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王太子殿下の誕生パーティー


「あなた!うちの子可愛すぎない!?まるで花の妖精ね!」

「ゔっ!可愛すぎる!きっと会場中が釘付けになるぞ!」


一人っ子だからかな。うちの両親は親バカすぎるわ。

確かにね、前世が黒髪黒目の私からしたら、今のピンクブロンドに金色の瞳のこの容姿と薄いピンクベースで花が散りばめられたこのドレスは最高に可愛いけれど。

私はヒロインを知っているから両親の言葉は真に受けない。

純白のドレスをきたヒロインが会場に入った瞬間、空から舞い降りた天使という言葉は彼女のためにあるものだと誰もが思ったほどに可愛らしかったから。


「さて、着いたわね。」

「フローラ、緊張してないかい?大丈夫?」

「大丈夫!何かあってもお母様とお父様がいるもの!」


うん。絶対大丈夫。


「うぅっ。うちの姫は本当にかわいいっ!」

「何かあったらすぐに知らせるんだよ!飛んでいくから!」

「はーい!」


王城に入ると、両親とは別々に案内される。

今回は王太子殿下との交流が目的なので、子供達は庭園でパーティーを、大人達はすぐ近くの城内でパーティーをしているのだ。


「フローラ=ウィズリーン侯爵令嬢のご入場です」


一応中身は大人だからね、マナーを身につけるのに苦労はしなかった。まぁこんなに大勢の前に立つのは久しぶりだけどあまり緊張はない。…なぜかって?

もうヒロインが先に入場してくれてたからみんなそちらに釘付けだもん!最高!ありがとうヒロインちゃん!

ていうか本当に眩しいくらいの天使だわ!あとで挨拶だけでもしに行こう!

さてと、木陰で気配を消しつつ観察といきますか。


スゥウッ

"ロコ、ミラ、出番よ。怪しい者がいたら教えてね"

"了解!ロコは使用人のことを注意してみてるね!"

"じゃあミラは"彼"についとくよ!"


この子達は5歳の時に契約した聖獣。

私の家は獣使いという家系で、5歳で初めての契約をしてからどんどん使役できる聖獣を増やしていくらしいのだけれど、2体同時契約は史上初。その上、光と闇の聖獣という超希少種だった為まだ世間には公表していない。だからこういう場にはうってつけなのだ。

これで準備は整った。事件が起きる前に止められる。


「ハインツ=ルードベキア王太子殿下の御成です。」


ーパチパチパチパチッー


「本日は私の誕生会にお集まりいただきありがとうございます。どうか肩の力を抜いて楽しんで行ってください。」


ーワァァアッーパチパチパチパチッー


あれが噂の、笑ってるけど笑ってないポーカーフェイスね。

あのポーカーフェイスを破っちゃうんだからヒロインちゃん本当にすごいわ。


「王太子殿下、私はーーー」

「王太子殿下、お誕生日おめでとうございます。私はーー」

「お誕生日おめでとうございます。王太子殿下。私ーー」


おっと、挨拶には行っておかないと。爵位順だから割と早いのよね。さすがにちょっと緊張するわ。


「王国の小さき太陽、王太子殿下にフローラ=ウィズリーンがご挨拶致します。」

「っ!…あぁ、ウィズリーン侯爵家のご令嬢だね。今日は私のために来てくれてありがとう。」


あれ?なんかビックリされた?お父様とお母様がする挨拶の仕方を真似したから平気だよね?間違ってないよね?


「殿下にとって最良の一日でありますように。」


とりあえず笑っとこう。貴族は取り乱さず笑顔で乗り切る。


「…うん、良い日になりそうだ。」


凄いわ。ポーカーフェイスだとわかってても嬉しそうな顔に見えちゃう。

10歳でそんなことが出来てしまうなんて凄い才能、そして悲しい才能。王族であるが故、彼が天才と呼ばれるが故に身につけてしまったものだから。

それを崩してくれた初めての存在がヒロインなら惹かれるのもしょうがないわ……。

って、ヒロインと殿下がくっつかないようにしようとしてる私が言うことじゃないけどね。今更罪悪感がすごいわ。

でもやっぱり私は、彼を応援したいのよ。


「…リーン嬢」


いつも、どんな時でも、ヒロインの側にずっといる彼を


「ウィズリーン嬢」

「はいっ!?」


っ!グレーの髪に空色の瞳っ…!


