第3話・トゥンクの街と初邂逅
ついに一人目でございます。
水の精霊様の泉で月狼の王であるゲルグと別れてから、数十分後。
俺は、トゥンクの街に着いた。
……なんで名前を知ってるかって?
……「探索」って万能だよね。
そこそこ大きな街らしく、入るための門には門番がいた。
「おい、そこの君。この街に何か用かい。」
あちゃー。やっぱスルーってわけにはいかないよね。何も言わずに入ろうとしたけど、あっさり門番さんに見咎められた。とりあえず適当に理由を言っときましょうか。
「俺の名前はキョウという。遠い他国から来たんだが、お金ももっておらず、困ってしまっていたところに、この街を見つけたんだ。この街にはいれば、助かるかもしれないと思い……。
あとこの街の偉い人に伝えたいことがあるんだ。」
「……なるほど、キョウ殿は名前から察するに遠い東国のニャホン出身か。それならお金がなくても仕方ない。向こうとここでは通貨が違うからな。…わかった。お前は悪い奴じゃなさそうだし、入ることを認めよう。……あぁ、ついでにこれをもってけ。少しばかりのお金と、もし偉い人に会うことになった時これを受付で出すと良い。こう見えて俺は顔が広いからな。お金は返して貰う必要はないぞ。人助けなんだからな。」
そう言って、ニヤリと笑う門番さん。
色々気になることは言ってたけど、ひとまず言えるのは、門番さんめっちゃ良い人じゃないですか。
お礼を言って、門番さんからお金の入った袋と、紹介状らしき紙を貰う。
さらに、その人の良い門番さんに、お金の稼ぎ方を聞く。
どうやら、異世界の御多分に洩れず、冒険者ギルドというものがあるらしく、そこで冒険者として登録し、依頼をこなせば1番手っ取り早くお金を稼げるらしい。
みんなを探すためにも、ここは冒険者として登録しといても損はないと思うし、その方法でいこう。
再び俺は門番さんに感謝の言葉を告げる。そうして、門番さんに笑顔で見送られながら、俺はトゥンクの街にはいっていった。
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トゥンクの街は、一言で言うと中世ヨーロッパ的な街並みだった。
多分、文明レベルもそんな感じなんだろうな。
門番さんに教えてもらった冒険者ギルドがある場所を目指す。
歩いている人や、店で人寄せの声をあげている人の顔は活気に満ちていた。普通の人間から、獣人らしき人まで、様々な人種の人がここにいた。どうやら、そういったものには寛容なところのようだ。
あーぁ、いい匂い。この匂いは何かのお肉かなぁ。そういえば、転生してからまだ何も口にものを入れてない。お腹が空くのは当然か。
空腹をこらえながら歩き、俺はようやくギルドにたどり着いた。
石造のその重厚な建物の中に入る。
と、中にいた人々が、一瞬一斉にこちらの方に顔を向けた。
やばいやばい、流石にまだ攻撃魔法の使い方とかわかってないから、新人に絡んでくる冒険者のテンプレイベントが発生しても対処しようがないぞ。
受付に向かう間、俺は内心ビクビクしていたが、幸いなことに俺に絡んでくる奴はいなかった。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付嬢が笑顔で話しかけてくる。
「冒険者登録をしたいんですが……。」
「わかりました。冒険者登録ですね。こちらの紙に、名前を書いてください。ひとまずそれで仮登録は完了です。一応、簡単な依頼を一つ我々からお願いするので、それをこなしたら正式に冒険者として認められることになりますが。」
「わかりました、大丈夫です。」
結構登録は簡単なもんなんだね。あっさりおできたことに俺は少し拍子抜けした。多分、基本自己責任だから、なるならないも自分の判断で決めてくれってことなんだろうな。試験的なものは、一応冒険者の品格にたるかどうかってとこかなあ。
俺は、受付嬢からだされた紙に、名前を記入する。と、俺はここで少し困った。字が書けないのだ。文章としてなら読めるのに、自分で書くことはできないんだよね……。
申し訳なくそれを受付嬢に伝えると、快く代筆を申し出てくれた。
ありがたくお願いする。
「はい、できました。キョウさんと言うんですね。ニャホンのご出身ですか?まあ、詮索はしないのがマナーですから、答えなくても別にいいですよ。って、聞いちゃった時点で詮索しちゃってますね。」
そうニッコリ笑う受付嬢。
笑い返しながら、俺はもう一つお願いをする。
「別に気にしてないんで大丈夫てすよ。あともう一つお願いがあるんですが……。この冒険者ギルドの1番偉い方に会いたいです。一つ、伝えたいことがあるんですが……。紹介状なら、ここにあります。」
そういって、俺は門番さんの紹介状を出す。
「ふむふむ……。これは門番のヴィーザスさんが書いてくれたものですね。あの方が薦めるなら安心です。……わかりました。いまギルド長に取次をしますので、少々お待ちください。」
待つこと数分、ギルド長の手が空いたらしく、俺はギルド長室に案内される。
ノックをして、ドアを開けるとそこには屈強な体つきの男がいた。
「おぉ、よくはるばるニャホンからここまできた。俺の名前はザグラス。このギルドのギルド長をやらせてもらってる。柄に合わないように見えるかもしれないがな。」
そういって、ザグラスさんはガハハと豪快に笑う。
俺も自己紹介をザグラスさんにしたあと、事情を説明する。
「なるほど……。あそこの泉は精霊の泉だったか……。祠があったから、なんらかの話はあると思ったが……。わかった。ギルド長として、冒険者たちに伝えておこう。あそこに行くのは冒険者たちが大半だからな。あと一応トゥンクの市長にも話を伝えとく。」
「ありがとうございます!」
これで、ゲルグとの約束は果たせたな。一安心一安心。
「ところで話は変わるが、君はついさっき冒険者になったらしいね。」
雑談の雰囲気になったザグラスさんが、そう言う。どうやら受付嬢に簡単に俺のことを聞いたようだ。さっきも俺がニャホン出身だってことも知ってたしね。まあ実際ニャホン出身ではないんだけど。
「はい。依頼を受けようと思っているんですけど、魔法の使い方がわからなくて少し困ってて……。」
「魔法の使い方がわからないなんてその歳になって珍しいな。それは困るだろう。私が教えてあげてもいいんだが、あいにく忙しくてな。代わりのやつは誰かいるだろうか……。」
むむむと考え込むザグラスさん。
「あぁ、一人いたぞ。暇そうな奴が。このトゥンクの街の1番東に向かうといい。そこにいるはずだろうからな。俺の紹介状を渡しておこう。」
「重ね重ねありがとうございます!」
これで俺も攻撃魔法が使えるようになるのかあ。どんなのがつかえるんだろう?
ザグラスさんと別れ、ギルドを後にしたあと、俺は言われた場所に着いた。
粗末な一軒家である。
「ごめんくださーい!」
俺は大声で叫ぶ。すると、中からドタドタと激しい音と何かを蹴っ飛ばしたような音のあと、一人の獣人が飛び出してきた。
「は、はい、なんでしょう?」
頭には茶色のフサフサな犬の耳。
そこから伸びる、ショートカットに切り揃えられた艶のある茶髪。
可憐な顔立ちをしたその女性は、しかし腰のあたりから伸びるふんわりとした尻尾が少々長かった。
俺は、その尻尾に見覚えがあった。しかし、尻尾がただ長いだけで偶然かもしれない。でも、俺は偶然では片付けられないほどの何かを感じた。いや、そんなまさか。しかし、疑う気持ちに抗えず、呆然として俺は尋ねる。
「……君はもしかして……カエデかい?」
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追記:微修正しました。