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覚え書き その8 オタクにやさしいオタクはいない。

主な登場人物

・海福ブレイド玲奈

主人公の高校1年生の女子。クルド人との「ハーフ」。現代の生物学で否定されている「群選択説」を信奉し動物集団と人間社会の類似性により自己へのいじめと差別を必要悪とみなし、受忍している。肉食を嫌悪しているが本人はヴィーガンではなくバターはOKなベジタリアンだと思っている。小学生のとき学校で飼育していた豚が死んだ責任を負わされて以来、豚に由来する蔑称をつけられる。

津玉茉佑香まゆか

ブレイド玲奈の所属するクラスカースト上位グループのボス。小学生のころからブレイド玲奈をいじめるだけでは飽き足らず、新しく出来た彼氏との関係上、目障りになった元カレ「ジンベイ君」を押し付けようとする。スペイン人との「ハーフ」。

・ジンベイ君

身長が2メートル前後あるジャマイカ人との「ハーフ」。本名:蘭堂駿平太

人類の歴史を人間と人間の争いであり人間と自然の争いと捉える。中学時代のある出来事により目の前のいじめは恵まれた体格を生かし阻止しようとしている。中学時代の津玉によるブレイド玲奈へのイジメには気が付かなかった。

・檜山美夏

由緒正しき日本生まれの日本育ちの日本人で両耳に補聴器をしている。アイドル歌手になるという密かな夢のため、都内のボイストレーニング教室に月1で通っている。夏休み中にさほど歌がうまくないブレイド玲奈と一緒に行ったカラオケの点数で負ける。それ以降、敵視している。


魔、魔羅、ロリ、〇、魔レ、麻呂、魔羅羅、アララ


 ダメだ、古文の授業の中身が全然頭に入ってこない。

 入学当初すでに頂きを超えつつあった初老の古文教師の頭部戦線は夏休み明けで既に崩壊しベルリンに迫っていた。アタシはもうすぐ東西に分裂寸前の後頭部を眺めながらくだらないことをノートに書き連ねていた。  


 アタシが古文の授業を受けるメリットは忍耐力をつけるためだけだろうが、全然身についていない。

そもそも古文を学ぶ意味が日本の過去のすぐれた文学を味わうためなら瀬戸内寂聴が現代語訳にした源氏物語とかを読めばいいし、そのほうが定年退職した中年オヤジの愚痴のような徒然草を細切れにして「原文の解剖」するよりずっとためになる。

 現代文と違って題材の「新作」が創られることはない古文は、(苦手な人にはKY能力に秀でたエスパーしか解けなさそうな)現代文より問題制作者にとって問題と解答をつくりやすいし、英語のように古文で「作文させ添削する」という面倒なことも無い。古文教育界隈の既得権益を守るために古文は授業や試験科目があるとしか思えない。

 中1の時、目が見えないというハンディキャップを乗り越え「やちまた」に生涯をささげ偉業を為した国学者本居春庭の伝記に感動したけど、どうしても古文は好きになれない。


 いやだいやだと思っても時は流れ、放課後はきてしまう。5時間目が終わり、6時間目の情報の授業も終わる。放課後のチャイムがなっても、腰椎に錘がつけられたように立ち上がるのがおっくうになったアタシより先に教室を出たのはジンベイ君だった。

そのまま座っていたアタシの机に津玉がやって来るのをみて腰に巻き付いた見えないゴム紐が切れ、ばねのようにアタシは席を立ちあがり、急いでジンベイ君の後を追うべく教室を飛び出した。


 だが教室を飛び出したのはいいが、津玉の眼を逃れると、まっすぐ目的地に向かう気力が失われた。アタシはあてどなく校舎内を何回もぐるぐると歩き回り、そろそろ変に思われるとおもって中庭にでた。

中庭は四方を校舎に囲まれた日陰で陰気な場所だ。何十年前かの卒業生が余計なことに花粉をまき散ら杉の苗を20本ほど植え、今では立派な害木としてそびえたっていた。それ以外は野球のホームベースサイズのコンクリタイルを敷いただけの十字状の道の周りにシダやらドクダミなどの陰気な草花がまばらに地面に生えているだけの湿っぽいだけの場所である。


 中庭に出てすぐに杉の木の側で檜山さんの彼氏の豆山究太狼「まめきゅう」が飛び跳ねていた。

どうやら4mくらいの高さの木の枝に彼の体操着の上下が引っかかっているようである。これが甲信県立展星高校名物「福のなる木」である。嫌いな奴やいじめられっ子の服を盗み出し校舎の3階くらいの窓から投げ捨てわざと木の枝に引っ掛けるのである。


「手伝おうか」

 声をかけるが、豆山はちらりとこちらを見ただけで、すぐジャンプしながらモップを投げて服を叩き落そうとした。小柄な彼は何回もジャンプするも、努力虚しく服に当たっても枝に引っかかっているようで落ちてきそうな気配はなかった。