「靴のリボンが解けてるのでそのまま歩くと危ないですよ」


お、推しが!目の前に〜!眼福〜!…っじゃなくて!


「教えて頂きありがとうございます。ブルーノ様。」

「そこに座ってください。」

「へ?」


ポスンとベンチに座らされ、目の前には跪く推し………跪く推し!?


「解けない結び方を知ってるので。」


んんんんっ!面倒見が良すぎる!!さすがお兄ちゃん!!!じゃないんだよ!!初対面の令嬢にやる事じゃない!!


「あ、りがとう、ございます。」


うわー!恥ずかしすぎるー!推しに何させてるの私!


「へーこりゃあ珍しいもん見た。侯爵令嬢が公爵令息を跪かせてるなんてな!ククッ」


ピクッ

あー…やっぱり出会っちゃうか。

グラン=シャノワール。この世界の悪役。

殿下の誕生会に出席できる年齢は8歳〜13歳までの子供達、それ以上の年齢は大人会場に居なくてはならないのに、わざわざ様子見に来たのね。今日の事件を企てたのがシャノワール家だから。

"王太子暗殺未遂事件"

殿下の飲み物に毒が盛られ、殿下へ飲み物を渡した使用人は歯に埋め込んでいた毒で自殺、子供だらけの庭園での出来事によりパニック、周りにいる騎士達も戸惑う中で、ヒロインが治癒をしてなんとか殿下は一命を取り留める。

その後、その一部始終を見ていたグラン=シャノワールがヒロインに興味をもち、後に色々あるんだけど…。


「シャノワール家の令息が何故この会場に?」

「たまたま通りかかっただけだよ。」


うわーバチバチしてる。まぁあの言い方にイラッとくるのもわかるけど…元々家同士仲が悪いものね。

でも15歳と10歳が喧嘩するなよなぁ…。


「初めまして、フローラ=ウィズリーンと申します。お会いできて光栄ですわシャノワール様。」

「光栄ねぇ…。」

「ブルーノ様は困っていた私を助けて下さっただけなのです。けれど誤解されるように見えてたのなら気をつけなければなりませんね。教えてくださりありがとうございます!」

「「っ!」」


嫌味のつもりで言ったのだから感謝されるなんて思わなかったのだろう。2人してビックリしてる。


「ふっ…ふははっ!」


ん?いきなり笑い出してどうしたんだ??

ポンっと頭を撫でられる…あのグラン=シャノワールに…。


「また会おう。妖精姫!」


黒髪に映える赤い瞳から優しさを感じる…。

なんだ、笑った姿は年相応だ。

今ならまだ間に合うのかもしれない。

この世界の悪役となる未来を変えられるのかも…。


「レディーの髪に気安く触れるとは相変わらずだな。ウィズリーン嬢、大丈夫ですか?」

「…大丈夫です。思ったより良い方でした。」

「肯定はできませんけど…。」

「ふふっ。ブルーノ様は正直ですね。いいと思いますよ、考え方は人それぞれですから。私はあの方が噂で聞くほど悪い方ではないなと思っただけです。」

「…そうですか。」


不服、という顔をしながらも否定はしないんだよなぁ。

人の話に耳を傾けて寄り添えるのも彼の良さのひとつだ。


「皆様グラスをお持ちになって、お集まり下さい。」


さて、いよいよね。


「改めて、ありがとうございましたブルーノ様。」

「どういたしまして。」


推しと別れある人物を探す。

"フローラ、あのメイドだ"


