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覚え書き その1 203X年にっぽん動物記

〇主な登場人物

・海福ブレイド玲奈

主人公の高校1年生の女子。クルド人との「ハーフ」。現代の生物学で否定されている「群選択説」を信奉し動物集団と人間社会の類似性により自己へのいじめと差別を必要悪とみなし、受忍している。肉食を嫌悪しているが本人はヴィーガンではなくバターはOKなベジタリアンだと思っている。小学生のとき学校で飼育していた豚が死んだ責任を負わされて以来、豚に由来する蔑称をつけられる。

津玉茉佑香まゆか

ブレイド玲奈の所属するクラスカースト上位グループのボス。小学生のころからブレイド玲奈をいじめるだけでは飽き足らず、新しく出来た彼氏との関係上、目障りになった元カレ「ジンベイ君」を押し付けようとする。スペイン人との「ハーフ」。

・ジンベイ君

身長が2メートル前後あるジャマイカ人との「ハーフ」。本名:蘭堂駿平太

人類の歴史を人間と人間の争いであり人間と自然の争いと捉える。中学時代のある出来事により目の前のいじめは恵まれた体格を生かし阻止しようとしている。中学時代の津玉によるブレイド玲奈へのイジメには気が付かなかった。

・大島タケル

由緒正しき日本生まれの日本育ちの日本人。ルッキズムを持つブレイド玲奈からイケメンと認識されている。小学生のころから一貫してブレイド玲奈の容姿を嫌ってイジメている。

 教壇の上でハダカデバネズミが人語で何か喋っていた。顔面で上下する唇の周りで化粧とシワシワが取っ組み合いをしているが、キモイシワシワが化粧を押しのけ波打っていた。ペンキを厚塗りでもしないとコイツの老醜は隠せない。やはりシェイクスピアの台詞「老いたる女は女にあらず」はCorectnessである。


「あの戦争」で勝利していれば学ばなくて済んだ科目の授業が終わり、二足歩行してハダカデバネズミが教室から出ていった。アタシは弁当箱と椅子を持ってクラス一軍トップのイベリコ豚のもと「はせ参じた」。


「ところでトンP、アンタまだ処女?」

 母豚がスペイン産の津玉茉優華は取り巻き連中とのくだらない会話中、ふいにアタシに話を振った。


 昼食時間中、津玉の周りの席で食事をしながらクラスカースト最上位のメス豚の接待(承認欲求を満たさせ気持ちよくさる無駄時間)をしなければならない。

 高校に入学後、人間未満の「何か」の集団の秩序形成においてアタシは中学が同じ津玉のグループに(リスクを承知で)所属することにした。このグループ「ブロブディンナグ」はボスの津玉とアタシを含め3名の構成員(取り巻き)で構成されていて、アタシは序列が上から4番目である。


「いいひとがいないから、まだです。そもそも誰とも付き合っていませんし」

 なんで盛ったイベリコ豚にこんなこといわれなきゃいけないんだ、と思いつつ適当に返した。

「キモッ、うちらのグループでまだやったことないの、あんただけよ。感じわりぃ~」

 そんなことはない。 

 取り巻きの一人で山羊のように間の抜けた薄顔にサイダー瓶の底のようなド厚いメガネをしてデブデブのチビでドブスの補聴器をしたミニ豚の檜山美夏が右手の人差し指で自分の鼻柱を押し上げた

「黒豚さん、黒豚さん、豚殺しの豚Pさん。3P するのはいつですか」

 津玉が笑って、つられてもう一人の取り巻きも笑った。死ね。そしてさらに津玉の追撃。

「まああんたのような色黒メスゴリラの大女じゃ、男は寄ってこないか」


 皆様の誠実な語り手であるこのアタシはイベリコ豚の言うように身長が183㎝あるので170㎝はある津玉と比べてもちょっと大きい高1女子であるが、ゴリラの成獣は2m以上あるので不正確な不適切な表現である。

 この身長は父親ゆずりであるが、その父親がみんなも大好き「クルド人」ということで浅黒い肌の色も受け継いでいる。生まれてこのかた絶えず周りから四季折々の美しい自然に育まれた豊かな日本語の悪口から選りすぐられた逸品を毎日吐きかけられている。それらの源流のひとつは小学校で4年の時から学校で飼育されていた豚の「トンP」が小学6年生の夏に死に、その原因がアタシのせいだと担任に勝手に犯人に認定されたことにたどり着く。

 以来その件は、格好のいじり、いじめのネタになった。イベリコ豚とは小中高と一緒なのでずっと言われ続けてマウントやらよくわからない頭の悪い嫌がらせをされて、今もいじめまでとはいかない「いじり」を毎日されている。


