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覚え書き その2 ラ・ロシュフコーの鸚鵡

〇主な登場人物

・海福ブレイド玲奈

主人公の高校1年生の女子。クルド人との「ハーフ」。現代の生物学で否定されている「群選択説」を信奉し動物集団と人間社会の類似性により自己へのいじめと差別を必要悪とみなし、受忍している。肉食を嫌悪しているが本人はヴィーガンではなくバターはOKなベジタリアンだと思っている。小学生のとき学校で飼育していた豚が死んだ責任を負わされて以来、豚に由来する蔑称をつけられる。

津玉茉佑香まゆか

ブレイド玲奈の所属するクラスカースト上位グループのボス。小学生のころからブレイド玲奈をいじめるだけでは飽き足らず、新しく出来た彼氏との関係上、目障りになった元カレ「ジンベイ君」を押し付けようとする。スペイン人との「ハーフ」。

・ジンベイ君

身長が2メートル前後あるジャマイカ人との「ハーフ」。本名:蘭堂駿平太

人類の歴史を人間と人間の争いであり人間と自然の争いと捉える。中学時代のある出来事により目の前のいじめは恵まれた体格を生かし阻止しようとしている。中学時代の津玉によるブレイド玲奈へのイジメには気が付かなかった。

・大島タケル

由緒正しき日本生まれの日本育ちの日本人。ルッキズムを持つブレイド玲奈からイケメンと認識されている。小学生のころから一貫してブレイド玲奈の容姿を嫌ってイジメている。

さえずりや羽の色の美しさしか取り柄の無い鳥たちがいる。のべつまなくなしにしゃべりながら、自分の言っていることをまったく理解できない鸚鵡おうむがどれほどいることか。飼いならされても、相変わらず盗みを続けるカササギや烏、略奪をもっぱらとする猛禽、他の動物の餌食にしかならない柔和でおとなしい動物たちも、どれほどいることだろうか。』

「人間と動物の類似について」箴言集


 ファッションや化粧に全く興味の無いアタシにはそれしか頭にない頭の悪い津玉のような連中とのくだらないおしゃべりは大変苦痛である。そしてこれ見よがしにイベリコ豚の津玉はスマホで星美君とのツーショット写真を見せつけてくる。すぐ別れると思ったのにここまで恋人関係が続くのが不思議でならない。何故超絶イケメンの星美君は腹黒性悪女津玉の化粧まみれの虚飾に覆われた外見だけ美しい「お喋り鸚鵡」の本性に気が付けないのか。星美君が可哀そうでならない。


 アタシがグループの「いじられ役」を演じている最中、2つ隣のクラスの女子、塔本稲美さんが教室に入ってきた。

 正直、彼女が学校に来ていたのは驚いた。

 先週くらいに匿名の宛名から複数のファイルが1年の各クラスの課題提出用のサーバのフォルダに置かれた(らしい)。学校外からもアクセスできる分割されたそのファイルを復元すると一本の動画になるが、それは市販のAV動画をもとにAIが塔本さんの顔を「貼り付けた(合成?生成?というのかな)」ものだった。ミニ豚によるとほぼ顔が挿げ替えられているのが気付かないほど巧妙に作られていて、削除される前に多くの生徒の目に触れられていた(らしい)。


「あっ、有名人だ!」

 大声でそう言うとイベリコ豚は超絶イケメン争奪戦をしたかつての恋敵で敗者にスマホのカメラを向け、大好きな「死体蹴り」をした。

 ブスの上塗りのようにキモイ化粧をしたドブスのデブデブのミニ豚こと檜山美夏もスマホを取り出して撮影しだした。


 クラスカーストトップの女子に倣ってクラスの男子たち(主に上位勢限定)もノリでスマホを取り出して撮影しだした。

「次回作はいつ出るの、新人女優さん」

 と檜山が大声で追撃すると教室の後ろの方で机を大きくたたく音がした。誰がやったか推測がつくが、音がした方を向くと周りの男子とDNAが種レベルで違いがありそうなくらい浅黒く2メートル前後はある大柄な長髪の野人がこちらを睨みつけ低い声で言った。

「お前らいい加減にしろよ」

 それまでカースト上位男子生徒の何人かがスマホを塔本さんに向けていたが、狩る側であるハイエナのような肉食動物が象のような巨大な草食動物の反撃を受けたかのようにカースト上位の男子生徒たちはスマホという攻撃の「牙」をしまって、おとなしくなった。バラバラだとホモサピエンスはネアンデルタール人にはかなわない。

