前編
そこそこ良い家柄の生まれであるメリッサはマイペースな女性。
艶のある長い銀髪、整った目鼻立ち、軽やかでも軽すぎないほどよい深みのある声――意図せずとも見る者を魅了する才能を持っている。
しかしながらそれを活用することはせず、小さな頃から好きだった鉱物の研究にばかり意識を向けていて。周囲に愛されていることや異性から好意を向けられているといったことにはかなり鈍い。彼女にとっては鉱物が最も愛すべきものであり、自身のすべて。それゆえどんな魅力を持っていようともそれを使って得をしようという発想には至らないのである。
鉱物を愛し、鉱物を見つめ、鉱物について調べる――それだけがメリッサの生きがいなのだ。
だが、中には、それを良く思わない者もいる。
その代表は婚約者エリオンだ。
彼は自分の将来の妻であるメリッサが鉱物の研究に明け暮れていることを不快に思っている。
そんな彼はやがて。
「メリッサ、君との婚約は破棄とするヨゥ!」
関係の終わりを告げた。
エリオンは鉱物を研究するメリッサのことを悪い意味で変わり者だと思っている。そして自分の婚約者が変わり者であることに耐えられずにいる。どこにでもいるような、普通、平凡、皆と同じことを楽しみ皆と同じことを言って皆と同じような格好をしている、そういう女性とでないと一緒に生きてはいけないと思っているのだ。そうでなくては自分が恥ずかしい、それが理由。
婚約者の個性を受け入れる余裕が彼にはない。
「前から思ってたけどサァ……婚約者の趣味が鉱物の研究とかヤバいヨゥ! そんなこと言ったら馬鹿にされルゥ! だからもう無理なんダァ、ごめんだけど付き合いきれないヨゥ!」
「そうですか……そういうことなら、仕方ないですね。今までありがとうございました」
「は、ははっはっ、はああアァ!? 何それ強がリィ? うわっ、さっムゥ!」
「ええと……どういうことでしょうか」
「婚約破棄されて泣きそうなのに強がって平気なふりしてルゥ? そうだよネェ? そういうこと、だよナァ? うっわァァァ、きっつゥゥゥ」
エリオンはわざとらしく頭をかかえたり顔全体にしわを寄せたりして挑発的な動作をするがメリッサの心は乱れなかった――そのようなくだらない行為に乗せられるほど短絡的な彼女ではない。
「婆さんなるまで研究し続けて恥かくといいヨゥ! じゃ、バイバイ、ナァ!」
◆
婚約破棄されてからも鉱物の研究をコツコツ続けたメリッサは、やがて人間の寿命を延ばす特別な力を宿した鉱物を発見し、その発見によって一躍有名人となる。また、同時に莫大な富を築き、大金持ちになった。
その鉱物の件でありとあらゆる分野から共に研究したいという希望が殺到。
しかしメリッサは応じなかった。
なぜかというと、自分の研究を続けていきたいから、である。メリッサにとっては鉱物の研究がすべてなので、鉱物と無関係ではないとしても他の分野のことを研究することにはあまり興味がないのだ。
そんなある日のこと。
彼女の研究室に突然エリオンがやって来た。
「久しぶリィ! 元気みたいだナァ!」
「何しに来られたのですか……」
「メリッサ、金持ちになれたみたいだネェ? いいものが見つかって、ラッキーだったネェ! ま、そのくらい努力の成果じゃないけどサァ。でも、たまたま幸運に恵まれて良かったネェ!」




