覚え書き その9 メンデルの法則
主な登場人物
・海福ブレイド玲奈
主人公の高校1年生の女子。クルド人との「ハーフ」。現代の生物学で否定されている「群選択説」を信奉し動物集団と人間社会の類似性により自己へのいじめと差別を必要悪とみなし、受忍している。肉食を嫌悪しているが本人はヴィーガンではなくバターはOKなベジタリアンだと思っている。小学生のとき学校で飼育していた豚が死んだ責任を負わされて以来、豚に由来する蔑称をつけられる。
・津玉茉佑香
ブレイド玲奈の所属するクラスカースト上位グループのボス。小学生のころからブレイド玲奈をいじめるだけでは飽き足らず、新しく出来た彼氏との関係上、目障りになった元カレ「ジンベイ君」を押し付けようとする。スペイン人との「ハーフ」。
・ジンベイ君
身長が2メートル前後あるジャマイカ人との「ハーフ」。本名:蘭堂駿平太
人類の歴史を人間と人間の争いであり人間と自然の争いと捉える。中学時代のある出来事により目の前のいじめは恵まれた体格を生かし阻止しようとしている。中学時代の津玉によるブレイド玲奈へのイジメには気が付かなかった。
・大島タケル
由緒正しき日本生まれの日本育ちの日本人。ルッキズムを持つブレイド玲奈からイケメンと認識されている。小学生のころから一貫してブレイド玲奈の容姿を嫌ってイジメ ている。
「津玉と付き合っていた時は大変でさ、毎日、帰るのが反対方向のあいつを家まで送っていた」
屋上から玄関に行く際、蘭堂君は何かアタシを試したいのか無思慮な軽口なのか、わからないがドブスな元カノについての発言を繰り出した。アタシは聞き流していると2階と1階の階段の踊り場でまたしても会いたくない相手に会った
「蘭堂。おまえ、そんな奴とくっつくなんて趣味が悪いな」
TE〇U製韓流アイドル顔の大島である。今回は金魚の糞のような子分はおらず、そいつは多分校舎内を漂っているのだろう。
「似た者同士みたいなものだからくっついただけだ、趣味は関係ない」
何気にうちら3人とも同じ中学出身だが、蘭堂君とこの大島は大変仲が良く、津玉曰く射精の飛距離を中二坊のとき毎日校舎の屋上で競っていた(らしい)。
「お前らハーフが子供をつくったら4分の1で日本人か黒人が生まれて、2分の1でハーフが生まれるはずだな」
「エンドウ豆じゃあるまいし、そうはならないだろう。おまえ変なこと言うなよなぁ」
アタシからは攻撃的レイシストにしか見えない大島でも顔は笑っている蘭堂君には人種差別的な発言でもブラックジョークと受け流すだけの関係ではまだあるようだ。まあクルド人は黒人というのはどうかと思うし、蘭堂君も見た目はどちらかというとアフリカ系の「黒人」というよりネィティブ・アメリカンの血が流れるメスティーソに近いと思う。まあ在来種の日本人よりも肌の色が濃いなら「黒人」というならば蘭堂君もアタシも「黒人」ではある。
「12人子供ができたら日本人の少子化解消になるわけだ。まあ劣性日本人が9人もできるわけだ」
「そのへんにしておけ」
蘭堂君はアタシと組んでいた腕をほどいて胸の前で腕組みをした。だがレイシストはそんなんじゃ止まらず、心底蔑む目でアタシを見て言った
「おまえ父親がクルド人だった ろ 。犯罪者予備軍を量産してどうする。」
次の瞬間、蘭堂君の腕が大島の胸倉にまっすぐに伸びた。ここで蘭堂君が大島を叩きのめしたら、もしかしたら50%の確率で惚れたかもしれない。だが大島は瞬時に払いのけカウンターで蘭堂君の顔面を殴った。大島はボクシングか何かをやっているのでデカイだけの蘭堂より動きがいいようだ。殴られてジンベイ君はすこし後ろによろけ、鼻を抑えた。
「彼女の前でみっともないな。なあ親友?」
「なあ大島。お前が茶化していいのは俺だけだぜ」
勝ち誇ったというより蔑んだ表情をする大島に対してジンベイ君が負け犬の遠吠えをしているように見えてしまうアタシは性格が悪いのだろう。
「海福。ティッシュないか」
蘭堂は鼻を抑えていた掌をアタシに見せた。べっとりと血がついている。なんとなく気まずいこの場から脱する口実がひらめいた。
「やばくない、蘭堂。保健室に行こうよ」
アタシはジンベイ君の腕を引っ張り大島の脇を大急ぎで抜けた。大島の姿が見えなくなるところまで連れてくると
「この程度で保健室にはいかなくていい、血が止まった」
立ち止まってジンベイ君は言った。そういうそばから左右の穴から赤いのが垂れてきたのでアタシはティッシュをポケットから取り出して渡した。
「ありがとう玲奈、お前のことが大好きだ。」
両方の鼻の穴にティッシュペーパーを詰めた状態で言われたくないが、しようがない。
「アタシもです。蘭堂君。」
そう応えるとジンベイ君は噴き出して笑ったが、同時に半分血まみれのティッシュの塊が地面に発射された。ばっちいなあ。すまん、すまんと言いながらポケットから取り出した黒いハンカチで鼻を抑えながらティッシュを拾うネアンデルタール人へのアタシの評価は地に堕ちるどころか穴を穿った。
グダグダしながらもアタシらは校舎の玄関にたどり着いた。あまり彼のことは知らないが帰りの移動手段がお互い異なることくらいは知っているので蘭堂君に言った
「早く自転車とってきて、ここで待っているから。」
貧乏というより親が自転車購入費用を惜しまれているアタシは駅まで歩くが、蘭堂君は自転車通学しているはずである。のはずが、
「いや、最近、歩いて駅まで行っている。ついこの間、4月に買ったばかりのマウンテンバイクのチェーンが切れて転倒しそうになったので乗らないことにした」
そうですか、あなたについてアップデートできました。
「蘭堂の体重に耐えられなかったの」
「アメリカのメーカーが造っていて、説明書を読み返したら200kgまで耐えると書かれているからそれはないだろう。よくわからん。不良品だったかもしれないな。」
校門のところで別れる予定だったが狂った。
「それでこれからどうする?腹が減っていないか?駅前のどこかに寄って食べていかないか?」
蘭堂君が希望を聞いてくるがこれは彼の要望であろう。筋肉質の体は燃費が悪いというからしょっちゅう彼が帰る途中の駅前で食べ物屋から出てくるところを見ている。アタシは特にお腹が空いているわけではないが彼に合わせることにした。




