第17話・アルビノと動物園
「モミ!カエデ!2人とも出会って早々喧嘩はやめい!!」
俺がそう叫んだ瞬間、取っ組みあっていた2人が動きを止める。
「ごめんなさいキョウさん….。でもついつい….」
カエデがしょげ返る。
その横でサルの獣人の白髪少女、モミが何かに気づく。
「もしかしてその怒り方….。姿はちょっと違うけど….。うん、でも間違いない!ウキョウだあ!」
そう言って俺のところに飛びついてくるモミ。
やっぱりモミはあのモミか….。
全身でその体重を受け止めながら、モミとの出会いを俺は思い出していた。
はじめは、こんなにもやんちゃな娘ではなかった____
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「うぉお….、すげぇ数のサル….」
その日俺が訪れていたのは、千葉県郊外のある寂れた動物園であった。
動物に惹かれる体質である俺は、すでに沢山の動物たちが家にいたが、こういった動物園にいる動物たちを見ることも好きだったから、ちょくちょくこうして様々な動物園を訪れていた。
「しかしまぁ管理がちょっと悪いなこの動物園….」
俺はそう呟く。
前日の食事だろうか、しなびた野菜が置いたままになっている。
サルたちが出した排泄物もそのままだ。
ほどなくして、俺の前には沢山のサルが集まる。
しかし、一匹だけ俺の元に近づいてこないサルがいた。
そのサルは、体全体が美しい白色の毛に覆われていた。
「アルビノ….」
俺はキーキー言っているサルたちを尻目にまた呟く。
アルビノ。
それは、体内で色素を合成する遺伝子に異常が起こり、全身の毛の色が抜けてしまう個体のことを表す。
普通、アルビノの個体がいれば、その動物園はそれを一目見たさに多くの客が集まってくる。
しかし、この動物園にその傾向はない。
その理由は明白であった。
そのサルの存在感が恐ろしく希薄であったからである。
今、俺の前でもそのアルビノのサルはサル山の最奥地で縮こまっている。
おそらく、普段からも周りの他のサルに紛れたり、サル山に用意された穴の中にいたのだろう。
偶然近くを飼育員らしき男が通ったので、俺はそのアルビノのサルについて訊く。
「あのサルって、アルビノですよね?」
俺がそういうと、何故かその飼育員の男は忌々しそうに答える。
「あぁ。….っち、いつもこうやってでてきてくれりゃあなあ。」
客への横柄な対応に少し腹を立てながらも続けて俺は訊く。
「あはは….いつもはやっぱりでてこないんですか?」
「あぁ、なんで今日ばっかはあの穴から出てきてやがるんだ….。あの時ももっとでてきてくれりゃあなぁ、あーあ!」
そういって近くにあった柵を荒々しく蹴ると、その飼育員の男はどこかにいってしまった。
あまりの態度の悪さに開いた口が塞がらない俺。
その日はもう動物園を見て回る気分にはなれず、家に帰って飼育員の男が言っていた「あの時」のことをネットで調べてみることにした。
『世にも珍しき白色のサル!?』
はじめに見つけたのはそのネット記事であった。
カップラーメンをわびしく啜りながらその記事を横目で見る。
哀しきかな、自分の食事よりペットたちの食事の方が豪華な人の典型例である。
その記事はこう続いていた。
『千葉県にある、『寿々目動物園』に珍しいアルビノのサルがいることがわかった。アルビノとは、先天的に色を失っており、そのほとんどが白色をしているという不思議な個体だ。その珍しき白いサルを一目見ようと最近この動物園に注目が集まっている。SNSでこの情報が拡散されたのがきっかけのようだ。取材に対しこの動物園の寿々目園長は、「注目が集まっているのなら嬉しい」と笑顔で述べた。』
ふむ、これが人気がでたきっかけって訳か。
しかしそれがどうして今では見にくる人がいないのか….?
俺はさらにネットで調べる。
そして、それは話題の発端ともなったそのSNSに理由があった。
『せっかく見にいったのに、白いサル見れなかったんだけど。ほんとカネの無駄。』
『白いサルなんてほんとにいる?普通のサルしかいなかったわ。』
『俺は白いサルちらっと見えたけど、もっとしっかり見たかったな。』
白いサルでそのSNSでキーワード検索をかけると、わらわらと不満の声がでてきた。
なるほど、あのアルビノのサルが穴に引きこもって全然でてこなかったから、そのまま人気がフェードアウトしていったってわけね。
この頃は俺も会社でプロジェクトリーダーを任されていたため、この騒動に気づくことはできなかったってことか。
さらにネットで調べる。
また別の記事を見つけた。
『白いサルを見てほしい 〜園長の願い〜』
タイトルはこうつけられていた。
『1ヶ月前、SNSを発端として話題となった白いサル。しかし、そのサルはいつも穴の中に引きこもってしまい、不満の声が客から渦巻いている状況に今はある。この状況をどう思っているか、その白いサルがいる寿々目動物園園長の寿々目さんに話を聞いた。』
下にスクロールすると、寿々目氏のインタビュー記事が載せられていた。
〜園としては、この事態をどう見ていますか?
→誠に遺憾であります。皆様に見ていただくための動物園なのに、見れないという状態になってしまい本当に申し訳ございません。
〜何か対策は講じたんですか?
→穴を塞ぐという方法をとってみましたが、そうすると彼女….あぁ、あのサルのことなんですが、寝床から出てこようとしないんですよ。それならまだみることが可能にしておいた方がいいなと思い元に戻しました。
〜不躾で申し訳ありませんが、最近経営状況が芳しくないと聞いたんですが、この騒動の影響もあるんですか?
→(寿々目園長苦笑)….まぁ、この騒動の影響を否定することはできませんね….。それでも頑張るだけですが。
〜最後に今の率直なお気持ちを聞かせてください。
→どうにかしてお客様にこのサルを見せてあげたいなと。その一心です。
インタビュー記事はそこで終わっていた。
ここまで調べてきて、俺は2つの疑問を覚えた。
ひとつは、どうしてこのアルビノのサルがいつまでも『白いサル』『あのサル』など、名前で呼ばれていないのか。動物に強い愛着を持つ俺は、まずそこに不思議に思った。
そしてもうひとつは、疑問というほどではないけど、この園長の寿々目氏とやらがサル側のことを考えず、ひたすら利益を求めていることについて気になったこと。
何か俺の中のレーダーが反応している。
明日、有休をもらって園長に会って話を聞いてみよう。
俺はそう決意した。
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