第16話・出発とバナナ
王都に向けて出発するのは、夜になってからと決めていた。
その方が悪目立ちしないからだ。
「気をつけていくんだぞ。道中は魔物の危険が多い。夜は灯りをつけると逆に寄ってくるから、出来るだけつけないようにしたほうがいい。」
見送りに来てくれたザグラスさんがそう助言してくれる。
ミラン⇔ザグラスの謎のホットラインから、夕方のことは聞いているはずなのに、そこに触れない優しさが身にしみる。
本当に、優秀なんだけどなぁ….。
返す返すも口の軽さだけが惜しい….。
「ありがとうございます。では俺たちはこれで。」
「今までほんとうにありがとうございました!!」
少し回復したカエデもお礼を言う。
俺は、ザグラスさんと握手を交わす。
数秒互いの視線が絡み合う。
そして、互いに無言のままそれはほどける。
本当に伝えたいことは他にあったはずだ。
この街の獣人たちのためにザグラスさんが計らったのはミランさんから聞いている。
だから、獣人たちに対するあたりが厳しいのも当然知っていたに違いない。
もしかすると、新参のカエデをいろいろと補助してくれたのも、そういった意図があったのかもしれない。
カエデのことを頼む。
それがわかって欲しいからあえてザグラスさんは無言だったに違いない。
そして俺もあえて無言のまま握手をした。
ザグラスさんの考えていることがわかっていたからだ。
俺たちは馬車に乗り込む。
美しい白毛をした馬がいななく。
そして、馬車が動き出した。
小さくなるザグラスさんの姿は、見えなくなるまでそこを動くことはなかった。
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門には、入ってきた時と同じ門番さんが立っていた。
「キョウ殿じゃないか!立派な馬車をもってどこにいくんだ?」
朗らかに話しかけてきた門番さん。
「今から王都に行きます。入るときは本当にありがとうございました。」
「そうなのか、気をつけていけよ。….おっと、これは餞別ってことで。」
そういってニヤリと笑う門番さんから1枚のコインをもらう。
この人がいなければ俺はまだこの街の中に入れていなかったのかもしれない。
「本当にありがとうございました!!」
「いいってことよ。気をつけていきな。」
そう言って笑う門番さんに見送られながら、俺たちはついにこの優しさ溢れる街、トゥンクから旅立っていったのであった。
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俺の『宵斬り』がうなる。
「ブーー!」
黄色の豚が断末魔を残して倒れる。
「もう….。ほんと魔物がこの辺多いですね….。」
カエデがそう嘆く。
「まあしょうがないよ。あんまり人の手も入ってないみたいだしね。しかも、『会話』を使ってもまともに話が通じないし。」
俺がそう苦笑しながら答える。
俺たちは今襲いかかってきていた黄色の豚、『黄華豚』の大群の最後の一匹を倒したところであった。
トゥンクの街をでてから2日目。
俺たちはひたすら東に向かっていた。
「探索」は時折発動させてはいるが、こうした魔物の来襲はその合間を縫ってやってくる。
害がないならできるだけ魔物を倒すことはしたくない。
そのため、何回も「会話」を使ってはみたが、どの魔物も興奮状態で話なんか通じない。
魔物の個体間の知能差も関連しているのかもしれない。
結局。トゥンクをでてからもう複数回戦闘を行っていた。
「というかキョウさん!この豚さんたち凄い良い匂いがしますよ!」
「どれどれ….、む!?この芳しい香りは….!?」
「「バナナの匂い!」」
俺とカエデはハモる。
カエデが大分元気になったことに俺はひとまず安心をしていた。
元気のないカエデは、見ているこっちも辛い。
「食べれますかねぇ….」
スンスンとなおも匂いをかぐカエデ。
それはやめときなよとカエデを諌めてから俺は「探索」をまた発動させる。
「まだこれで半分か….ん?」
道のりの長さにため息をついていると、なにやら緑色の点がこちらに向かって近づいてくるのが見える。
何回も使うことで、「探索」で表される人や生き物には3パターンあることがわかった。
青は自分や味方。
赤は敵や悪意を持っている者。
そして緑は敵か味方か今のところは判断できない中立の者。
そんな未だ立場がはっきりしていない人、もしくは魔物が俺たちのところへ近づいてくる。
「カエデは一旦馬車の中に戻って。もしかしたら敵が近づいてるかもしれないから。」
カエデに注意を促す。
そして、みるみる緑色の点が近づいてくる。
すでにうっすらと視認できるレベルには近づいてきていた。
「バ……のに………がす……!!」
ん?なにか叫んでるのか?
「バナ….のにお….がするぅぅ!!」
どうやら同じ言葉を繰り返し叫んでいるみたいだ。
「バナナのにおいがするのにバナナがないよ!!バナナはどこなの!??」
そうして目の前に現れたのは、カエデと同じくらい長い尻尾を持ち、そして大きな耳が特徴的な小柄な少女であった。
緋色が鮮やかな目をもち、真っ白な髪色をしている。
こっちには目もくれずにそこら中を探し回っている。
なんなんだこの状況….
「むむ!君達がモミのバナナを食べたね!!この恨み晴らすまじ!!」
「っとぉ!!」
突然殴りかかってきたその獣人を慌てて避ける俺。
やばい。
食べ物の逆恨み怖すぎる。
ってちょっとまって。
今この獣人、自分のことをモミって言った?
「あなたキョウさんになにしてるんですか!」
馬車の中で様子を伺っていたカエデが止めに入はいる。
と、瞬時にカエデとそのモミと名乗る獣人の少女が動きを止める。
「まさかそのにおい….」
「あなたこそそのにおい….」
そう2人がつぶやき合う。
そして突然その2人が取っ組み合いを始めてしまった。
おいおいなんなんだよもう….
急展開すぎてついていけない…,
でも俺の予想が正しいならば、もしかしてこの子は….
「モミ!カエデ!2人とも出会って早々喧嘩はやめい!!」
俺はそう叫んだ。
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