない。
「ウィズリーン侯爵様、並びにウィズリーン侯爵令嬢のお見えです。」
さぁ行ってごらん、というようにお父様に促される。
緊張はしているけれど、それを悟られないように。
姿勢を正して、表情は穏やかでにこやかに。
「王国の沈まぬ太陽、国王陛下と王国を照らす月、王妃殿下に、フローラ=ウィズリーンがご挨拶致します。」
お声がかかるまで、頭は下げたままキープ。
「顔を上げてくれ、ウィズリーン嬢。」
国王陛下は金髪に赤い瞳、王妃殿下は銀髪に藍色の瞳。
王太子殿下は2人からそれぞれ受け継いだのね。
まぁ、王家の血筋の象徴である赤い瞳は絶対に受け継がれるとして、顔も国王陛下似みたいだ。
「うふふ、聞いていた通りね。作法は完璧。所作も優雅で美しい。とても10歳とは思えないわ!」
「ハインツだけが大人びてるだけかと思ったら…最近の子は恐ろしいね。ははっ」
いいえ、私は前世を足したらあなた方より年上なのでマナーを苦に感じないだけで、普通の10歳じゃ絶対にできません。つまり王太子殿下が化け物なんです。
同い年のみんな、私と殿下のせいでハードル上がっちゃった。本当にごめん。
「さて、改めて、フローラ=ウィズリーン侯爵令嬢。ハインツの危機を救ってくれてありがとう。」
「ハインツの為に無理をさせてしまってごめんなさいね。」
「君のおかげでハインツにも他の子供達にも危害が出なかった。犯人も無事捕えられたしね。けれど無茶は良くない。周りの大人達を頼る事を覚えるように。」
「はい。」
「私達親はね、ハインツにも君にも…まだまだ子供でいてほしいんだ。」
「子供でいられる時間はとても短いものだから…そんな短い間くらい、私達に守られて育ってほしいの。」
「そうだよフローラ。そんなに駆け足で大人にならないで、色々な事を経験して感じながらゆっくり大人になってほしいんだ。」
優しく微笑みながらもどこか少し寂しそうな表情の陛下達とお父様。
そうね、貴族や王族は結婚が早い。親と一緒にいられる時間は限られている。
だからこそ、その時間を大切にしたいと考えているんだ。
殿下、私達…親に恵まれましたね。
親の心子知らず、なんてよく言ったものだ。
「これからは、ちゃんと相談します。何でも。」
「うん!……でも好きな人ができたとかは聞きたくない。」
「…それはお母様に「一人だけ除け者にもされたくない」
「わがまま!」
「好きな人はお父様だよ!って言葉をまってるの!」
「アハハハッ」
「フフフフッ」
絶対言わないし。めんどくさい。
陛下達の前で私達は一体何をやっているのやら。
まぁ2人とも笑ってるからいいけど。
「父上と母上が人前でこんなに笑ってるなんて珍しい。」
ビクッ
「殿下、いつからここに…?」
「今来たところだよ。」
「ハインツ、令嬢にお礼を。」
「ウィズリーン嬢、今日は来てくれてありがとう。そして改めてあの日のお礼を言わせてくれ。君のおかげで僕は最良の一日を過ごせたよ。」
「それは何よりです。」
「庭園にケーキを用意したんだ。よかったらお茶に招待してもいいかな?」
「はい殿下、喜んで。」
「じゃあ私も「侯爵はここで聖獣について色々教えてくれる約束だぞ。」
「でも「子供同士の時間も大切でしょう?」
「お父様、行ってきます。」
「フ、フロ〜ラ〜!」
いやいや、今生の別れでもあるまいし…。
「侯爵はウィズリーン嬢のことを溺愛してるんだね。」
「あはは、お恥ずかしながら。」
「父上や母上の前でも怯まず居られる人は少ないから、さすが同級生だね。」
「え?お父様、陛下達と同級生だったんですか!?」
「うん、それと君のお母様もね。」
へぇ〜。どうりで余裕な訳だわ。
話してるうちにあっという間に庭園についた。
「侯爵は面白い方だよね。」
「たまに意味のわからない事を言いますけどね。」
「でも仲が良くて羨ましいよ。」
「殿下、先ほど私、学んだ事があるんです。」
「?」
「私も殿下もちゃんと両親の顔を見てもっと会話するべきだなと。」
「え?」
