は ~再開~
「何でこんなところにいるの?」
「ええと、」
ずかずかと近づいてくるエイダを見て、あたしは、少し引いてしまう。しかし、その言葉は、あたしに向けられていた言葉ではなかった。
エイダは、あたしの横を通り過ぎ、レヴィの前に立った。再会に驚いていた、あたしは少しほっとするのと同時に、エイダが直接レヴィに向かって行ったことに驚いていた。
「あら、あなたは、昨日会った人ですわね・・・どうしてこちらへ?」
「昨日会ったのは、%&$%の勤め故のことよ。あなたに語ることなどないわ。昨日の夜ことは水に流してあげるからおとなしくしていてもらえるとうれしいんだけど」
レヴィが、辛辣な言葉を投げかける。思わず、あたしは割って入った。
「レヴィ、そこまで言う必要ないでしょう?・・・エイダ・・・様、何かあったんですか?レヴィは、昨日の夜も私と一緒にいました」
「昨日の夜?クラウ、ここは、王都から2日は離れているのよ。なんで、あなたがここにいるの?」
しまったと、あたしは自分の浅はかさを呪った。しかし、2日もかかる場所に、もう着くなんて・・・どういうことなのだろうか?あたしは、リアーナさんを仰ぎ見た。リアーナさんは、すこしかんがえていたが、発する言葉がないようだった。
「まあ、まあ、そう、目くじらを立てても仕方ないよね。リアーナ久しぶり。あと、レヴィ、元気にしていた?」
そんな時だった。ターニャが、助け船を出してくれた。リアーナは、ターニャの言葉に頷き、レヴィは、少し不承な態度ながらも、ターニャの言葉に肩をすくめた。
「あと、クラウ?元気だった?」
「ええ、元気です。王都で何かあったみたいで、6日間も閉じ込められたのですが、元気にしていました」
「王都で、何か?」
「ええ、なんか偉い人が来たって・・・」
あたしのその言葉に、ターニャが、一気に渋面になった。というか、もしかして怒っている?
「その偉い人って?」
「あたしは、何も・・・」
ターニャの視線が、一人に向いているのを見た。それは、リアーナに向けられていた。さすがにリアーナも、視線を逸らす。
「で、クラウは何しに来たの?」
不意に、レオに声をかけられる。私は、ふと、ワンピースのポケットに手を置いた。何かが入っている。そっと広げると、あの、部屋に置いてきたはずのクエストカードだった。
『チョーカーといい、クエストカードといい、いきなり現れるのは、少し遠慮してほしいな』
「うん、実はね・・・クエストで来たの」
あたしの動作は、不審には思わなかったらしい、クエストカードをレオに渡す。
「おい、これって、・・・ほとんど読めないけど、クラス変更のクエストか?クラウ。誰から、これを渡されたんだ?」
いきなり、両肩を、レオにつかまれる。その手の大きさと力の強さに驚いてしまうが、あたしは、あくまで冷静を装った。
「よくわからないんです・・・ただ、黒い少し大柄な女性だったと思うのですが・・・」
「黒衣の聖女だ・・・”洗礼”を行える数少ない人物。王都に賓客が来ているとは聞いていたが、魔王ではなく、聖女の方だったとは・・・まさか、王都にいるのは・・・こうしてはおれないな」
「クラウさんが、剣聖ではなくなるということですか?」
今までレヴィと話をしていたはずのエイダ様が、あたしの前に立った。少し怒っているようだ。何もしていないんだけどなと、あたしは、ただ、内心ため息をついた。
そのクエストカードは黒塗りと不明で固められていた。レヴィは読めるようだったけど、結局その内容を教えてくれることは今日までなかった。
「あたしは、何も聞いていませんが、これって、クラス変更のクエストなのですか?」
「あたし?」
エイダが、眉をひそめた。・・・何か癪に障るようなことを言ってしまったのだろうか?そっと、顔色をうかがう。
「今度は、砕けた物言いのまねですか?飽きませんわね。クラウ?」
どうやら、この間のことは、まだ続いているみたいだった。あたしも内心でため息をつく。そんな中、レオが、ターニャとリアーナに言いがかりをつけているみたいだった。あちらも大変そうだった。
