覚え書き その7 親の因果は子に報う #河合許すな
〇主な登場人物
・海福ブレイド玲奈
主人公の高校1年生の女子。クルド人との「ハーフ」。現代の生物学で否定されている「群選択説」を信奉し動物集団と人間社会の類似性により自己へのいじめと差別を必要悪とみなし、受忍している。肉食を嫌悪しているが本人はヴィーガンではなくバターはOKなベジタリアンだと思っている。小学生のとき学校で飼育していた豚が死んだ責任を負わされて以来、豚に由来する蔑称をつけられる。
・津玉茉佑香
ブレイド玲奈の所属するクラスカースト上位グループのボス。小学生のころからブレイド玲奈をいじめるだけでは飽き足らず、新しく出来た彼氏との関係上、目障りになった元カレ「ジンベイ君」を押し付けようとする。スペイン人との「ハーフ」。
・ジンベイ君
身長が2メートル前後あるジャマイカ人との「ハーフ」。本名:蘭堂駿平太
人類の歴史を人間と人間の争いであり人間と自然の争いと捉える。中学時代のある出来事により目の前のいじめは恵まれた体格を生かし阻止しようとしている。中学時代の津玉によるブレイド玲奈へのイジメには気が付かなかった。
・大島タケル
由緒正しき日本生まれの日本育ちの日本人。ルッキズムを持つブレイド玲奈からイケメンと認識されている。小学生のころから一貫してブレイド玲奈の容姿を嫌ってイジメている。
2年ほど前、県内で若い女性が2名行方不明になる事件が起きた。それぞれ連れ去られたとされる現場で外国人男性が目撃され、警察は不法滞在で拘留していたクルド人男性Aが犯人だと発表した。男性Aは難民申請中で仮放免されていて、無許可で就労していたところを逮捕されたが、男性の難民申請を手助けしている団体が別件逮捕だと抗議した。逮捕される際も、クルド人男性Aは抵抗しその際に警官に「暴力を振るわれ」鼻の骨にひびが入るほどの怪我をした。支援団体はクルド人男性Aが移民に厳しい現政権による不当なスケープゴートにされていると非難した。肝心の女性たちの行方の手掛かりがつかめずに防犯カメラの映像と目撃証言によりクルド人男性Aが逮捕されたことに抗議の声が上がり、彼の難民申請を手伝う支援団体が弁護士団を結成した。警察側のずさんな捜査、グレーな取り調べが行われていたことが判明したこともあってか、裁判の結果、クルド人男性Aは無罪を勝ち取った。
アタシがいじめで2週間ほど休んでいる最中にそのクルド人男性Aは無許可の就労、不法滞在などをあっさり認め帰国したあと日本と犯人引き渡し条約の無い現地で罪を「自白」した。その「自白」をもとに2名の女性の遺体が見つかったことで、男性の支援団体は世間やネットから猛バッシングされた。
特に記者会見でクルド人男性Aを擁護し、冤罪を訴え、国家権力による人種差別と息巻いていた団体の代表の個人情報が流され、自宅が特定され電話の番号や家族構成も公開されてしまった。自宅には動画配信者や記者が押しかけ、家の前で右翼団体の街宣車が吠え立て、固定電話には嫌がらせ電話がかかった。その代表の娘こそアタシが中学3年の時の同級生の河合美幸さんだった。もともとは中学2年生まで特別支援学校の中学部にいたらしいが、そこが県の財政難の果てに閉鎖されアタシの通う中学校に両耳が、ほぼ聞こえない以外は普通の生徒としてやってきた。
騒動により河合さんの家族はバラバラになり普通の主婦でしかない母親は心労で入院し、肝心の団体代表である父親は沖縄へ米軍基地の核ミサイル配備の抗議活動に行っていた(らしい)ので、家に押し寄せる悪意の波をもろに被ったのが彼女だった。
ネット民の、世間の悪意にさらされた河合さんはそれだけでもメンタルをやられたはずだろうが、学校でもそのことが原因でいじめを受けた。別に父親が犯罪をしたわけでもないのに死んだ女性に詫びろとか、「被害者の苦しみに比べればたいしたことない」と性的な嫌がらせもされていた。