「私達はもう少し、親に頼った方がいいのかもしれません。まだ10歳の子供なんですもの。」
「…大人に頼らず1人で事件を解決した君が言うのか〜」
「うへへ…返す言葉もないですね。」
「でも、そうだね。僕達はまだ10歳の子供だ。」
「今のうちに存分にわがままでも聞いてもらいましょう!」
「あははっ!君は本当に変わった令嬢だ!」
「え?それ褒めてます?」
「もちろん、最大限の褒め言葉だよ!」
楽しそうに笑ってくれちゃって…いつものポーカーフェイスはどこへやら…。でも本当に良かった。
原作通りなら殿下は今頃事件のトラウマで食事もまともに出来なくなっていただろうから。
今こうしてお茶をすることなんてなかったはずだもの。
「ところで、ウィズリーン嬢。君は僕の…王族の命を救ったのだから何かお礼をしなくちゃね。」
「…お礼ですか…特に欲しいものはないですねえ。」
「…本当に?」
「このケーキが食べられただけでも満足です。あの日は結局何も食べる事なく帰ってしまったので心残りで。」
「なら…そのケーキ、いつでも食べられるようにしてあげようか?」
「へ?」
「…僕の「王室御用達のレシピを我が家に教えてくれるのですか!?」
「……ん?」
「これが家でも食べられるなんて!考えただけでワクワクします!殿下、ありがとうございます!」
「はぁ…君って本当に……まぁいいか。レシピくらい、いくらでも教えてあげるよ。もっと別のお礼を考えてくれ。」
「別のお礼と言われても…。」
「領地が欲しいとか、王家の宝をとか……婚約者にとか。」
「あぁ〜。ないですね!そもそも見返りを求めてたわけじゃないですし。両親も欲がないのでそういったものに興味はないでしょう。」
「即答とは…。僕との婚約を断るのは君くらいだよ。」
「お父様を説得するのは骨が折れます。」
「あはは!確かに。」
むしろ私は殿下とヒロインの出会いを邪魔しただけだからなぁ。本当にお礼なんて要らないんだよね。
「殿下は…やりたい事とか欲しいものとかありますか?」
「…今は君へのお礼を考えているんだけど。」
「私は何も浮かばないので…殿下だったらどうかなと。」
「僕は…空を飛びたいかな。鳥のように自由に。」
「…じゃあ、飛んでみます?」
「え?」
「私も空を飛んでみたいなと思って、試しにロコとミラに言ったことがあるんです。翼を貸してくれないかなって。」
ーパァアッーバサッー
「実はまだ誰にも言ってないので内緒ですよ?」
「うん!よろしく頼むよ。」
"ロコ、殿下の翼になってあげて"
"はーい!"
ーパァアッーバサッー
「殿下は初めてなので、私の手を放さないで下さいね!」
「わかった!」
年相応に目を輝かせてる殿下。
私も初めて空を飛んだ時はドキドキがとまらなかった。
前世では絶対にあり得ない体験。
ううん、この世界でも魔法使いでさえ簡単に空は飛べないのだから滅多に出来ることではない。
ロコとミラがいて本当に良かった。
「君はどんどん、僕に新しい世界を見せてくれる。」
「ふふっ!それはなによりで「フローラ!?」
あーぁ。バレた。陛下達も一緒だわ。
「…お説教コースかなぁ。」
「君は僕のわがままに付き合ってくれただけだよ。」
地上へ降りるとものすごい勢いで駆け寄ってくるお父様。
「フローラ!?今空を!??」
「ロコとミラに試しに言ってみたら出来ちゃって…えへ!」
「侯爵、僕が空を飛んでみたいって言ったんだ。彼女は悪くない。僕の望みを叶えてくれただけなんだ。」
「…咎めるつもりはありません。初めて見たのでビックリはしましたけどね。それにしても…」
フワッとお父様に持ち上げられる。おっとこれはヤバいぞ。
「やっぱりうちの子は地上に舞い降りた天使だったんだ!飛んでる姿に後光がさしてた!」
「お父様!恥ずかしい!///////」
「「あはははっ!」」
「ふふふっ!」
お説教よりこっちの方がダメージ大きいわ。
まぁ陛下達も殿下も楽しそうに笑ってるからいいか。
その後、お父様の親バカが暴走しかけたため恥ずかしすぎて早急に王城を後にした。