「ですから、それはできませんわ。なぜ、指名クエストをあなたたちが受けるのですか?これは、ギルドの規約にある行為ですよ」
「じゃあ、なんで、クラウにそんな指名クエストが出るんだ?すでに剣聖でも何でもないのだろう?ならば、前衛を支えるこちらにも、クラス変更のクエストが発注されるはずではないのか?」
「レオ、少し落ち着け・・・指名クエストだぞ、その相手しか受けられないに決まっているだろう」
「指名クエストが発注される?あなたに?あなたごときに?そんなこと、勝手に決めないでくださいね。ああ、もう、これだから、問答している時間はないというのに・・・」
「リアーナも、挑発するな」
そんな折だった。
「やあ、リアーナ。ずいぶんと苦労しているようだね」
不意に、まるで地面から生えてきたように、一人の男がリアーナの肩に手を置いた。リアーナは、ほんの刹那まるで、仇を見るような表情を浮かべるが、すぐに平静を取り戻し、肩から手を払う。
あたしは、その人に見覚えがあった。あの、祭りの夜に会った。
「ギターラの人?」
「そうだ。また会えたね」
「まさか、あなたが依頼主ですか?」
「まあ、そうと言い切れないところもあるが・・・リアーナ?いいではないか。すこし競争してもらうというのも」
男の声に、リアーナは、少し悩んだようだったが、仕方なさそうに頷く。
「競争ですか?」
「そう、今回のクエストでは、星炎の欠片の回収が目的になる。星炎の欠片集めて、王都の大聖堂にいる、黒衣の聖女に渡すことができれば、その者に、新たなクラスを授けよう」
星炎の欠片・・・それは、いま、王都で流行っている宝石に同名のものがあった。そんな高価な宝石を集めるなんて、確かにそれは大変なクエストだ。
「星炎の欠片か・・・当てはある」
「あら、あなたに、真贋がわかりまして?」
早速、エイダとレオの間で火花が散っている。あたしは、その光景をぼうっと見ていた。宝石か・・・高いよね・・・ふと、お金なんて持っていないことに気が付いた。あの裁判の後、本部のギルドにもよっていないし、あの時もらった退職金は、ジョンさんに預けたことを思い出した。
『そういう、クエストだったら勝ち目ないかな』
「彼女は、あと一週間は王都に留まる予定だ。その間に、用意してもらおうか」
二人は、驚き、そして、頷いた。
「彼女には伝えておこう、さて、クエストカードを渡しておこう。正式に受領する場合は、王都のギルドを通じて行ってくれ」
男は、懐から、クエストカードを取り出し、レオとエイダに渡した。そういえば、他のパーティメンバーはいいのだろうかと、あたしはレオのパーティメンバーを見てみると、他にクエストを受けるメンバーはいなかった。
「ねえ、報酬が、クラス認定のやり直しって話だけど・・・」
あたしは、そのパーティメンバーに近づいて聞いてみる。確か、魔術士のアレクだったな。
「ああ、いいのいいの。俺はこのクラス気に入っているからさ。転職なんて興味がないな。」
「アレクがいいっていうんだったら、俺もいいさ。適性とか悩んでも仕方ないからな。俺はこのクラス結構いけてると思っているぜ」
闘士のバルクもそれに続いた。
「私の場合は、報酬品を準備できないっていうのが大きいかな・・・ただ、クラス裁定の結果がもしこのクラスより悪い結果だったら、みんなの役に立てないから」
一緒にいた弓を持った女性もそう答えた。
「全く・・・$%’たちは、勝手なことばかり言って・・・こっちの都合も考えてほしいよ」
そこに、ターニャが戻ってきた。心なしか、呆れたような表情を見せている。ふと視線を移して一瞬しまったという表情を浮かべた。
「クラウのことは言っていないからね」
「何も聞こえていませんけど」
あたしは、ターニャの言葉の意味が理解できずに少しきょとんとした表情を浮かべてしまったらしい。
「そう、聞こえていないのならいいよ。全く・・・まだクエストは残っているっていうのに、」
門の近くでちょっとした騒ぎになっているのに、誰も出てこないのは、このことが、あまり珍しくないことだからかなと、勝手にあたしは納得し、5人の話がまとまるのを待った。
