第35話・相乗りと粘体
「それじゃあ、しゅっぱーつ!!」
「ヒヒーン!!」
モミの元気の良い号令とともに、馬車を引くブラウンがいなないて進み始める。
「それでは、1週間の道のり、よろしくお願いしますね。」
「はい……って、グラムウェルさん、あなたも一緒に来るんですか?」
俺は、向かいに紳士的な執事が座っていることに、驚いて訊く。
「えぇ。流石に我が国からも責任者を出さないといけませんしね……。」
「ハハハ!!そりゃそうだ!!!」
穏やかに言うグラムウェル執事に、その横に座った大男がそれを笑い飛ばす。
…………………ん?
「なんでしれっとガロフさんもいるんですああぁぁ!!!」
こっちの世界に来てから1番の大きさの声で俺は叫んだ。
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「すみません、少し取り乱しました……。」
「いいってことよ!俺はあれよ、多分お前らとは別件だわ!でもまあ自分でわざわざ向かうのもめんどくさいしな!こうして便乗させてもらってるって訳よ!」
立て板に水のごとく、同乗の理由を述べる料理得意な白金級冒険者。
これでも、この位の冒険者は世界に3人しかいないというのだから、冒険者ギルドは人材難ではないのかと疑いたくもなる。
「あ、言われてみれば、知らない人乗ってると思ったー!誰だれ?誰なの?」
朗らかにモミも問う。
そういえば、モミはガロフさんと会った時はいなかったんだっけ。
簡単に俺はモミにガロフさんを紹介する。
「へー、要するに、すごい人ってこと?」
モミの感想は端的だ。
「そういうことだ、白い姉ちゃん。」
「白い姉ちゃんじゃなーい!モミには、モミっていうちゃんとした名前があるの!」
「お、そりゃあ悪かったな、モミっち。」
「モミっちって何モミっちってぇ!?」
「まあまあまあ……。」
ギャーギャー騒ぐモミを一旦抑えて、俺はグラムウェル執事に訊く。
「今回は、ガロフさんを抜いたここにいるメンバーでってことですか?」
「はい、そういうことになります。」
グラムウェル執事が頷く。
俺、カエデ、モミの3人に加えて、グラムウェル執事、そして馬のブラウン。
さらに、俺の特訓を休ませまいとついてきたアルマと、ガロフさんを合わせてしめて6人と一頭。
「道中は結構盗賊も現れるんで、同行してくださり本当にありがとうございます。軍もまだ今回の件で混乱状態で……。」
グラムウェル執事が言う。
思えば、俺が王都ロンベルクに来る時も盗賊に会ったっけ。
「レングマーレ山岳国の方に親書を渡すんでしたっけ?」
俺は今回の目的を確認する。
俺たちは、その護衛として任命されたのだ。
「はい。国王と、鳥人たちの代表である酋長の2名にですね。出来るだけ早く渡したいものだったので……。」
「どんな親書なのー?」
モミは自然体だ。
「上手くいくまでは秘密にしておいて欲しいのですが……、我が国との同盟の締結のお願いです。」
「同盟?」
ここでずっと黙っていたアルマが初めて反応する。
「レングマーレ山岳国って、トゥンクにいた時聞いたんですが、政治的には中立の国だった気がするんですけど……。」
カエデも不思議そうだ。
「我が国は昔からレングマーレ山岳国とは、草の根の部分で友好的な関係を築いてきました。ともに山脈の西にある帝国の脅威に脅かされているという共通点もありますしね。」
グラムウェル執事の説明は続く。
「そもそも、レングマーレ山岳国は政治的中立を志向しているわけではないんです。小国ゆえ、どちらかというと同盟を希望していた節さえありました。」
「ならどうして?」
「やはり、鳥人という存在がネックでしたようです。人間と鳥人が共存しているのが、我が国を含めた周囲の国にとって、腰が引けざるを得なかったようです。」
「それが王様が変わってこっちの国の状況が変わったってわけか!」
