表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

Phase.8 プレイバック・イン・ニャーヨーク

 ジェフリー・ブライドは、ついに逮捕された。だが、新聞に載った功労者はスクワーロウではない。シルバークローのレオン捜査官だ。それでも私に異存はない。何しろあの瞬間、はからずもキッズの頃、胸を熱くした映画の登場人物になってしまったからだ。ハードボイルドにだって、渋くキメてなんていられない日だってある。


「スクワーロウさん、例のお知らせ来ましたよ♪」

 クレアが上機嫌で、私にそれを持ってきたのは、ベガスに年の瀬迫る頃だ。届いたのは試写会のVIPチケットである。

「早いな…」

 私は、すっかり冬になった陽射しに招待状を透かし見た。主演にシルバークロー、そして脚本を担当しているのは、娘のアイリーンだ。ごくささやかな費用で撮影されたこの短い映画は小劇場で公開されるささやかなものだが、なんと、シルバークローがノーヅラで出演していると言う。


「パパの夢を叶えてあげたかったの」


 実はヅラを被る以前、シルバークローは一本だけ、ある映画に出演しているのだそうな。この作品はソフト化すらされていない幻の作品だが、お蔵入りの理由は明快だ。つまり、売り出したハードガイの路線に合わないから。シルバークロー自身が監督・演出・脚本を務め、どうにか映像化に漕ぎつけた最初の作品は、実にクラシックなラブストーリーだった。


「一度だけでいい。一度でいいから、元のキャラに戻りたかったんだ」


 と、シルバークローは私に、恥ずかしそうに告白したが、実の娘とのリメイクだ。何十年も演じたハードガイの仮面をかなぐりすてて、リラックスした演技をするシルバークローは、幸せそうではあった。


「う~ん、しかしハードガイのファンの私としては、キッズの頃の夢を崩されたくないのだがなあ」

「いいじゃないですか、もじゃもじゃじゃなくても。スクワーロウさんは?ハードボイルドしたくないときってないんですか?」

「ないよ。大体、ハードボイルドしたくないときってなんだね?言葉づかいに気をつけ給え。ハードボイルドは、生き方なんだぞ、クレア」

 このスクワーロウがハードボイルドじゃないときが、あってたまるか。

「それよりなんか複雑な気分なんだ。ノーヅラのシルバークロー、観たいような、観たくないような…」

「だって上映パーティですよ♪おめかしして、行きましょうよスクワーロウさん」


 けっ、恋愛映画なんて。そう思ったが、ファンとしては観ずにはいられない。私のような考えのファンが意外に多かったのか、低予算で制作されたこのショートムービーは、誰もが予想しなかった快進撃を起こすことになる。ノーヅラのシルバークローにも、人生の新しい一ページはちゃんと用意されていたわけだ。

 やれやれ、人生なんてどこで、どうやって転ぶか、分かったもんじゃない。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