「お待たせした」
「お待たせ!」
結局話がまとまったのは、太陽が南天を迎えつつあるころだった。レヴィは茶々を入れていただけなのに、まるで、立役者のように、堂々と歩いてくるのをみて、あたしは一瞬可笑しさを覚えた。
「で、エイダ、レオどうするの?」
ターニャが、二人の顔を見ながら問いかける。これから、もともとは、山岳のクエストの後にこの村の周辺の討伐を行い、再度山岳へ向かう予定だったが、二人とも、予期たにしないような依頼が舞い込み、浮足立っているように見えた。
「決まっています。もう必要数の討伐は終えていますので、今日の馬車で、王都へ帰ります」
「私も同じですわ」
呆れたように肩を、ターニャは落としたが、仕方ないと割り切ったようだ。
「じゃあ、二人は、ここで、中途達成を報告してから帰ってくれ。あとの3人はどうする?」
「俺は、次の山岳討伐まで参加するよ」
「では、俺も」
「ええと、あたしもそうします」
ふと、名案が浮かんだかのような顔をリアーナがした。
「そうだ、エイダ、レオお使いを頼まれて。本部のギルドに、クラウは5日くらい留守にするって伝えてもらえないかしら?」
「5日も?」
「ええ、そうよ」
リアーナは、あたしの方を見た。あたしはよくわからないと首を傾げた。延長っていうことだろうか?
「ええ、これから、クラウと私たちはクエストに出るけど、明日の昼にはクエストが終わっている予定よ。だから、翌日から、2日間、あなたたちのパーティのサポートに入るっていうのはどう?」
「ええ?終わったら帰ろうよ」
レヴィから提案されるが、リアーナはその意見を無視した。ターニャは、考えごとをしているようだったが、やがて、はあっと、ため息にもにた息を吐き、諦めたように声を出した。
「相変わらずですが、戦力が多いほうがいいですね。明日はこの村まで戻ってくるのですか?」
「ええ、そうよ。明日の朝には帰ってこれる予定ね」
星炎の欠片をここの近くで発掘でもするのだろうか?あたしは、自分の服装を改めてみた。廃棄区画に入ったころ、最初のころこそ、軽装鎧を着てはいたが、最近では、ワンピースでずっと過ごしている時間が増えた。とうぜん、今日もワンピースで着ている。
エイダからの視線が訝し気に刺さっている。確かにあたしの服装は、クエストに向かうような服装じゃないのは明らかで、よく見ても、討伐者ではなく、少し目立つ町娘にしか見えない。
「では、話もまとまったようだな。行こうか」
男が、場をまとめると、ターニャたちと、あたしたちは別れた。村に入り、中央の広場に向かっていく。視線が集まるのを感じる。あたしの髪は、そんなに目立つのだろうか。
3人に守られるように、ギルドの建物にたどりつく。そこは、今あたしたちが暮らしている建物と同じくらいの大きさだったが、今住んでいる建物よりも、くたびれた様子はない。
受付にいたのは、老人だった。
「本部の青銅級。リアーナです。今日はクラウのクエストのサポートに入ります」
「ええ、聞いていますよ。リアーナさんですね。ええと、同行者を確認したいのですが」
「ええ、この二人です」
老人は、眼鏡をかけなおしながら、書類と見比べて、確認を行った。
「はい、確認しました。では、あとの書類はこちらでやっておきますので、出てもらってもいいですぞ」
「じゃあ、行こうか?クラウ」
「ええ、あ、はい」
クラウは、リアーナと一緒に、建物から出る。ちょうど、太陽が南天を迎えつつあった。でも、今日はおなかもすいていないし、他の3人も同じようだった。
そのまま、村の外に出るために、人通りのない、寂しい通りを歩いていく。さっきから、あまり人に会わないな・・・。結構大きな村のはずなんだけど。あたしは、かすかな疑問を感じていたが、それよりも、クエストの内容が気にかかった。
「あの、でも、星炎の欠片を探すんですよね?そんなの見つけられるんですか?今日中に?」
「確かにそうね。でも、きちんと聞いていた?」
リアーナの声に、あたしは、首を傾げた。クエストは、星炎の欠片を集めて、王都の黒衣の聖女に渡すことだよね?
