第11話・地獄ときまぐれ
次の日の朝。
一晩中カエデの尻尾を撫でてあげていたせいで、目の下を真っ黒にした俺は、すっかり元気になったカエデに引きずられるようにして武具屋に向かった。
鍛治師の姉御、ミランさんが指定した日まではまだ2日ある。
俺はいつまでもこのトゥンクの街、ひいてはミラドリア王国に留まるつもりなど毛頭ない。
各地に散らばった俺の仲間たちに会いたい。
そのためにも、事前の準備は必要であった。
必要であったんだけれども….
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「キャーーー!!この人形すごいです!ふわふわしててとても可愛いです!!」
カエデがさっきからこの調子で小一時間目をキラキラさせながらそう広いとは言えない道具屋の中を歩き回っている。
「….あのー、カエデさん。さっきから見てるだけで何も買ってないんですが….。」
それなのだ。
恐ろしいことに、カエデとも俺はまだ一文足りともお金を払っていない。
そう俺が遠慮がちに言うと、カエデは突然目を怒らせて俺の方に向いてきた。
「もうっ!!キョウさんはほんと女性の買い物ってやつをわかってないですね!こうしているのが楽しいんじゃないですかぁ!」
うぉっ。
もしかしてこれが世のカップルの男性が必ず直面する、「ウィンドウショッピング地獄」というやつか。
いやはやなんとも。
男性と女性の価値観の違いって恐ろしいね(棒)
昨日の一件からすでに疲れ切っていた俺は、この後も散々続くカエデの「ウィンドウショッピング地獄」に神経という神経をすり減らしながらもなんとか耐えきったのであった。
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「ふんふんふーん♪」
ホクホク顔でいっぱい荷物の袋を持ちながら鼻歌交じりに歩くカエデ。
対照的に、荷物を持ちながらも疲れ切っている俺。
あの後結局昼ご飯も食べずにぶっ通しでひたすらカエデに振り回されながら買い物をした。
俺は、疲れ切った体に鞭を打って、なんとか自分が必要としているものを数点買った。
もう疲れたから、それはおいおい説明するとして、
「カエデさんや….お腹は空いていないのかい?」
「あっ!!買い物に夢中で忘れてました!でも今考えれば結構お腹空いてます!」
おいおいおい….。
なんと恐ろしきかな、ウィンドウショッピング。
「….じゃあちょっと家に帰る前にご飯をどこかで食べていかないかい?」
「いいですね!!まるでこれはキョウさんと一緒にデートしてるみたいです….ごにょごにょ」
後半が少し声が小さくなって何を言っているかあんまりわからなかったけど、とにもかくにもカエデも賛成のようだ。
さてと、どこの店に行こう。
と考え始めた矢先、俺の目の前に粗末な建物のよこにある一つの看板が目にはいった。
『おやじのきまぐれ亭』
その看板には1番大きくそう書かかれている。
その下に小さく書かれた文字をさらに読む。
なになに?
営業時間不定、営業日不定、メニュー不定だって?
….ナンデスカコノミセハ。
流石「気まぐれ」と店名についているだけある。
少々興味を覚えた俺は、
「ここにしようか。」
そう言ってカエデを連れてドアの前に立つ。
幸いにも、今は営業しているらしい。
「開店中」とこっちの文字で書かれた板がドアにかかっていたからだ。
目の前の古ぼけた木のドアを開ける。
ギイッと音を立てながら俺たちはその「おやじのきまぐれ亭」に足を踏み入れる。
「へいらっしゃいっ!!!」
カウンターの奥から野太い声が聞こえる。
そちらを見ると、そこにはまるで、
「クマ?」
….そうカエデが言った通り、もはやクマにしか見えない大巨漢の剛毛男がそこにはたっていた。
「お!!兄ちゃんら、冒険者か!しかも金級じゃねえか!!しかし見ない顔だな!!ハッハ!俺としたことが、まだまだ知らないことがあるみてぇだ!おっと、名乗るのを忘れていたな。俺の名前はガロフ!一応、白金級の冒険者もやらしてもらってるぜ!!」
俺の胸元にある冒険者バッジを見てそう話すガロフさんという豪胆な料理人。
ん?何か大事なことを見落としているような….
確か彼は最後に….
「白金級の冒険者もやらしてもらってるぜ!!!」
えっと、白金級っていうのは、確かランク上最高位で、この世界にはまだ3人しかいないってザグラスさんが言っていたような….。
「どうぇぇぇぇぇぇぇ!!!!??!?!」
俺がその時出したその声は、トゥンクの街の最端にまで響いて聞こえたという。
ウィンドウショッピングの楽しさがあまりわからない作者です。