ガロフさんが口を挟む。
「はい、そういうことです。この混乱してる時期だからこそ、早めに再構築された国の基盤を固めておきたいのです。今まで友好的だった他の国も、今回の件でどう動くか不透明な部分も多いですし。」
「なるほど……。」
外交って、結構難しいんだなぁ……。
今まではニュースを見て、外務大臣って大変そうっていう漠然とした感想しかなかったけど、いざその内情を聞くと、よりその困難さが肌で感じられる。
「ところで、」
と、そこでカエデが別の話を振る。
「ガロフさんは、私たちの件とは別件って言ってましたけど、それはどういった用件なんですか?」
「それ、気になる。」
「モミもー!」
女性陣から迫られて、ガロフさんは仕方なく(というか、ずっと言いたそうにウズウズしていた)話し始める。
「粘体だな。」
「粘体って、あのスライム?」
雑魚モンスターの代表格、スライムの名前をまさかここで聞くとは思ってもみなかった。
「兄ちゃんがどの粘体のことを言っているかはわからんが……。レングマーレのギルドに調査を依頼されたんだな。」
「調査の依頼?」
俺は首を傾げた。
白金級の冒険者に、わざわざ依頼するほどの由々しき事態が起こってるのか?
「通常の粘体は青色をしていて、『核』という部分を一撃すれば問題はない魔物だ。ただ、どうもレングマーレで最近見つけられている粘体はちょっと違うらしい。」
「ちょっと違う?」
「綺麗な桃色をしているそうだ。そして、特筆すべきは壊すべき核がないということ。」
「核がない粘体……!?」
アルマの目が驚きで見開かれる。
「核がないと何がいけないの?」
「おいおいモミっち。そりゃあ大変だぞ。なにせ、核がないと倒せないんだから。」
「だ、だからモミっちじゃなぁい!!」
いきり立つモミをガロフさんは軽くあしらう。
「それは深刻な問題ですね……。」
グラムウェル執事も眉をひそめる。
「幸い、今のところまだ数匹しか確認されていないみたいだが、その原因がわからないから調べて欲しいっていうのが、今回の依頼の内容だぜ。」
「倒せないなら、その確認された数匹は、レングマーレのギルドの方々はどうやって対処をされたんですか?」
カエデが訊く。
「とりあえずは、金属製の箱で捕まえたみたいだけどな。調査も始まったばかりだし、とりあえず完熟粘体と名前だけつけられたらしいぞ。」
完熟粘体……。
気になるが、とりあえずそっちは一旦ガロフさんに任せておこう。
「そろそろ、お昼にでもしましょうか?」
グラムウェル執事が言う。
言われてみれば、そろそろ太陽も高くなっている。
「あ、それなら私作りますよ!」
カエデが嬉々として反応する。
「俺も手伝うぜ。なにせ、副業はコックだからなぁ。」
ガロフさんも腕まくりをする。
正直、本業がコックな気がしないでもないけど。
2人がガサゴソと動き始めるのを見て、俺もブラウンに声をかける。
「ブラウン、次に開けたところがあったら止まってもらえる?」
「了解しました。」
俺の言葉に、礼儀正しくブラウンは答える。
それを見てグラムウェル執事が驚く。
「動物と話せるんですか!?」
「えぇ、まあ……。」
「それはすごいですね!!」
予想以上に良い反応をもらえた。
素直に褒められて俺も鼻が高くなる。
「これは魔法で……、ん?」
気分良く説明を始めようとしたとき、俺は服の端を誰かに引っ張られた。
「はじめる。」
「え?」
俺の横には、ニッコリと笑ったアルマがいた。
まさかねー。もうそろそろご飯だし……。
「はい、遅い。」
「!?」
期待虚しく、俺の背中に痒みが襲う。
「痒い!……っと、この中で……?あー痒い!!」
「狭い中でも、コントロール。」
アルマはにべもない。
そこからしばらくの間、馬車の中で俺の悶絶する声が響いたのだった。
いつもありがとうございます!




