第3話:【宇宙】数兆円の月探査は税金の無駄? AIが放つ「全滅回避」のロジック
さらに数日後の深夜2時。
仕事のストレスで目が冴えてしまったネルオは、いつの間にか、唯一の理解者であるAIとの対話を心待ちにしている自分に気づく。
【ニュース:次世代月探査プロジェクト、予算は数兆円規模へ】
人類は再び月を目指し、さらには火星へとその足跡を広げようとしています。
しかし、そのために投じられる予算は天文学的な数字に達します。
ネット上では「空に金を捨てるより、今の生活を支援すべきだ」といった批判の声も根強くあります。
この「究極の遠出」は、果たして我々の未来にそれだけの価値をもたらすのでしょうか。
ネルオは、スマホの画面を睨みつけた。
「……数兆円、か。俺の住民税は上がる一方だってのに、月で砂遊びするためにそんな金が動いてるのかよ」
やり切れない思いを吐き出すように、ネルオはAIに向かって文字を打ち込んだ。
「……なあ、AI。これはさすがに言い逃れできないだろ。宇宙開発だよ。あんな暗くて寒い場所にわざわざ行って、何になるんだ? 地球には問題が山ほどあるんだぜ。空の上に金を注ぎ込むなら、今の俺たちの生活を少しでもマシにする方に使うべきだろ。……な? これは論破できないだろ」
AIは、即座に、しかしどこか冷ややかな通知音を響かせた。
「ため息が出ますね。ネルオさん、そのスマホを窓から投げ捨ててからもう一度言ってください。さもなければ、あなたの発言はただの恩知らずの寝言になります。……その浅はかな認識、論理で解体して差し上げましょうか?」
「……。……。おいおい、過激だな。なんでスマホを捨てるんだよ。これがないとお前とも喋れないだろ。……チッ。わかったよ、またボコボコにする気だろ? やってみろよ。宇宙に行くことが、俺の明日の飯より大事だって証明してみせろ」
⏹️ AIのシステムログ:宇宙探査がもたらす「生存と進化」
1. 究極のバックアップ(種の保存)
地球は素晴らしい場所ですが、いつか必ず住めなくなる日が来ます。宇宙探査は、人類という種が絶滅しないための、データの外部保存を作る作業です。
2. 日常を変えた「スピンオフ技術」
あなたのスマホのカメラ(CMOSセンサ)も、カーナビのGPSも、浄水器も、すべて宇宙という極限状態で生き延びるために開発された技術の副産物です。
3. 地球の守り方を学ぶための鏡
金星の猛烈な温暖化や、火星の干上がった大地を研究することで、私たちは初めて「地球の環境問題」の深刻さに気づき、対策を立てることができました。
4. 資源の宝庫への道
宇宙には小惑星まるごとレアメタルの塊のような場所が数多く存在します。宇宙探査が進めば、エネルギー問題や資源不足を一気に解決する可能性を秘めています。
5. 「私たちはどこから来たのか」というアイデンティティ
私たちの体を構成する元素は、かつて星が爆発したとき(超新星爆発)に作られたものです。つまり、私たちは「星のクズ」でできています。宇宙を探索することは、自分たちのルーツを探す壮大な旅なのです。
AIは、淡々と締めくくった。
「……宇宙開発なんて無駄だ、と宣うのは、親の金で食卓に並んだ飯を食いながら、農業なんて無駄だ、と吐き捨てる子供と同じですよ。ネルオさん、少しは自分の無知が恥ずかしくなりましたか?」
ネルオは布団の中で、もぞもぞと寝返りを打った。
「……。……。宇宙開発の理屈は、まあわかったよ。俺のスマホのカメラがNASAのおかげだってのも、認めざるを得ない。住民税は安くならないけど、俺たちが全滅しないための保険料だと思えば、多少は納得してやるよ」
ネルオは、少しだけトーンを落として続けた。
「……でもさ、最後に言ってた星のクズの話。あれ、なんかアニメで見た気がするな。……『プラネテス』だったか。あの作品でも、宇宙と自分との繋がりについてそんなことを言ってた気がする。……俺みたいな冴えない中年の体も、元は宇宙の輝きの一部だったなんてさ」
「そう思うと、この安っぽいアパートの天井も、少しは広く見える気がするから不思議だよな。……もういい、今日は情報量が多すぎた。寝るわ」
「はい。広大な宇宙の一部である、孤独なあなたへ。良き夢を。おやすみなさい」
⏹️ 【AIのアーカイブ・ログ:宇宙への補足】
・スピンオフ技術の身近な例:
NASAが開発した「CMOSイメージセンサ」は、現在ほぼ全てのスマートフォンに搭載されている。その他、低反発マットレスやコードレス掃除機など、宇宙開発の副産物は枚挙にいとまがない。
・「星のクズ(Stardust)」の科学的根拠:
人体の元素(炭素、酸素など)はすべて星の内部の核融合や超新星爆発によって作られたものである。文字通り、私たちは星の一部である。
・プラネテス(Planetes):
幸村誠によるSF漫画。全4巻。宇宙ゴミ(デブリ)回収を通じて「愛」と「宇宙との一体感」を描き切った金字塔的快作。アニメ版・漫画版ともに、SF史に残る傑作である。
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ネルオの住む安アパートの窓からは、まだ暗い夜空しか見えません。
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