第12話・料理と追及
白金級。
それは、この世界に今のところ3人しかいない冒険者たちの雲の上のような存在。
最強の誉れを一身に背負う存在。
なのに….
「「そ、そんな人がなんでこんなところに….!?」」
俺とカエデは見事にハモりながら叫ぶ。
「ん?あぁ、俺は料理が趣味なもんで。こうして暇な時は店を開いてるんだわ!!」
そう言ってそんなことかとハハハと笑うガロフさん。
確かに熊に似てて、ガタイはめっちゃいいけど、こんなところに果たして数少ない3人のうち1人がいるものなのか?
隣を見ると、カエデが口をパクパクさせているが、そこから音はなにもでていない。
カエデも驚愕の極みにいるようだ。
「まあまあ、とにかく兄ちゃんら食事に来たんだろ?とりあえず、そこに座ってくれや!」
あれよあれよと数分後。
何も頼んでいないのに、ガロフさんが料理をもってくる。
「看板にも書いてあっただろ?うちは料理メニューもきまぐれだからな。ってことで、今日はこいつだ!!」
そう言ってドンっと大きな皿を俺たちの机に置くガロフさん。
その皿の上には、米が詰まった黄緑色のイカがテラテラと照り輝いていた。
「これは….?」
終始勢いに圧倒されっぱなしの俺が力なく訊くと、ガロフさんはニヤリと笑って、
「『萌葱大烏賊飯だ。冷める前に食べてみぃ!」
目の前の食欲を減退させるような奇怪な色をしたイカからは、どうしてかとても芳醇な香りが漂っていた。
やばい。白金級のことを訊きたいけど、ずっと食べてなかったせいでもう我慢できない….。
とりあえず一口だけ….。
カエデも同じ結論に達したらしく、俺たちは一緒に一口分口の中にいれる。
!!!!!!!!!
「「うんんんまーーーーーい!!」」
俺とカエデは再びハモる。
これは向こうの世界と合わせてみても、過去最高に美味い食事じゃないか!!!
もう俺たちは夢中になって食べ始める。
奇怪な色をしたイカは普通のイカとはまた違った独特な歯ごたえをもち、噛めば噛むほど濃厚な旨味が滲み出てくる。
中に詰められた米にしたって、何か味わい深い調味料で味付けされているのか、舌の上で複雑な滋味を広げる。
その二つを一緒に口の中に入れれば、もはや口の中に理想郷が広がるといっても過言ではない。
「こいつぁ俺が今日の午前中に捕まえて来たやつだ。海じゃなくて草原にいるっつー珍しいイカだ。草原でフヨフヨ浮いている割に、逃げ足だけははやくてな。大変だったぜ!ハハハ!!」
そう得意げにカウンターで話すガロフさんを尻目に、お腹が空いていたのも手伝ってか、俺たちはものの3分ほどでそのイカ飯を食べ終わった。
「ほれ。デザートだ。」
俺たちが食べ終わったのを見計らって、ガロフさんがデザートをもってくる。
「氷樹果のパイって名前でいくか!」
目の前に差し出されたのは、一見なんの変哲も無いパイ。
しかし、そこからただよう芳香にもはや抗う術を俺たちは持ち合わせていなかった。
ガブリとかぶりつく。
中には火傷しないギリギリの絶妙な温かさで何か果物のソースがはいっている。
イチゴとラズベリーを合わせたようなそんな味の濃厚なソースを舌の上に転がす。
お!実として形が残ってるやつもある!
若干はしゃぎながらそれを噛む俺。
シャリ。
俺は目を見開く。
….なんということでしょう!その実の中がシャーベット状になっているじゃありませんか!!
心の中で某建築番組のような口調についなってしまいながらそれを噛みしめる俺。
「その氷樹果の実っつーのは不思議なもんでな、どんな環境にあっても、形として残っている実の中身はすべて凍っているんだぜ!!ハハハ!!驚いたろ?」
そう言うガロフさんに、ぶんぶんと2人して首を縦に振る俺たち。
あっという間にそのデザートも平らげて、食後のコーヒーを頂いて、ようやく俺たちは一息をついた。
「とても美味しかったです。今までに食べたことないくらいに!」
「それは俺にとって最高の褒め言葉だぜ!ハハハ!!」
ニッコリとそう言って笑うガロフさん。
ふぅ…、こんな美味しいお店があるなら、案外トゥンクをでなくてもいいかもしれないな。
って、流石に冗談だけど。
しかし、一瞬本気で考えてしまった。
やばいやばい。
というか、あれ?
またなにかを見落としている気がする….?
「ところで、不躾で申し訳ないのですが、ガロフさんが白金級って本当なんですか?」
その俺の見落としたなにかは、カエデによって唐突にガロフさんにもたらされる。
そうだった。この熊似の素晴らしい料理人が白金級とは謎すぎる。
というか、カエデ。口元にベッタリソースをつけたままだといまいち申し訳なさを感じないぞ。まあカエデっぽいから別にいいけどね。
「あぁ、ほらよ。」
そういってカウンターの奥にいたガロフさんから投げられたのは、冒険者バッジであった。
確かに、ランク表示が白金を示している。
「ガロフさんが白金級の冒険者ってことはわかりました。それでも、どうしてこんなところで….?」
「言ったろ?これは俺の趣味だって。ここでやってるのは、治安が良いのと、歯ごたえのある依頼が集まりやすいってとこだわ!」
そういってまた豪快に笑うガロフさん。
俺とカエデもつられて笑う。
「ところで兄ちゃん、一つ聞いてもいいかい?」
ひとしきり笑い終わった後、ガロフさんが何気なく尋ねてきた。
「えぇ、いいですよ。」
俺は気軽にそう答える。
「隣の彼女は最近この街でよく見かけるが….。兄ちゃんは何者だい?全く俺は見たことないのに金級とはどういうことだ?」
はっとして俺がその目を見ると、すでにガロフさんの目は料理人から冒険者のものへと変わっていた。
まずい、なんかよくわからないけど、怪しまれてる….
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