 高校に入って待遇が剝き出しのいじめからいじめに近いいじり程度に変わったのはイベリコ豚をはじめ多くの女子生徒が狙っていたアタシの通っている県立甲信展星高校で一番ハンサムな同学年の星美ヒカル君と津玉さんのカップル成立にアタシが貢献してからである。アタシと星美君とは幼稚園の3年間一緒で小・中学校は違うところにいったがその後も母親どうしが連絡を取り合っておりいろいろと個人情報を知ることができた。  

 当初イベリコのメス豚は星美君とクラスが違う(1-Aと1-J)、そもそも面識がない、というハンデがあった。だがアタシが誕生日や住んでいるところ、母親の職業が看護師であるなど彼に関して知っているかなりの個人情報を提供するだけでなく、保育園の時の友達の知り合いという形でアタシが紹介するという、そもそもの出会いのきっかけづくりをおぜん立てしてあげた。そこから津玉は相当頑張って彼の誕生日にサプライズデートするまでこぎつけ(まさか二人が付き合うことに成るとは思っておらず、その努力は正直感心するが)、見事、夏休み中に付き合うことに成功した。

 基本イベリコ豚は取り巻きにミニ豚のような自分よりだいぶ見栄えの良くないやつを配置するがこの功績でアタシは正式に取り巻きの一員になれている。


「どんクサキモ豚殺しもパパ活でもして処女卒業すれば垢ぬけてましになる ん じゃない」

 津玉マジで死ね。「あえて」どんくさくしている  だよ。もう一人の取り巻きで170cmくらいの背が高い黒と黄色のチェック柄のベストを着たキリンのような山下瑞穂もミニ豚と一緒に笑っていた。こいつらも一緒に死ね。


 子どもは親と自分の名前を選べない。海福ブレイド玲奈。皆様の誠実な語り手であるアタシの名前である。このブレイド玲奈という変な名前で物心ついたころからずっと様々な仇名でよばれ、たいていがアタシをバカにする素晴らしいセンスをしていた。

 こんな名前を付けたのはアタシの母親でいろいろずれている人である。

 アタシが赤ん坊の時、父はほぼ毎日夜勤をしていて、ある日、職場の介護施設から帰ってきて極度の疲労でベッドから起きられないのに母は料理を作らせるため枕もとで

 「玲奈が息をしていない!!」

と叫んで起こしたという素敵なエピソードを小学生のアタシに嬉々と話すユニークなお方である。

他にもクズエピソードが豊富な方でアタシが4歳の時、重い肺炎になったとき病院に行くのを当初渋った。

 土曜日の朝から咳と微熱があったがその日の夜に39.5度の熱が出た。月曜日まで放ってこうする母に対し、職場から様子を確認する電話をした父は仰天しその場で病院に連絡し救急車に来てもらった。病院に着いたころは痙攣し白目で泡を吹いていたがなんとか脳などへの後遺症無く2週間ほど入院して退院できた。

 父の「勝手な連絡」で救急隊が来たとき母が最初に発したのが、カネはかかるか、だそうである。幼児は基本社会保険で費用がカバーされ無料である旨を聞いて搬送に同意したらしい。

(思うに日本は一円も稼がず税金も社会保険料も納めない赤ん坊や子供がタダで医療や教育を受けられる素晴らしい国だと思う。税金も社会保険料を納める現役世代は払った分に見合った見返りがないとよく批判がある。だが現役世代も子供のころは「タダ乗り」して公金チューチューしていたわけだし、やがて現役世代も働けなくなり認知症になり病気も年中するようになり、誰かの払った税金や社会保険料のお世話になって公金チューチューするのである。それに消防や警察や医療は払った分の元を取らないでいられるほうが損かもしれないが幸せという面がある。無期懲役なんてその後の人生で税金を払わず税金で養ってもらえるのだが、まあそれがうらやましいとは思わない。)


 ユニークな鬼畜お母さまの英才教育で今のアタシの世界観が出来上がった。

 小学校低学年のときにはアタシが学校から帰ると共働き故、家には誰もおらず、母は料理を作りおきしない人で母が帰ってくるまでご飯が食べられなかった。母は母で夜遅く帰ってくると「ほら、餌だよ」と菓子パンを投げて玄関で酒を飲みだすのだった。

 父はさすがに見かねて夜勤で出勤する前に料理の作り置きをした。それを知った母は余計なことをするなとヒステリーを起こしてやめさせたので、よほどアタシの餌やりがしたかったのだろう。

そんな母だが父とはラブラブである。ラブラブなのだが、性欲が父だけでは処理が追いつかない年中発情期のメスであった。父が夜勤でいないときにはまだ小学低学年のアタシが寝ている隣で他の男と子作りに励むというイカレ具合だった。

 幸いなことにクルド人の血は日本人より濃いのか今東京に両親と一緒に住んでいる弟も妹もアタシと肌の色が一緒である。


 203X年、こんな地方の田舎高校ですらクラスにスペイン系津玉やクルド系のアタシのような外国にルーツを持つ生徒が1割ほどいるのが当たり前の社会になっていった。


こんなシェイクスピアの台詞はありません。

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