「星炎の欠片の回収と言ったな。それは、宝石の名前でもあるけど、他の物を指し示すこともあるのだよ」
男はそういうと、レヴィの方を見た。レヴィは、少し不機嫌そうに、顔をそむけた。二人は知り合いなのかな?
「昔、王都に星の炎で鍛えられたといわれる聖剣が降り立った。その聖剣は、魔剣を探していたが、王都にはついに魔剣は顕れなかった。途方に暮れる聖剣に人は願いを託した。しかし、聖剣にその願いをかなえるすべも、聴き入れるすべもあるはずはなかった。
なぜなら、聖剣は、」
「そこらへんにしておいてくれないかしら?さすがね、聖者。即興詩でそこまで作れるといろいろと勘繰りたくなっちゃうじゃない」
「お褒めにいただいて幸いだよ、レヴィ」
二人は、仲がいいのか、悪いのか、お互いに牽制しながら、歩いているようだった。ふと気が付くと、すでに山の中に入っていた。
あれ?こんな山近くにあったかな?
「リアーナ、いつの間に山に入ったの?」
「え?ええと、ほら、ついさっきよ」
さっきまで確かに、村の中の通りを歩いていたはずだ。ふと空を見ると、太陽の角度はそこまで変わっていなかった。あたしは、ここにきて、不気味さをわずかに感じた。
その反応で体が引いてしまう。その時、あたしの手が誰かに握りしめられた。視線を移すとそこにはレヴィがいた。一瞬泣いているように見える。そして、あたしの手は、あの時見た、白に蒼と翠のラインが走っている金属の光沢をもったものへ変わっていた。
「レヴィ、これって?」
「・・・リリアナ、聖者、少し待って。やっぱり、クラウに、私たちのことを話さないといけないわ、少しだけ時間を頂戴」
「同化してみるのか?同型ならば可能だろうが、危険ではないのかい?」
「さすがに、それは無理だと思うわ。そうだ、レヴァーティン、最近開発された、情報の共有を行ってみてはどうかしら?」
その言葉に、レヴィが頷き、あたしの目をしっかりと見つめなおした。そして、額に空いている左手を伸ばしてくる。
「ええと、レヴィ?何をするつもりなの?」
「大丈夫クラウ・・・たぶん」
レヴィも苦笑している。
「たぶんって・・・うん、レヴィの言うことなら信じるよ」
その言葉にレヴィは、少し驚いた表情を浮かべた。少し後悔をしているような表情を浮かべる。
「本当に、ごめんわたしたちの言葉は、わたしたち以外の信じてもらえないから・・・もっと早く話しておけばよかったけど・・・信じてもらえないのが怖かった。だから、」
「いいよ」
あたしはそっと、左手を重ねて、そのまま、その手首をつかんだ。レヴィの眼に驚きと、安どの表情が浮かんだ。
「レヴィのことなら信じているから」
レヴィの手の平から光があふれ、それがあたしの額にふれるのを感じた。そして、あたしの頭の中に知らない記録が流れ込んできた。




