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覚え書き その3 乾いて湿ったサバンナの生態

〇主な登場人物

・海福ブレイド玲奈

主人公の高校1年生の女子。クルド人との「ハーフ」。現代の生物学で否定されている「群選択説」を信奉し動物集団と人間社会の類似性により自己へのいじめと差別を必要悪とみなし、受忍している。肉食を嫌悪しているが本人はヴィーガンではなくバターはOKなベジタリアンだと思っている。小学生のとき学校で飼育していた豚が死んだ責任を負わされて以来、豚に由来する蔑称をつけられる。

津玉茉佑香まゆか

ブレイド玲奈の所属するクラスカースト上位グループのボス。小学生のころからブレイド玲奈をいじめるだけでは飽き足らず、新しく出来た彼氏との関係上、目障りになった元カレ「ジンベイ君」を押し付けようとする。スペイン人との「ハーフ」。

・ジンベイ君

身長が2メートル前後あるジャマイカ人との「ハーフ」。本名:蘭堂駿平太

人類の歴史を人間と人間の争いであり人間と自然の争いと捉える。中学時代のある出来事により目の前のいじめは恵まれた体格を生かし阻止しようとしている。中学時代の津玉によるブレイド玲奈へのイジメには気が付かなかった。

・大島タケル

由緒正しき日本生まれの日本育ちの日本人。ルッキズムを持つブレイド玲奈からイケメンと認識されている。小学生のころから一貫してブレイド玲奈の容姿を嫌ってイジメている。

 思うにスクールカーストはサル山型とサバンナ型に分かれていると思う。うちの教室はサバンナ型でサル山のように明確なボスはいないが、いくつかのグループで棲み分けがなされており、上位グループ同士は相手の領域を侵さなければ干渉しないのである種の平和が保たれている。ただサバンナなので弱肉強食の世界でたまに肉食の陽キャに草食の陰キャが「ノリ」で襲われる。弱肉強食が行われるサバンナにおいて草食動物のえさ場は肉食動物の狩場である。


 ジンベイ君が教室を去ってしばらくすると民族大移動かレミングの移動もどきが起きて、いままで教室にいたカースト下位の生徒たちが上位の生徒に食われないために様子を伺いつつ教室から出ていった。早々にご飯を食べ終わった彼らはカースト上位がクッチャベリながらのろのろ食べている間に多目的ホールか図書室とかに逃げなければならない。

 われらが甲信県立展星高校の生徒は弁当持参か高校側が用意した弁当を食べることになる。

ときに食われる側がどんな弁当を食べているかは格好の食う側のいじりの口実となる。あまりお金の無い家庭だと一番値段の安い「アメリカン弁当」を食べることになる。ピーナツバターなどを塗ったサンドイッチに申し分程度のポテトサラダでインフレがひどいとはいえ2000円というあんまりな弁当を陰キャが食べていると必ずカースト上位に絡まれコケにされる。食物連鎖の下位は安心してご飯を食べるためにも毎日ひと苦労する。


 さて、陽キャと陽キャを演じることを許されたものとこのような環境に耐えうる陰キャだけが教室に残った。アタシはというと弁当箱を膝の上に載せたまま津玉の独演会を聞かねばならず、取り巻きのヨイショ合戦に参加せざるを得なかった。だが話していくうちに独演会にも飽きたのだろうか、津玉はふたたび余計なことをアタシに吹っ掛けてきた。


津玉「そうだ、豚P。おまえ蘭堂と付き合いなよ、あいついろいろ調子に乗っているからドブスなあんたと付き合ったらマジオモロ」

白豚メガネ「そうそう豚殺しと蘭堂は小学校からの幼馴染だから相性がいいはずよ」

キリン「お二人ならいいデカップルになると思いますよ」

津玉「付き合えよ。今日中に告白して来い」


 中学時代、ラバーカップ(すっぽん)で排水口に栓をして水をためた生徒用の長い洗面台で顔だけで「金魚」すくいをさせられたこと、ブーンと言いながら窓ガラスに激突する蠅のマネをさせられ中学校の教室の窓ガラスを弁償する羽目になったこと、真冬の池の中にボールを投げ入れて犬のようにとってこさせられ肺炎になりかけたこと(後年これを書いている最中にもその時のことを思うと怒りがこみあげてくる。)それら津玉がアタシにした様々な無理難題に比べれば、ネアンデルタール人と付き合うほうは、まあましだろう。ここで断ったり、躊躇したりするといろいろと厄介である。イベリコ豚は以前、彼氏がよそのクラスにいて、今はつがいのいない元カレが同じ教室にいるのはバツが悪いみたいなことをとこぼしていた。星美君からの評価を下げかねない不用品を処分したいのだろう。


 アタシが心の中では前向きだがどう返答するか躊躇していると檜山さんが余計な事を言った

「豚P、津玉が元カレ処分したがっているんだから協力しろよ」

 いきなり津玉が立ち上がり檜山さんの右耳を掴んでひっぱると、顔を近づけて怒鳴った

「おい、余計なことを言うなよ!」

 檜山さんはぶるぶると震えて何も言えなかった

「前に、それは言うなと言ったろ。この耳は聞こえなかったのか」

 秘密を集めるのが大好き、漏らすのも大好きな檜山さんにそれは無理です。檜山さんは涙目になりながら首を横に振った。

「ほんとに聞こえていたのかよ、耳の中に何か詰まっているのかよ」

 そう言って津玉は檜山さんの耳の中の補聴器を指でグリグリ押した

「落ち着いてよ、津玉」「そこまでしなくても」

 山下さんとアタシは津玉を檜山さんから離し椅子に座らせた。アタシが椅子に戻ると檜山さんはルーズソックスに守られたアタシの脛を蹴飛ばしてきた。クラス中がうちらを見ている中で、グループの立ち位置の確認とストレス発散が目的だろう。

「早く行って来いよ」

 津玉が不機嫌に言った。相変わらずよくわからないことでこいつはキレルて嫌になる。

 『自分は怒っている人間の顔に獅子よりも鰐よりも竜よりも、もっとおそろしい動物の本性を見る』といったのは太宰治だったか。

「わかった。まあ蘭堂君は女には興味なさそうだから断られる可能性があるけど」

 弁当を片付けて急いで席を立ち椅子を片付けると、アタシはジンベイ君の捜索に向かった。


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