第27話・作戦開始と嘘
東街、王都東門。
「はい、次の方どうぞー。」
今日もまた、王都への入場を求める人で門の前には長蛇の列ができていた。
東門の門番兵は、その列の長さに内心うんざりしつつも、粛々と検査を進める。
門番兵のもとに次に検査を求めにやってきたのは、目深にフードを被った1人の女性であった。
「王都にきた目的は?」
マニュアル通りに門番兵がその女性に尋ねる。
「観光です。トゥンクからきました。」
「トゥンクから……。結構遠かったでしょ?」
「まぁ、それなりに大変でした。」
ふふとその女性が苦笑いをする。
「それじゃ、なにか身分を証明できるもの持ってる?」
門番兵のその問いに、女性はふるふると首を振る。
「困ったね……。そうなってくると、入るには一応身体検査もしないといけなくなっちゃうんだ。万が一ってこともあるしね。」
「そうなんですか……。」
肩を落とす女性。
「それじゃあ、今回は一旦諦めることにします。」
そう言うと、女性はクルリと踵を返す。
その時、門番兵の目に、"普通の人間ならついていないもの"が女性についているのが映る。
「ちょ、ちょっと待って!!!」
慌てて門番兵は女性を呼び止める。
「あなた、もしかして獣人?」
フワリと長い尻尾を翻してその女性、カエデが門番兵の方を振り向いた。
「はい、そうですけど……。」
「それなら、ちょっと別の建物で話を聞かせてほしいんだ。いや、心配しなくていいよ。獣人は特別だからね。人間と違った検査が必要なんだ。」
怯えたような目をして、カエデはゆっくりとその要請に頷いた。
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「作戦をもう一回確認しておくぞい。」
『カミュの宿』にピリオン東街長の声が響く。
「カエデ君が囮となって、わざと捕まる。そのためにまずは、おぬしらが入ってきた北門から一度カエデ君にはでてもらい、再度東門から入場してもらう。北門の門番兵にはカエデ君のことはばれてないんじゃろ?」
「えぇ、この冒険者バッジで難なく通ることができましたから。」
俺はその時のことを思い出しながら頷く。
「結構じゃ。東門で検査をする際に、カエデ君はわざと獣人であることを門番兵に見つけさせる。これで、カエデ君のミッションはひとまず終了じゃ。」
「ここからは、ワチシたちの出番ってわけねぃ♡」
ポキポキとこの宿のオカマ主人、カミュが指を鳴らす。
「って、カミュも参加するの?」
「あったりまえよぅ!ワチシ、こう見えて強いんだから♡」
厚い胸板をバンバンと叩いてそう言うカミュ。
……正直、俺より強そうなのは気のせいか?
「カエデ君には、この『紅糸花』の花を持たせておる。これはよく恋人同士が持つ花でのう。一個体で二輪花を咲かせ、その花同士は離れていても互いに引き合うんじゃ。」
ピリオン東街長はそう言ってその花を俺の手の上に載せる。
それは、細い糸のような花びらが無数に集まって、鞠状の花を形成していた。
言われた通り、たしかにじりじりと少し動いている。
「それで、カエデ君の位置を特定する。……といっても、おぬしは『探索』が使えるらしいのう。それがあれば問題はないとは思うのじゃが、念には念をということじゃ。」
俺は、そのカエデの命運を握るかもしれない花をそっとケースにしまう。
『探索』と『紅糸花』の二段構え。
これなら、大丈夫かもしれない。
「わしらが動くのは今日の夜。カエデ君の反応があるところへ向かう。まぁ、そこからはでたとこ勝負みたいなところがあるんじゃが……。とにかく、そこで秘密を暴き、獣人たちを助けるのじゃ!」
「ピリ爺は戦力に数えても大丈夫よねぃ?」
俺の顔を横目で見つつ、カミュが含み笑いをしながらそう訊く。
「当たり前じゃ!こう見えても、昔はこの国随一の魔術師と言われた実力、いまだ廃れてはおらんわい!『探索』は使えないけどのぅ……。」
最後の方にいくにつれて声が小さくなっていくピリオン東街長。
「とにかく!!決行は今日の19:00!またここに集合じゃ!!!」
なかば捨て鉢気味なその発言で、最終確認はお開きとなったのだった。
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「ふわぁ……ウキョウおはよー……、あれ、カエデどこいったの?」
もう昼だというのに、やっと目覚めたらしいモミが、寝ぼけ眼で俺にそう訊く。
はてさてどうするか。
今回の計画は、モミにはまだ何も伝えていない。
できれば、モミを巻き込みたくはなかった。
ただでさえカエデが危険な目に遭っているのに、モミまでも危険に晒したくはない。
「あぁ、買い物に行くって言ってたよ。夜には帰るから大丈夫だって。」
結局、俺はそう嘘をつくことを選択した。
「ふーん。」
気の無い返事を残して、モミがベッドに寝転ぶ。
これでいい、カエデが危ない分、モミには安全な場所にいてほしい。
ひとまず上手くいったようで、俺は胸をなでおろしたのだった。
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「19:00きっかり。作戦を始めるぞい。」
ピリオン東街長の声が響く。
ついに、作戦が始まる。
ドクンドクンという心臓の鼓動がいつもより大きく聞こえる。
緊張を抑えるように、俺はひとつ深呼吸をする。
大丈夫だ。
慎重に慎重を期して二段構えの策にしたんだ。
心配することはない。
しかし、何か見落としている気がして居心地が悪かった。
あまりにもすんなりいき過ぎている気がする。
そう、まるで喉の奥に魚の小骨がひっかかっているような、そんな気持ちが俺を不安にさせる。
俺たちはタクミのことを侮り過ぎている気がする。
一瞬、そんな気持ちが頭をもたげる。
「探索!!」
俺は、そんな迷いを振り切るようにそう叫んだ。
いまさら心配になったって仕方ない。
なら、やるしか道はない。
獣人たちを、そしてカエデを助ける。
それをやるだけだ。
王都の全体をカバーするマップが俺の眼前に出現する。
「すごいわぁ、キョウ君もこんなに大きな『探索』を使えたのねぃ。」
カミュが感嘆の声を漏らす。いつもより化粧は抑えめだ。
「それじゃあ、いくぞい。」
ピリオン東街長の号令で、俺たちは宵闇の王都へと飛び出していった。
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「ようやくか、待ちくたびれたよ。」
薄暗い地下の一室で、男の声が響く。
「楽しみだなぁ……。」
機嫌良さそうにそう呟くと、男はペロリと舌なめずりをしてどこかへ去っていった。
男の背後に残された机の上には、ジリジリと動く一輪の紅い花が置かれていた。
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