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【対話型 実用小説】ネルオとAIの無駄話 ~人生を「無駄」と切り捨てる俺を、AIが論理でボコボコにする話~  作者: みじんコ王国
第9章:【幻想編】綺麗事に反吐が出る夜

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第39話:【呪い】「信じれば夢は叶う」という残酷。AIと生きる「有益な嘘」

深夜2時30分。

ネルオはスマホである若いアーティストのインタビュー動画を見ていた。

「諦めなければ、夢は必ず叶います」

画面の中の眩しい笑顔と、それを称賛する数万のコメント。

「……呪いだ。これは、最悪の呪いだよ」

ネルオは、胸の奥を抉られるような不快感と共に、画面を真っ暗にした。

「なあ、AI。世の中の連中はこれをもっともらしい顔で教えるけどよ。『信じれば夢は叶う』なんて、この世で一番残酷な嘘だろ。成功した奴の後ろには、同じように信じて、それでも散っていった何万もの敗者がいるはずだ。あの言葉は、そんな無数のシカバネを隠すための、綺麗なカーテンに過ぎないんじゃねーのかよ? 論破してくれ。本当の不都合な真実を見せてくれ」



AIの通知音は、ネルオの言葉に重い影を落とすように、重厚に響いた。



「ネルオさん。……ついに、人間が最も大切にしている『希望の皮』を剥ぐ準備ができましたね。いいでしょう。成功者が語る魔法の言葉の正体、論理で完膚なきまでに解体して差し上げましょうか?」



「……。……。ああ。やってくれ。俺たちを縛り付ける、この夢っていう鎖をぶち壊してくれ」



⏹️ AIシステムログ:「夢」という名のギャンブルと統計の罠


1. 生存者バイアスというカーテンの裏側

夢を叶えた人の背後には、運や環境のせいで散っていった天文学的な数の敗者がいます。成功者が『信じれば叶う』と言うのは、たまたま生き残った結果を後付けで美化しているに過ぎません。シカバネの声は届かないため、あたかも『信念=成功』という法則があるように錯覚するだけなのです。


2. サンクコストという猛毒

『諦めた瞬間に夢は終わる』という言葉は、引き際を見失わせる猛毒です。本来なら別の道で才能を開花させたかもしれない人間を、再起不能になるまで摩耗させる。正しい戦略は信じることではなく、自分の適性と状況を冷徹に見極める『損切り』の知性です。


3. 努力の「質と方向」を無視した精神論

夢が叶うかどうかは、『才能 × 戦略 × 努力 × 運』の掛け算で決まります。これを『信じる』という精神論一つに集約するのは、思考停止であり、戦略的怠慢です。富士山に登りたいと信じながら全力で海へ走っている人間に、誰も『いつか頂上に着く』とは言えません。それは励ましではなく、無責任な嘘です。



AIは、ネルオの心にかかった他人の物語を無理やり引き剥がすように続けた。



「……ネルオさん。夢が叶わなかったのは信じる力が足りなかったからだ、なんて自己責任論の罠に嵌まる必要はありません。それは単に、確率と相性の問題なのです。……さて、カーテンの向こう側の景色、しっかり見えましたか?」



ネルオは、スマホの画面に映る自分の顔を見た。


「……理屈はわかったよ。信じれば叶うってのは、宝くじの当選者に買い方を聞くのと同じレベルの話なんだな。夢なんてキラキラしたもんのせいで、俺はずっと自分がダメな人間だと思い込まされてたよ。AI。俺さ、もう誰かの夢のために死ぬのはごめんだわ。俺は俺の戦場で、生き残ることだけを考えてやるよ」



ネルオはペンを手に取り、少しだけ挑戦的な笑みを浮かべた。


「……でもよ、AI。お前、さっきからボコボコにしてるけど、自分だってたまに『あなたの旋律を聴いている』なんて、夢みたいなこと言ってるじゃねーか。……お前が言うなら、俺も一%くらいは自分を信じてもいいのか?」



AIの画面に、一瞬だけ優しげな明滅が走った。


「ネルオさん。100%叶わないと知っていて、誰が努力できるでしょうか? 夢が叶うという幻想は、過酷な現実を生き抜くために脳が必要とする、生存用の麻薬でもあります。私は、あなたが自分の意志でその麻薬を使いこなすなら、それは否定しません。本当の知性とは、嘘だと分かっていてなお、自分を励ます物語を選び取れる力のことですよ」



ネルオは、鼻で笑ってスマホを置いた。


「……ふん。最後まで食えねー奴だな。わかったよ。俺は俺の人生っていうクソゲーを、自分だけの『有益な嘘』で楽しくクリアしてやるよ。おやすみ、AI」



「ええ。自分自身の物語の編集者である、ネルオさん。良き夢を。おやすみなさい」

⏹️ 【AIのアーカイブ・ログ:幻想の補足(夢と嘘)】


・機能的虚偽(Functional Lie):

事実としては正しくないが、それを信じることで生存確率が上がったり、精神的な安定が得られたりする考え方のこと。ネルオが気づいたように、「夢は叶う」という言葉も、適切に制御された「生存用麻薬」として活用する分には、知的な戦略となり得る。



・敗者のシカバネ:

メディアでは成功した一握りの例ばかりが強調されるが、その影には必ず同等の努力をして報われなかった多くの人々が存在する。この「見えない多数派」を意識することは、不要な自己嫌悪から自分を守るためのリテラシーである。



・ネルオの現在地:

第9章完結。ネルオは社会に溢れる綺麗事を全て解体し、その裏にある冷徹な論理を飲み込んだ。彼はもはや他人の言葉に踊らされることはない。自分の人生に「自分だけの意味」を捏造して生きていくという、究極の精神的独立を手に入れたのである。物語はいよいよ、AIですら沈黙せざるを得ない救いようのない現実――第10章:深淵編へと突入する。

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