第26話・密談とカエデの提案
「って、結局ここですか……。」
俺は思わずぼやく。
ピリオン東街長に連れられてやってきたのは、ご存知、毒々しいネオンサインが目印の『カミュの宿』。
「文句を言うな、正直東街でここ以外でまともに内密の話ができるところがないんじゃ。」
ピリオン東街長がため息をつきながらそう言う。
「なるほど、小娘ちゃんは獣人だったのねぇ♡」
ちゃっかりオカマ主人も話し合いの場に同席していた。
「カエデも同席するかい?」
「は、はい!」
緊張で尻尾をカチコチに固めたカエデも含めて、俺たち4人の密談が始まった。
「それじゃあ、わしから詳しい状況を説明させてもらうとするかのう。」
ピリオン東街長が口火を切る。
「タクミとかいう転生者の所業は、カミュから聞いたじゃろう?いまだ行方不明になった獣人たちについての詳細はわかってないんじゃが……。」
そこで一旦言葉を切るピリオン東街長。
「しかし、わしらはつい最近、ようやく尻尾を掴むことができたのじゃ!」
「尻尾ですか……?」
無意識に自分の長い尻尾をいじるカエデ。
「あら、そっちの尻尾じゃないわよぅ、犬の獣人の小娘ちゃん♡」
「わ、わかってますよ!!」
カミュのいじりにムキになって答えるカエデを横目に、ピリオン東街長が続ける。
「どうやら、やつらには地下に秘密の施設があるみたいなんじゃ。」
「秘密の施設?」
俺は思わず鸚鵡返しに呟く。
なにやら大事の気配がしてきた。
「東街でも随一の魔法の使い手に、大型の索敵魔法を使ってもらったんじゃ。そいつはなかなか気難しいやつでのぅ……、今までは協力してくれなかったんじゃが、つい最近になって突然協力してくれるようになったんじゃ。」
「どうしてそんな突然協力してくれることになったんですか?」
カエデが疑問を呈する。
「ワチシたちにもよくわからないのよぅ。『近くで強大な魔力を感じた。やる気出た。』としか言わなくてねぃ……。」
カミュがそう首を傾げながら答える。
色々細かな疑問は残るが、とりあえず俺は本筋の質問を続けた。
「その人が使った魔法で、わかったっていうことですか?」
「そうじゃ。地下に無数の反応をやつは感じたらしい。……王都全域をカバーする索敵魔法を使えるのがやつしかいなかったから、ほんと助かったわい。」
ふーっと息をつくピリオン東街長。
「とにかく、わしらはその地下が怪しいとにらんでおる。王都の地下に施設があるなんて、聞いたこともないからのう。」
「なるほど……。」
状況はあらかた理解した。
しかし、問題はここからだ。
「それで、どうやって調べれば……?」
「そこがわしらにも悩みの種なのじゃ。例の魔導師も、これ以上はわからないらしいしのぅ。」
「ワチシたちの調べでも、まったくその施設の入口らしき場所はわからなかったしねぃ……。」
「うーん……。」
俺は腕を組んで考え込む。
しばらく、無言の時が流れた。
「あのー……。」
と、そこでカエデが何か決心した様子で声を上げる。
「なんじゃ、カエデ君?」
「あのー、私に1つ良い案があるんですけど……。」
「だめだ!!!!」
間髪入れずに俺はカエデの発言を遮る。
「ど、どうしたのよぅ、いきなりそんな怒鳴っちゃって……。一応、案を聞いてみてもいいんじゃないかしらん?」
「いや、絶対だめだ!!」
困惑したカミュのとりなしにも、俺は断固として反対する。
「なんでですか、キョウさん。」
カエデがこちらを見てくる。
強い意志がこもった、真っ直ぐな視線だった。
「カエデもわかってるだろ!?しようとしていることが危険だってことぐらい!!」
その目をしっかりと見て、俺は強い口調でそう言う。
他の2人は状況が理解できずポカンとした表情だったが、俺はカエデがしようとしていることがわかってしまった。
そもそも、最初からその考えは頭にあったのだ。
だけど、それを口に出すつもりは毛頭なかった。
むしろ、その考えから目を背けていたと言っていいのかもしれない。
だからこそ、感情的になる自分を抑えることができなかった。
「そんなことはわかってます!!」
負けじとカエデが声を張り上げる。
もはや、最初の緊張が嘘のようにカエデは話していた。
「でも、でも、私だって、辛い思いをしている獣人たちを助けてあげたいんです!キョウさんが私たちにしてくれたように!!」
カエデの声が響く。
目の前で突然始まった言い争いに、目を白黒させていたピリオン東街長がここで割ってはいる。
「事情はわからんが、落ち着くのじゃ。ひとまず、カエデ君の意見を聞いてからでもいいじゃろ?」
カミュもうんうんと頷いている。
少し冷静になった俺は、腕を組み直し黙りこくる。
落ち着きを取り戻した場に、カエデの声が流れ始める。
「キョウさんの気持ちもわかります。」
いまだその視線は俺の目に向けられたまま離れない。
「私がやろうとしていることが、どれだけ危ないかってこともです。」
「ならっ……!」
「だから」
ニッコリと笑うカエデ。
「だから、なにかあったらキョウさんがまた私を守ってください。」
そう言うと、カエデは視線を他の2人に転じ、こう宣言する。
「私が、囮になって捕まります。」
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ベッドにはいっても、その夜はまったく寝付けなかった。
俺は寝ることを諦めて、天井を見つめる。
あの後、カエデの意見が2人に認められて、あれよあれよのうちに作戦が立てられ、明日にも作戦を始めるということが決定された。
その後、カエデと話はまったくしなかった。
戻って何事かと不思議がるモミを横目に、俺たちはさっさと食事を済ませ、早々に床についた。
どうしてカエデは急にあんなことを言ったのだろうか。
……思えば、カエデは前の世界の頃から一本気な気質があった。
雨の日でも散歩に行くと決めたら行こうとしてひかない。
モミとはよく喧嘩をしたが、周りで他の動物が喧嘩をしていたら率先して止めに入る。
昼に見たのはそんな時いつも見たカエデの目だ。
まるで大木のように揺るがぬ目。
強い意志が感じられる目。
俺は寝返りをうって、横を見る。
そこには、穏やかに寝息を立てるカエデの顔があった。
そっと、起こさぬように俺はその頭を撫でる。
フワフワした耳に俺の手が触れる。
「んー……。」
カエデが気持ちよさそうに喉を鳴らす。
『辛い思いをしている獣人たちを助けてあげたいんです!!キョウさんが私たちにしてくれたように!!』
『なにかあったら、またキョウさんが私を守ってください。』
昼のカエデの言葉が頭の中で反芻する。
助けたいけど、助けてほしい。
矛盾をしているようなそれらの言葉は、カエデの心を映しているようだった。
俺はもう一度カエデの頭を撫でる。
「キョウさん……。」
寝言でカエデが俺の名前を呼ぶ。
やって欲しくないのは山々だ。
でも、カエデの意志は固い。
それなら、できる限りのことをする。
獣人たちはもちろん、カエデも絶対に守る。
腰のあたりを寝ぼけたモミに蹴られながら、そう決意した夜であった。




