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覚え書き その4  虎の威を借りる森の愉快な仲間たち

〇主な登場人物

・海福ブレイド玲奈

主人公の高校1年生の女子。クルド人との「ハーフ」。現代の生物学で否定されている「群選択説」を信奉し動物集団と人間社会の類似性により自己へのいじめと差別を必要悪とみなし、受忍している。肉食を嫌悪しているが本人はヴィーガンではなくバターはOKなベジタリアンだと思っている。小学生のとき学校で飼育していた豚が死んだ責任を負わされて以来、豚に由来する蔑称をつけられる。

津玉茉佑香まゆか

ブレイド玲奈の所属するクラスカースト上位グループのボス。小学生のころからブレイド玲奈をいじめるだけでは飽き足らず、新しく出来た彼氏との関係上、目障りになった元カレ「ジンベイ君」を押し付けようとする。スペイン人との「ハーフ」。

・ジンベイ君

身長が2メートル前後あるジャマイカ人との「ハーフ」。本名:蘭堂駿平太

人類の歴史を人間と人間の争いであり人間と自然の争いと捉える。中学時代のある出来事により目の前のいじめは恵まれた体格を生かし阻止しようとしている。中学時代の津玉によるブレイド玲奈へのイジメには気が付かなかった。

・大島タケル

由緒正しき日本生まれの日本育ちの日本人。ルッキズムを持つブレイド玲奈からイケメンと認識されている。小学生のころから一貫してブレイド玲奈の容姿を嫌ってイジメている。

 日本からパンダが絶滅してから10年後。そろそろ人口が1億一千を割りそうな日本は「令和の大合併」を行い2都1道1府40県となった。(地方自治体のトリアージとしては失敗し、いまだに人口が10万を切った鳥取が岡山の地名にならず県として存在している。アタシの住んでいる甲信県は東京都への対抗のために関東地方の二つの県が合併してできた)失われた40年において政府は一度市場に放たれたおカネというものは思うようにコントロール出来ないことを証明しただけだった。

 アタシの通う甲信県立展星高校は少子化で生徒が減るよりも県の経済がボロボロになり財政の悪化もすすみ教育に予算を回せなくなって、いくつもの地域の高校を統廃合して出来た高校である。2035年から民間の学校法人に運営がまかされている。問題は運営団体で、いろいろと阿漕なことをしており、教員の定員に満たないのにごまかして補助金をかすめ取ったと以前問題になったそうである。

 ここには県の難関進学校の狭き門を入れなかった生徒と勉強は好きではないが工業高校や底辺校にはいきたくない生徒が主に入学する。アタシは前者でも後者でもない。毎年一番多くアタシの通っていた中学の生徒がこの高校に進学する。

 数多の外国人の中で一番注目度抜群のクルド人の血を引くアタシにとって見ず知らずの連中に囲まれてステータスやら関係性をイチから構築するより容易と考えた。税金は財源ではないと思うし国債はもっと発行すべきだと思うが、どうしてそういう主張する人たちは外国人の受け入れとかに関しては税金の無駄とか言うのだろうか。国債を無限に発行して移民や難民も無限に受け入れればいいのに。


 この学校のさほど高くない「民度」のなか、クラスを生き抜くには人間社会として見るのではなく動物の群れとして見たほうが生き抜きやすい。

 うちのクラスカーストはサル山のピラミッド型ではなくサバンナの動物たちの群れのようにいくつかのグループに分かれて同類相食む弱肉強食の世界を構築している。一軍集団は2つあり一つが比較的小さな津玉グループ。もう一つが男女混成のグループで倍の8名で構成されている。このグループとうちらのグループはどちらかというと仲は悪くないというより、お互い無視に近い関係にある。個人的にアタシはこの男女混成グループと仲が悪いのでやはり津玉グループに所属するしかない。

 男女混成グループの友好グループとしての二軍の女子連中がいて二軍独自のリーダー(準一軍とでもいうべき一軍とほぼ対等な関係にある)がいる。もちろん男女混成グループとの関係を重んじる彼女らはアタシと殆ど口をきかない。

 そしてそれらに属さない者が上位グループに顔色をうかがいながら(距離を置きながら)、2,3人のグループやボッチがいる。その中でジンベイ君は隔絶した存在で基本どのグループとも緊張感のある友好関係にある。特に男子が本を教室で読むのは気色悪いみたいな雰囲気が上位カースト勢にあるので本を読む陰キャ男子はジンベイ君の席付近に群がる習性がある。本を読む際はでかくて一番後ろの席のジンベイ君の背後で壁のロッカーに寄りかかりながら、後ろから覗かれたりバカにされるのを防ぎ、本を取り上げたりされるのを防いでいる(ただ、裸の女の子のイラストが載っているようなラノベや、あからさまなエロ小説を教室で読むのはいかがかとは思う)


 その彼のでかい体格は、人並みの体格しかないとイジメは良くないなとも思いつつ傍観せざるを得ない人が多い中で、幸いなことに高校生になってから持ち合わせた人並みの正義感を校内の「小さな悪」への制裁に用いていて、目の前であからさまないじめらしきもの(5月ごろいじめられっ子の弁当箱が入った袋をバスケットボールのようにしていじめっ子同士で投げ合いゴミ箱に入れることが流行ったとき、ジンベイ君のおかげで廃れた)を見かけると全学年対応で制止することができる。返り討ちにされるのを恐れ上級生含め誰もちょっかいが出せないので、カースト上位にいじめられないようにカースト最下位の生徒たちが昼飯の時などに彼の周りに寄って来て弁当を食べていることがよく観察される。もっとも大人の世界で、ただのチンピラが実在する暴力団の名前を出して市民を脅迫するようにジンベイ君と同じ中学というだけで他の生徒にマウントを取って自分の言いなりにしようとする男子が何人かいるらしく、ジンベイ君は「兎をいじめるため虎の威を借りるキツネ」を嫌っているらしい。


 校内を回遊するジンベイ君を探しに、とりあえず塔本さんのいるはずの教室をのぞいてみた。塔本さんはジンベイ君との話が済んだのか自分の席に座って仲間と談笑していた。

 どうやら塔本さんは自分のクラスではカースト上位の地位を保っているようである。塔本さんとアタシは同じ中学出身で仲も悪くはないのでジンベイ君の居場所を聞こうと一瞬思ったが、津玉にかつての恋敵とアタシが話していることが知られるのはまずいと思い、話かけるのをあきらめた。

 ここにいないのなら、おそらくジンベイ君は多目的ホールにいるだろう。回遊するジンベイザメも餌場や産卵場所は決まっている。同じように教室ではメシを食えない食物連鎖下位の生徒たちがご飯を食べる場所、多目的ホールであろう。


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