第30話・真相と狂気
突然の年齢指定の詳細は活動報告の方に書いたので、そちらを見ていただければ幸いです。
では、年内ラストの本編どうぞ。
「いやぁ、面白いものを見せてもらったよ。」
わざとらしくパン、パンと拍手をするタクミ。
いつの間にか額に張られていた青筋は消えている。
「それじゃあ、次は僕の番かな?準備をしてくるからちょっと待っててね。」
そう宣言すると、タクミの姿は瞬時にVIP席から消えた。
「さっすがキョウ君!!凄いわねぃ♡」
観客席から男モノの嬌声が飛んでくる。
「『水環』!」
俺は今のうちにアルザーヴの拘束をしておく。
「しかし、あやつは何がしたいんじゃ……?目的が見えんのう……。」
ピリオン東街長の呟きは、フィールドにいる俺の耳にも届いた。
言われてみればそうだ。
タクミたちに俺と戦うメリットはないはず……。
俺たちが侵入するのがわかっていたなら、アルザーヴに俺たちを案内させる時点で、適当な理由をでっちあげて捕まえてしまえばよかったはずなのだ。
『全ての首謀者だよ。』
タクミの言葉が耳に蘇る。
そもそもあの時点で自白をする必要があったのだろうか。
カエデが侵入に成功したとはいえ、まだ俺たちが何も証拠を掴んでいないあの状態で。
ジャラン。ジャラン。
と、俺がそう考えているうちに、向かい側の暗がりから嫌な金属音が響く。
鎖を引きずる音……?
「お待たせ。」
そして、姿を現したタクミの横には、ここに来て一番見たかった顔があった。
「カエデ!!」
「キョウさん!!ごめんなさい、私のせいで_______!!」
「おっと、会話は認めてないよ。」
タクミがカエデの口を塞ぐ。
カエデの首から伸びた鎖は、2人が出て来た暗がりの奥にずっと繋がっている。
「タクミ……!!」
「フフ、そう怒らないでくれよ。これはゲームなんだから。」
「ゲーム?何がゲームだ、そんなことをして!!そもそも、お前はもう終わりだ!こんなことまでして、許されると思ってるのか!?」
俺は怒りのままに叫ぶ。
「あー、そのこと?別に、僕は許されたいなんて思ってないし、ましてや捕まりたくないなんて思ってもないよ。」
「……何を言うんだ?」
唐突な告白に俺は思わず動揺を露わにする。
捕まりたくないなんて思ってない?
ってことは、捕まってもいい?
そんな馬鹿な……。
「そもそも、僕がこんなこと……、あ、まず何をしてるのか詳しい説明をしてなかったね。それじゃあそこから説明するよ。」
よくわからないが、どうやら、タクミは説明する気になったらしい。
隣にいるカエデが気がかりだが、俺は目でもう少しだけ待ってくれとカエデに伝えて、タクミの話を聞く態勢をとった。
「どこから説明しようかな……。んーと、じゃあ僕がこの世界に転生する前のことから話を始めようか。」
微笑みさえ浮かべながら話を始めるタクミ。
「僕は、向こうの世界では冴えない高校生だった。成績もそこそこ、運動もそこそこ。そんな普通の僕が格好の標的に見えたんだろうかな?特に何も目立った行動はしてなかったはずなのに、入学して半年が過ぎた頃から、僕に対していじめが始まったんだ。」
「お涙頂戴の話を聞かせたって今更お前を許したりはしないぞ……。」
「あ、その辺は安心して。別に同情を誘いたいってわけじゃないからね。」
タクミはそうあっけらかんに言ってのける。
「この時代に古風な感じだけど、靴箱の中に大量に画鋲が入ってたりとか、体育館用のシューズがびしょびしょに濡らされたれとか……。いつか終わるからと思ってとりあえず放置してたけど、でもそれでもやっぱり結構精神的にこたえたよ。」
重い話なのに、いまだ薄ら笑いを崩さず話すタクミに、俺は背筋に寒いものを感じる。
「で、だんだんムカついてきたから、何か復讐の方法はないかなって探してたら、ある時いじめグループの1人が階段で転んでね。頭蓋骨を骨折するっていう大怪我を負ったんだ。」
「……それがどうしたんだ。」
「丁度僕はその場所にいたんだけどね。……いやぁ、びっくりしたよ!人が痛みに苦しむ声が、こんなにも快感に感じるなんて!!」
突然大声で叫ぶタクミ。
俺は、突如タクミの目が爛々と輝き始めたように感じた。
「その時僕はいい復讐の仕方を思いついた。とりあえず、そこから数ヶ月はひたすら体を鍛えた。鍛え終わると、今度はいじめてたやつらに決闘を申し込んだ。僕のことを弱いやつだとたかをくくってたみたいだからね。連中は簡単に僕の提案を受け入れたよ。」
うっとりとした表情でタクミは続ける。
「いやぁ、今思い出してみても最高だったよ。腫れ上がった顔面でのたうち回る連中の声。それ以来、連中は僕をいじめてこなくなった。」