 この野人の名は蘭堂俊平太、アタシは「ジンベイ君」と呼んでいる。おそらくうちの高校で教師を含め一番デカく浅黒い顔は精悍で髪が少し長くサッカーをやっていそうな顔立ちである。肩幅もがっしりしたプロレスラーのような体格をしている。最大の特徴は「頬を貫通するほどの怪我(津玉情報)」をした跡が右ほおに残っていてネアンデルタール人が戦った獰猛なケナガライオンやサーベルタイガーと同程度の知性の風貌に見せている。

 ブラキオサウルスなどの巨大な草食恐竜が牙も角もないのに敵を寄せ付けなかったのはただ巨体を動かすだけで敵を弾き飛ばし、場合によっては襲った方が命に係わるダメージを与えられるからである。ジンベイ君もその巨体ゆえに誰も手も口も出せない。


 塔本さんはサルに退化しつつあるホモサピエンスどもを完全に無視し、ネアンデルタール人と何かを話すと二人は一緒に出ていった。


 ジンベイ君が出ていってもしばらく教室内は無言状態であったが

「新人女優さんは次回作の打ち合わせに男優さんと一緒に行ったみたいよ」

 ミニ豚檜山がポイントを稼ぐためにそう言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。

 ジンベイ君の母親は日本一高身長が謳い文句のジャマイカ系ハーフのAV女優。父親は日本人だが巨漢のプロレスラー兼AV男優で奥さんとは自身の運営するプロレス団体の運転資金のために汁男優として活動した際に知り合ったそうである。とはいえ面と向かってそれに触れることはタブーで津玉ですらそのことで彼をいじったことはない。そして学校で一番デカイ、ジンベイ君と中学3年の時に半年ほど付き合っていたのも、我らがイベリコ豚の津玉である。


 アタシは「群れ」の序列と縄張りを弁えることこそ平穏無事な生活を送れることだと信じている。

高校入学した4月当初のクラスカースト形成時に、鶏が群れの序列を決める「つつき行為」のように津玉はいじりを超えたいじめをおそらく学校で一番デカイ女子のアタシにした。これで津玉は効率よくクラスカーストの最上位の女子と認知されることになった。それと同時にイベリコ豚は元カレをため口でよくパシリをさせた。

 クラスの連中はジンベイ君が(一応、円満に別れたらしい)元カノに言われてジュースを自分のカネで買ってくるのを見て二人の上下関係が分からされた。


 だが男子共の何人かがただのキレイ系女子の津玉にパシリさせられるジンベイ君を見て、ジンベイ君をやたらでかいだけの無害でオツムの足りないステラーカイギュウのような草食動物と勘違いしたようである。津玉やアタシと違う中学出身のクラスで二番目に体格のいい男子生徒(といっても175㎝くらい)が彼に思いきり肩パンしてマウントを取ろうとしたところ、そいつは怒ったジンベイ君に胸倉を掴まれ宙に浮かされた。

 こうしてクラスの序列1位と2位は決まった。

 幸いなことに津玉はジンベイ君を他の生徒にけしかけることまではしないし、ジンベイ君もそういうことははっきりと嫌がるタイプなので、津玉のもとでクラスの恐怖政治は行われなかった。


 未成年とは人間未満の存在であり、動物的本能により行動している。そこで生き抜くにはいかに環境に順応できるかである。

 多くの動物たちは「不自然」に飼育ケースや檻で過密な状態にいると弱い個体をイジメだす。弱い個体たちはケースの角の隅っこに固まり、強い個体たちは広々としたスペースを我が物顔で駆け回る。エサを余るほど与えても強い個体たちが独占し、飼育員が適切に介入しなければ弱い個体たちはやがて衰弱死してしまうだろう。

 人間も同じで学校や教室とは「ヒト」として本来不自然な環境で、そこに何十人も押し込められるから、いじめが起こる。いじめを防ぐのはモラルの向上ではなく多くの「監視の目」でしかない。そのためにはもっと教育現場に税金が注がれるべきではなかろうか。


「人間と動物の類似について」のラ・ロシュフコー「箴言集」は講談社学術文庫(訳:武藤剛史)よりの引用させていただきました

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