そのいじめの中心にいたのが宮本らだった。クラスの担任が機能していなかったのでやつらが増長した。ある日、宮本の「いじめが行き過ぎない」ストッパー的な大島が欠席した際、河合さんは宮本に「性暴力」(詳細は不明)をされゴンザレスか土井のどちらかにスマホで撮影された(らしい。彼女の持っている会話を文字表示するスマホは電源を切られて、記録が残っていないという)
性暴力を振るわれ彼女が頼ったのは校内で唯一手話のできる教師で学年主任の竹内登だったが、こいつもとんでもないクズ野郎だった。他の職業より劣悪な環境で安い給料なのにあえて働くインセンティブは性欲でしかない。後の報道によると、示談になり起訴されなかったとはいえ性犯罪歴があった、というこの教師は役得とばかり、河合さんを世間のバッシングから避けるためと称し自宅に連れ込んだあげく「性加害」に及んだという。手話を習得したもの抵抗できない障碍者を狙うためだと思う。
河合さんは性加害に遭った後、自宅にもどり学校は頼れないと警察に訴えたらしい。さすがに警察が動いて竹内に任意の事情聴取も行われていた。その最中にも「パパ活をしていた」「彼女から誘った」など心無い誹謗中傷が行われたため河合さんは校舎の屋上から飛び降りて意識不明の重体になり、今も意識が戻っていないそうである。学校は転落事故として当初は片付けようと、いろいろ工作したが結局バレ た。その過程で宮本の性暴力を撮影した動画が保存されたスマホを紛失していたことが判明した。隠ぺいを疑われる「不手際」に加え、当時ちょうど、関東北部で大規模な災害があり、世間の関心がそちらに向いていたため、マスコミの報道やネットの反応は低調だった。
それをいいことに学校側の対応は鈍く、いじめ加害者は誰もこの件で内申点を下げられることもなかった。そして主犯の宮本は罪を問われずに中学卒業と同時に母親の実家のある韓国へ引っ越し、校長はよその学校に異動になったが夏休みの間に事故で亡くなり、学年主任の竹内は学校を辞めさせられたがよその県で教師か塾講師をしているらしかった(檜山情報)。市のいじめの調査委員会はようやく5月に立ち上げられたそうだがその後、何の音さたがないままである。
あれこれ考えているうちに午後の授業の開始時間10分くらい前になって生徒たちが教室に戻り始めジンベイ君も席を立った。
多目的ホールから出ようとするジンベイ君に声をかけようと近寄るとゴンザレスをはじめコバンザメたちが離れていった。
「話があるから放課後記念講堂の屋上に来て」
ジンベイ君は怪訝な顔を一瞬したが、
「別にかまわないが、どれくらいかかる」
「1分あれば」
(「津玉の命令で付き合えと言われているOK?オアNO?」それで返事をもらえれば10秒もかからない)
「まあいいだろう、放課後な」
そう言うと先に多目的ホールを出ていった。
つぎの授業の教師は授業開始のチャイムが鳴ってから職員室で教室に行く準備を始めるので、教師が教室に入るのは5分、ひどいときは1服吸ってくるので10分くらい遅れる。ゆっくり戻っても大丈夫であろう。
チャイムが鳴る中、教室に戻ると津玉は檜山さんと仲良く会話をしていた。アタシを見ると
「玲奈がジンベイ君のこと好きだって」
津玉が大声で教室にアナウンスした。教室には微妙な雰囲気が流れた。中学時代の元カノの津玉だけが唯一ジンベイ君をいじることができる。グループ序列2位の檜山もジンベイ君のいる場で彼を茶化すことはできない。
席に座ろうとするアタシにわざわざ津玉がやって来て言った
「感謝しなよ、お膳立てしてやったから」
そう言って紙切れを渡した。中を見ると告白するときのセリフの指示が書かれていた。