一転悲しげな表情をするタクミ。
「それは嬉しかったけど、それを口実にすることができなくなった。僕は日々悶々としてたよ。だから、こっちの世界に転生してこられたことは、本当に好都合だった。」
「やめて!これ以上はいいわん!」
上方から悲痛なカミュの声が響く。
しかし、それを意に介さずにタクミは続ける。
「転生して、僕には力があることがわかった。どうしようか、何日も考えたよ。それで、名案を思いついたんだ。」
「それがこの状況ってわけか……。」
俺がそう漏らす。
お腹から空気を絞り出す。
そんな感覚がした。
「そう!!まずはこの力を使って僕は地位を得た。地位を得てからは、この世界で蔑まれている獣人という存在に着目したんだ!獣人たちがいなくなったところで、誰も悲しまないからね。捕らえて、ここの闘技場で決闘をさせる。そうすれば、僕は安全な位置であの最高の悦楽を味わうことができる!」
タクミの目が異様な光を帯びる。
「だから、部下を使って地下にこっそりこの闘技場と、獣人たちを捕らえておく牢屋をつくったんだ!」
常軌を逸している。
もはや、タクミはそうとしか形容できなかった。
「よくそんな狂った考え方で、おぬしの部下たちはおぬしに追従したのう!」
「追従したさ!みんなもこの闘技場での闘いに興奮してたからね!どうして古代ローマにコロッセオはあった?昔から人は人が苦しむ姿が見たいんだ!!」
ピリオン東街長の怒鳴り声に、間髪入れずに興奮した様子でタクミが反論する。
もうカエデの口を押さえることも忘れてしまっている。
「……あぁ、コロッセオなんて、君たちは知らなかったね。ごめんごめん。……とにかく、僕はこうして自分を満足させられる場所をつくったんだ。」
冷静さを取り戻してタクミがそう言う。
ここではじめて俺はアルザーヴを倒した時の、タクミの青筋の意味を思い浮かべる。
やつは部下が倒されて怒ってた訳じゃない。
興奮してたんだ。
だけど、まだわからないことがある。
「なら、どうして俺を呼んだ?」
「あぁ、そのことね。」
タクミがこともなげに言う。
「いまいち満足感が足りなかったんだ。獣人どうしの闘いを見ても。それで思い出したよ。一番最初に快感を覚えたあの時のことを。」
すっかり冷静になったタクミが続ける。
「僕をいじめてたやつ……、すなわち、強いやつ。そんなやつの声だったからこそ、僕はあのゾクゾクとした快感を感じたんだ、ってね。」
「だからあなたはキョウさんを……。」
こらえきれずにカエデが口走る。
タクミは横目でチラリとカエデを見るが、特に咎めはせず話し続ける。
「獣人たちはそんな強くなかったし、僕が闘ったこの王国の兵たちもそんなにだった。だけど、転生者なら話は別。アルザーヴにやらせてみたけど、やっぱり本当に興奮したよ!!アルザーヴに『花嵐』をくらったときの君の苦しげな声は最高だったよ!」
再びタクミは感情を露わにする。
「けど、こんなんじゃ終われないよ。こんな滅多にない機会、もっともっと楽しみたいんだ。まあ君と闘えるやつはもう他にはいないし、しょうがないから僕がでるしかないんだけどね。」
なるほど、それでタクミはこんな無駄死ともいえる作戦をとったのか。
「ということで、本題に戻るよ。僕とゲームをしよう。」
タクミがにこやかに言う。
「ゲーム?」
「なに、ルールはそんな複雑じゃないよ。このおしゃべりなコの鎖の先には、実は爆弾が繋がってるんだ。」
「……!!」
「この爆弾は、自動式で、徐々に鎖を巻きながらこっち側に近づいてくるんだ。タイムリミットは、5分くらいかな?それを過ぎると、このコにぶつかってこのコは一巻の終わりってわけ。解除の仕方はお楽しみで。楽しいでしょ?なんでって、できるなら本気で闘いたいからね。」
「なんたる非道を……!!」
ピリオン東街長が呻く。
「至近距離で爆弾が爆発したらタクミく……、あなただって無事じゃいられないわん!!」
「それは覚悟の上だよ!とにかく、始めるよ。それじゃ、爆弾起動っ!!」
タクミの声が無情にも響く。
「キョ、キョウさん……!!わ、わたし……!」
泣きそうな顔のカエデ。
その長い尻尾は、ピンと張られていた。
俺はそんなカエデと目を合わせると、深くゆっくりと頷く。
大丈夫、待っててくれ。
そんな気持ちを込めて。
「こいつを……ぶっ飛ばす!!!!!」
そう叫ぶと、俺はタクミに斬りかかっていったのだった。
今年ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
来年もお付き合いして頂ければ幸いです!




