第4話・出会いと尻尾
「…君はもしかして…カエデかい?」
その言葉に、彼女は驚いたように目を見開く。
どうやらあたりのようだ。
カエデ。
それは、俺が一緒に暮らしていた柴犬の名前だ。
綺麗な毛並みの柴犬だったが、尻尾が他の柴犬と比べてかなり長かった。
それが気に入らなかったのか、彼女は道端でダンボールにいれられて捨てられていた。
こんなに可愛くて、まだ小さいのに、ちょっと変わってるってだけで捨てられている。
俺はそのことに憤りを覚えた。
まだ赤ちゃんだったカエデを俺は拾い、一緒に暮らすことにした。
はじめは、俺や他の動物たちに怯えるばかりであったカエデであったが、俺や動物たちが楽しそうにしているのを見て、やがて怖さがとれたようだった。また捨てられたくないと思ってたのかもしれないな。
俺の家での暮らしに慣れ、成長もしてくると、彼女は動物たちの中で一番のおっちょこちょいな娘になった。
あげたご飯を、後ろ足に引っ掛けて床にぶちまけるのは日常茶飯事。
俺が投げたフリスビーを華麗に空振り。
散歩中にはしゃぎすぎて水たまりに足を突っ込む。
そんなおっちょこちょいな柴犬がカエデであった。
「……もも、もしかして、ウキョウさんですか!?…あ…会いたかったです〜!」
「うわっとっと!」
そう言って、俺の胸に飛び込んでくるカエデ。
その勢いに、俺は少しよろける。
そのまま俺の胸で感極まるカエデ。
しばらくそのままにしておいてあげる。
数分後、彼女は涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげ、少しずつ説明を始めた。
「私もこの世界に転生してきて…、行くあてもなくこのトゥンクの街の近くの森を彷徨ってて…。そこで偶然近くを通りかかったザグラスさんに助けていただいて…。そこから冒険者ギルドに登録して今に至ります…。
もう私心細くて心細くて!うぅ、ウキョウさんに会えて本当によがっだですう!!」
ずっと我慢していたのだろう。そういって再び泣き始めるカエデ。
またカエデが落ち着くまで数分待つ。
長い尻尾をゆっくりと撫でてあげながら。
昔からカエデはこの特徴ある長い尻尾を撫でられるのが好きだった。
ようやく落ち着いたカエデに、俺は優しく話しかける。
「でも、よく1人でここまで暮らしてこれたね。人間のルールとか覚えるの大変だったんじゃない?」
「人間のルールはこっちに転生してきたときには、理由はよくわからないんですけど、頭の中でわかってたから大丈夫でした。あとはギルド長のザグラスさんが常に私のことを気にしてくれてて…。私にもできる依頼をまわしてくれたんです。」
なるほど…。獣人に転生したから、人間のルールも自然と頭の中にあったってことかな?
というか、カエデは俺よりもずっと前からこの世界にいるっぽいな。多分転生する時期はまちまちなんだろうね。
「なるほどね。あとで一緒にザグラスさんのとこお礼しにいかないとね。」
「はい!」
尻尾を撫でられて、すっかり元気になったカエデはニコニコして答える。
返事をするのに合わせて、耳がピコピコ動いていて可愛い。
「それで、ウキョウさんはどうして私のところにきたんですか?」
あぁ、そういえば、本来の目的があったんだっけね。カエデと会えたことが嬉しくて、忘れるところだった。
「魔法を教えてもらいたくてここにきたんだ。多分魔法は使えるとは思うんだけど、使い方がよくわからなくてね…。」
「なるほど、そんなことなら私におまかせください!ウキョウさんもすぐに魔法が使えるようになるでしょう!」
えっへんとない胸をそらすカエデ。
おっちょこちょいなカエデなので、俺は少し心配になったが、ひとまずまかせてみることにした。
「あぁ、頼むよ。カエデ先生。」
「…!!せ、先生なんてそんな…。」
かあぁっと赤くなって照れるカエデ。
俺に頼られるのが嬉しいみたいだ。
「ごほんごほん。では、近くの空き地に向かいましょう!ウキョウさん!」
そういうと、カエデは張り切って飛び出し、家の鍵を閉めずに歩き始めた。
慌てて呼び止めた俺に、決まりが悪そうに家の鍵を閉めたカエデは、俺と一緒に空き地へと向かった。少し早足になっていたのはご愛嬌として許してあげますか。
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追記:本筋とは関わらない細かいところを若干修正しました。