「そこのメイドさん!ちょっといい?」

「っ…私でございますか?」

「もうすぐ乾杯の挨拶でしょ?そのグラス私にください!」

「申し訳ありません。こちらは殿下用のグラスですので。」

「あれ?殿下用のグラスなのに銀食器じゃないの?王族の方は皆こういう式典では銀食器を使うはずでしょ?」


そう、ゲームの中で殿下は普通のグラスだったため毒を飲んでしまったのだ。

メイドがわざと普通のグラスを持ってきて、侍従に咎められるも、乾杯の挨拶に間に合わないからと、殿下がそのまま口を付けた。

そのトラウマで殿下は普通の食器で食事ができなくなってしまう。


「あなた、もしかして新人さんなのね?大丈夫!私に任せて!銀食器に変えてもらえるよう頼んであげる!」

「れ、令嬢のお手を煩わせるわけにはいきません!」

「あら、私達の大切な王太子殿下のことなんだから万全を期すのは当たり前でしょ!銀の食器を使えないト・ク・ベ・ツ・な理由がある訳でもないし!」

「そ、そう…ですねっ…」

「さっきから息が乱れてるけれど大丈夫?」

「こ、こういう行事は初めてなものでして!ハハッ」

「使用人は決して声を出して笑ってはいけない。主人やお客様の前では。」

「ハッ…申し訳ありません。」

「ねぇ、あなた、本当に王室のメイド?」

「…っもちろんです!まだメイドになって日は浅いですが」

「王室は雇ったばかりの使用人に殿下の口へ入るものを運ばせたりしないわ。食器を間違えるなんてヘマをするなら尚更ね。」

「っ!そ、れはっ…」

"フローラ、彼にグラスが渡ったよ。毒物反応もしない。"

「あら!殿下はもうグラスを持たれて準備されてるわ!」

「えっ!?そんなっ!」

「さて、そのグラス貰っていいかしら?」

「…っ!」


沈黙…しょうがない、本当はあまり身分を使いたくないけど


「いつまで私を待たせるつもり?私は侯爵令嬢よ。使用人なら弁えなさい。」


無理矢理グラスを奪いとる。


「れ、令嬢、そちらはっ!」


流石に焦ってるわね。


「今日のよき日に、乾杯!」

「「乾杯!」」


グビッとひと飲み。あぁ、これは割と強い毒だわ。


"ロコ、彼女を眠らせて拘束して"

「な…ぜ…(ドサッ)」

"もう、フローラ無茶しすぎだよ"

「メイドさん!大丈夫ですか!しっかりしてください!」

「ご令嬢!どうされました!」

「このメイドさんがいきなり倒れてしまって!」

「わかりました。すぐに運びます。」


さて、医務室に運ばれれば彼女の歯に毒が埋め込まれてることはすぐわかるだろう。

あとはこのグラスをどうするか……ヒョイッ


「へっ!?あ、あのっ!?シャノワール様!?」

「チッ…このバカが…」


えぇぇ!?何故私はシャノワールに抱えられているんだ!?しかもみんなから注目されている……


「レディーに失礼だぞ。シャノワール令息。」


あらら、バチバチ再び。さすが私の推し。正義感強い。


「うるせぇ。ガキはすっこんでろ。」

「レディーの許可も取らずに乱暴な振る舞いをしてる方がガキだと思うけど。」

「どけ。お前に構ってる暇はない。」

「は?さっきから何を「言い争いはそこまでだ。」


ふぅ。殿下の登場で少し気が楽になったわ。


「ウィズリーン嬢、少し顔色が悪いね。宮廷医師を呼ぼう。シャノワール令息、早く運んであげるといい。」

「はい。失礼します殿下。」

"ミラ、もう少し殿下についててあげて"

"わかった。フローラはゆっくり休んで。"


それにしても、凄い速さで運んでくれてる…。

バンッと勢いよく休憩室のドアを開いたかと思ったら優しくソファーへ降ろしてくれた。


「お前…何故あのグラスを…」

「グラス…?あぁ、乾杯の挨拶なのに私だけまだ貰ってなかったのであのメイドさんから頂きました。」

「…身体のほうは?」

「んー。少し疲れてるくらいですね。」


聞きたいことがいっぱいあるって顔してるなぁ…それはお互い様だけど…なんでそんなに心配した顔してるのかなぁ。君は悪役のはずなのに。


「シャノワール様は…優しい方ですね。」

「…そんなこと言うのはお前だけだよ。」

「優しいじゃないですか。私をここまで運んでくれたんですから。」

「それは…」


自分の家が企てたことだものね。おそらく彼は計画が上手くいくか見守っていたのだろう。

けれど関係ない私が巻き込まれてしまったことに負い目を感じてるってところかなぁ。

…どこが悪役なんだか。


バンッ

「「フローラ!」」「ウィズリーン嬢!」

「お父様、お母様、殿下」

「宮廷医、早く彼女を診てくれ!」


この焦りよう、私が毒を飲んだことがバレたのね。


「ウィズリーン嬢、君の様子が気になって調べたらグラスから毒が検出されたんだ。しかもそのグラスは元々あの倒れた侍女が私に運んでいたものだったらしい。巻き込んでしまってすまない。」


流石にポーカーフェイスも崩れるわよね…。


「いえ、殿下が無事でなによりです。それに私、毒は効かないのであまり心配なさらないでください。」

「「え?」」

「令嬢の言ってる事は本当です…身体に異常は見られません。一体何故…」

「お父様、お母様、いいかな?」

「えぇ。」「あぁ。」

"ロコ、ミラ、姿を見せてくれる?"