 豆山は一向に落ちてこない様子を見て恨めしそうにうなじをさすった。上ばかり向いていたので首を痛めたらしい。

「豆山さんは恨まれるタイプじゃないと思うけど」

 アタシが聞くと

「撮りのクズ鉄の逆恨みだ」

 豆山は吐き捨てるように言った。彼の所属する部活動の鉄道研究部は総じて部活動が低調なこの高校では比較的まともに活動していた。なんでも鉄道会社と県主催の「鉄道を用いた地域振興案」とかのコンクールに毎年応募していて、賞を取ったことも過去にはあったそうだ。もっとも現在、部内では絶賛分裂中で、秘境駅とかに行き隠れた観光資源を探す「乗り鉄組」と至高の一枚のためなら何しても構わない「撮り鉄組」とでお金の絡む内部抗争が勃発していた。なんでも部の備品の高価な一眼レフを撮り鉄組の部長が勝手に私物化し自宅に持ち帰ったあげく破損したのを隠ぺいしようとしたことが問題視され解任されたことが原因らしい。お金と権限を巡って取っ組み合いのけんかまで起きたそうで、非常に二派は険悪な状態らしい。乗り鉄組に属し彼女有りのリア充オタの豆山の災難は撮り鉄組からの報復というのもあり得る話だ。


 彼の足元にはもう1本モップがあり柄の先にはガムテープが巻かれていたので2本繋げて叩き落そうとしたらしいが中折れしてしまったらしい。

 アタシは中折れモップを持つと、少し助走をつけてジャンプし体操着を叩き落した。落ちてきた上下の体操着を拾って渡すも

「余計なことを」

 豆山は服をひったくるようにして受け取った。するとアタシの背中に何か当たった。地面には濡れたタワシが落ちていた。投げられた方角の校舎を見るとミニ豚の檜山が校舎の3階の窓から睨んでいた。

「恥をかかせるなよ」

 豆山はそう恨めしそうに言うと、服を腕に抱えて去っていった。

 檜山の姿は消えたが校舎の窓際にはほかにも何人かの生徒がこの状況を見ていた。あの中に、犯人がいるのだろうか。


 モップを2本とも掃除道具のロッカーに片づけた後、アタシは県政100周年を記念して造られたという記念講堂に向かった。講堂の屋上広場ではジンベイ君がいた。屋上コートを部活動の練習に利用している連中がすでに何人かいて、あまり告白にふさわしい雰囲気ではない。空もどんより曇っている。雨が降ればいいのに。


 ジンベイ君は自殺防止のため4メートルはあるフェンスに寄りかかりながらスマホを眺めていた。

「何見ているの」

「ナチスゾンビシャークという漫画。豆山に薦められて読んでいるが、なかなか面白い」

 題名からして超B級感がある漫画だ。アタシは漫画をあまり読まないし、正直関心が無いが

「どういう内容なの」

「第二次世界大戦末期にナチスドイツから潜水艦で秘密兵器が日本に持ち込まれようとしていたが、途中で米軍の駆逐艦に沈められ沖縄の沖で沈んだが、今になって中身が流出して浜辺にいる人々がゾンビシャークに襲われるというパニックホラー漫画だ。」

 聞かなきゃよかったと思うくらいクダラナイ設定である。アタシの顔に出た感想をおそらく読み取ったのであろうジンベイ君はスマホをしまった。

「それで、一応聞くが、どういう用件だ」

 アタシは津玉から渡された「台本」の台詞をしゃべった

「おまえ童貞だろ。卒業させてやるから私と付き合えよ」

 命令されたセリフを言った。最後の方は恥ずかしくて、声が少し震えた。言われたジンベイ君もだいぶ面食らったようだが、少し考えた後、口を開いた

「俺はどう振る舞えば津玉さんは納得してくれるかな」

 アタシがこんなことをいうタイプではないとわかっていて助かる

「1か月でいいからアタシと付き合っているふりをして。」

「まあ、人助けは嫌いじゃない」

「つまりOKということ?」

 ジンベイ君は少し困惑した表情をしつつうなずいた。早速ジンベイ君の隣に並んでスマホを上にあげて自撮りをした

「津玉が告白に成功したら証拠を送れと言っている」

「そうか」

 写真では二人ともじつに自然な笑顔に映っていた。二人ともなかなかの役者だ。早速、津玉に送信するもすぐには返信が来なかった。

「どうせ、津玉のことだから一緒に仲良く帰れとか言ってくるに決まっている」

 そう言うとジンベイ君は腕を組んできたのでびっくりした。おそらく保育園児の時以来はじめて男子と腕を組むと思う。屋上から玄関に行く途中、階段を下りながらいい雰囲気になりかけたころジンベイ君は言った。

「津玉の時も、こんな風に帰ったな」


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