""はーい!""

「我がウィズリーン家は獣使いの家系です。5歳で最初の契約をします。けれど私は少々特殊で、光の聖獣、闇の聖獣とそれぞれ契約できてしまったのです。」

「獣使いとは知っていたが…2体同時契約なんて聞いたことがない。しかも最も希少な光と闇の聖獣となんて…。」


私も正直転生チートってやつかなって思ってる。


「彼らのおかげで、あのメイドさんが怪しいことに気づき、私から近づいたのです。グラスに何か細工をしてるとは思っていましたが光の聖獣の力で私に毒は効きませんし、物理攻撃をされても闇の聖獣がバリアを張ってくれるので効きません。ですがちょっと気を張り詰めすぎていたみたいで休みたかったので、シャノワール様には感謝しています。」

「…いや、何事もないなら良かった…でも念のためゆっくり休むこと。」


そう心配そうに見つめるあなたは、やっぱり悪役にむいてないと私は思うのよ。


「では、令嬢の無事も確認できた事ですので私は先に失礼します。今日ここで見聞きした事は口外しませんのでご安心を。」

「ありがとう。今日のお礼は後日必ず。」

「招待状をお送りしますので是非我が家へ。」

「はい。ではまた。」


そう言って彼は出て行った。殿下とは一度も目を合わせず。


「侯爵、夫人、ウィズリーン嬢と2人で話したいのだけれどお許し頂けるかな?」

「「…はい。殿下。」」


そう言うと両親と宮廷医は部屋を出た。


「ウィズリーン嬢、何故周りを頼らなかった?あの場には騎士も居た。君が危険を冒す必要は無かったはずだ。」

「…そうですね。確かにあの場には少なからず大人はいました。けれどそれ以上に子供が大勢いました。」


騎士達に伝える事もできた。けれどそれで何かに勘づいたあのメイドが子供を人質にとる可能性もあった。


「私なら闇の聖獣の力で彼女を眠らせ安全に解決できると思ったので実行しました。毒を飲んだのは彼女を精神的に揺さぶり闇の力を効きやすくする為です。」

「そうか。そこまで考えて…。」

「まぁそれは建前です。1番の理由は大事にしたく無かったからです。」

「…何故?」

「挨拶の時に言ったはずですよ、殿下にとって最良の一日となりますように、と」

「っ!…あははっ…まったく…君が私の為にそこまでする必要はないだろうに…。」

「誕生日くらい主役に笑っていて欲しいと思うのは普通のことですよ。」

「…普通…か」


だって10歳の子供が誕生日に一生消えないトラウマ植え付けられるなんて最悪じゃない。

だからこの事件だけは絶対に阻止したかったの。

ヒロインと殿下をくっつけないためっていうのも少しあるけどね!


「さぁ、殿下。そろそろ戻られてください。主役がいない誕生パーティーなんて意味ないですよ。」

「…そうだね。ウィズリーン嬢、今度正式にお礼をさせてもらうよ。」

「はい。ではまた。」

"ミラ、念のためパーティーが終わるまでは殿下についててあげてね"

"はーい!ロコ、フローラのこと頼んだからね!"

"了解ミラ、今日はもう無理せず休ませる!"


その後、控え室で爆睡した私は両親に連れられ王城を後にした。次の日はこっぴどく怒られ、1週間外出禁止になった。まぁ後悔はないけどね。


「外出禁止か〜。まぁ別にいいんだけどねぇ。特にイベントもなっ…ハッ!ヒロインちゃんに挨拶してない!どころか他のメインキャラにも全然挨拶してない!折角の交流の場だったのに〜!」


そんなことを言ってる私に、招待状が2通。

新たなイベントの発生をこの時の私はまだ知らなかった。




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