第340話 帝国皇女殿下、再度オドウェイン帝国皇帝を止めようと試みる
(帝国第二皇女視点)
帝国第二皇女は、再度オドウェイン帝国皇帝を止めようと試みます。
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わたくしからお父様=オドウェイン帝国皇帝陛下への説得はものの見事に失敗していた。
神が遣わされた『鳥船』という圧倒的な存在をもってしても、お父様は大司教猊下の『幻術』というご説明を受け入れられ、わたくしの言葉など耳に入れてくださらなかったのだ。
今にしてみれば、それはそうだろうと思う。
お父様は帝国を絶対的なものとお考えになられていて、帝国を、お父様を賛美、賞賛する者以外は不要とお考えになられているようなお方なのだから。
いえ、以前のわたくしもそうだったのよね。
この世=エルゲーナに帝国に刃向える存在などないと信じ切っていたのよ。
どんな国であろうと、それこそ聖教であろうと、全ては帝国の思いのまま。
帝室の一員であるわたくしに反論する者などいれば、何も考えることなく不敬罪に処していたでしょう。
それくらいに驕っていたのよ。
まさか、神がその絶対的なお力を持って、帝国の行いにご介入されるだなんて考えもしなかったの。
その結果が、これ。
わたくしの説得も虚しく、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下はご警告の段階を更に一段上げられて、帝都の港に停泊されている軍船を全て消し去れるというご奇跡をご披露されることとなったの。
空に浮かぶ軍船が消え去る同時に発生した暴風は、帝城を更にボロボロにし、今や謁見の間は、薄暗い廃城のそれのよう。
もはや、取り繕うことも叶わないほどに、帝城は酷い有様だった。
「はぁ」
どうして、わたくしはお父様を止められなかったのかと、悔やまずにはいられない。
これで帝国は海に持つ戦力の三分の二を失い、なおかつ熟練した海兵をも失うことになった。
おそらく、あの灯火による信号が止まった瞬間に、軍船にいた者たちは、嘆きの立像に変えられたのだろう。
これで、お父様がお考えを変えてくだされば良かったのだけれど……ダメだった。
まさか、聖女猊下らを帝国の力として組み込もうとお考えになられるだなんて。
「……いえ、以前のわたくしなら、そうしたのでしょうね」
以前のわたくしも、もし同じ状況に置かれていたなら、そうしたと思うわ。
メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下はともかく、ハードリー・サンクタ・プレフェレ・ハラウェイン聖女猊下を帝室の一員として迎えるという提案が断られるだなんて思いもしなかったでしょうし。
けれど、ハードリー・サンクタ・プレフェレ・ハラウェイン聖女猊下は、即断でお断りされたの。
「よろしいでしょうか、陛下?
わたくしは一度貴方方の工作活動によって命を落とし、神よりメリユ聖女猊下のお身体を賜ったんです。
そう、今のわたくしには、皇族の血など一切流れていないんですよ?」
お父様が珍妙な者を見るような眼差しで、ハードリー・サンクタ・プレフェレ・ハラウェイン聖女猊下をご覧になられていたのが少し可笑しかった。
そうね、お父様には理解できないことだろうと思う。
神に、そして、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下にお仕えし、神より特別なお力を下賜されているというご名誉。
ご神命の代行者様のお一人として、エルゲーナに秩序を取り戻されようというご気概。
どれもお父様には理解できないものなのよ。
「はあ、理解できぬな。
帝国に与すれば、地位も名誉も思うがままだと言うのに、聖教に、神に仕えることを選ぶか?」
「理解できないのは、わたしの方ですわ。
帝国周辺の国々の民に苦しみを撒き散らすことがエルゲーナの平和に、平穏に繋がると本気でお考えなのでしょうか?」
ハードリー・サンクタ・プレフェレ・ハラウェイン聖女猊下のお言葉に、お父様の目つきが変わるのが分かったわ。
あれは、不要な者を見る目。
自分に付き従わないと判断すれば、一族郎党斬首されることすら厭われない、それがお父様なのよね。
本当に怖ろしい。
サラマ・サンクタ・プレフェレ・セレンジェイ聖女猊下とメリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下がいらっしゃらなければ、わたくしもまたこの目で見られることとなっていたのだと思うわ。
「はあ、余の理念を理解できぬ者など要らぬわ。
そこな聖女はどうだ? 帝室の者との婚姻の上、帝室に迎えてやっても良いぞ」
「メ、メルーも、ですか?
ぉ、お断りしますっ!」
まあ、そうなるでしょう。
メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下を敬愛される聖女猊下方がお父様側につく訳がないのだから。
タダ、お父様の面子をこれほどまでに潰されたとなると、かなりまずいわね?
これほど物事がうまく運ばない状況で、お父様が黙っていられる訳がないもの。
バリアがあるのだから、聖女猊下の皆様、特使の皆様に危害が加えられる可能性はないとしても……交渉は決裂してしまうのではないかしら?
それは……つまり、帝国にご神罰がくだされるという可能性もあるという訳で。
焦りを覚えたわたくしが(お父様のお言葉を無視して)口を開こうとした次の瞬間、
「父上っ、へ、陛下っ、こちらに、逆賊が、神の遣いを僭称する悪魔の手先が来ていると……」
謁見の間に飛び込んで来られたのは、お兄様=ラスコレー・インペリアフィロ・オドウェイン第一皇子殿下だったのよ。
「な、何だ、これは……謁見の間が……まさか、このような」
本当に頭の痛いこと!
主城門を閉ざすよう指示され、特使への攻撃すらも指示されたのに違いないラスコレーお兄様がこちらにいらっしゃるなんて、余計に話が抉れてたしまうじゃないの!?
「っ!?」
わたくしの嫌な予感が的中してしまったかのように、僅かな蜜蝋しか灯っていない薄暗い謁見の間で、唯一眩いばかりの神聖なお光を放たれていらっしゃるメリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下をラスコレーお兄様は(すぐさま)見付けられ、憎しみの籠った眼差しに睨み付けられるのよ。
「そこのぉっ、帝城を攻撃し、主城門を破壊した悪魔の手先め!
このわたしが成敗してくれる!
近衛騎士団第一大隊第一中隊、続け」
ラスコレーお兄様の背後には、槍を手にした第一中隊の騎士たちがいて、特使の方々を打ち取ろうと血走った目で、お兄様の命に従い襲いかかったのよ。
バリアがあるのだから、無駄というのに。
特使の方々が意に介さずとばかり、バリアに槍に突き立てる帝国の騎士を無視され続けたのはさすがだったわ………。
「はぁ、はぁ、結界とは、何と卑怯な」
当然のことではあるけれど、一刻ほどの間、槍を突き立て続けたところでバリアが破れることはなく、第一中隊の騎士たちも(ようやく)匙を投げられたご様子だった。
特使の方々は、整列されたまま、特に動きを見せられることもなかったのだけれど、その冷ややかな視線は(内部にいる)わたくしたちにとっても痛いものだったわ。
これで、お父様も帝国が聖女猊下ら特使の方々をどうにかできるなんてことはないとご理解されたことだろう。
ただ、これだけでは停戦に持ち込むに少し弱いように思うのよ。
『鳥船』のお力の一端だけでもお見せいただければ、さすがのお父様も折れるかとは思うのだけれど、どうかしら?
『わたくしがここにいるのは帝国、帝都にご神罰をくだされないようにするため』
ここでわたくしが動かなければ、特使に加えていただいた意味もないのだわ。
「お父様、この辺りで手打ちにしていただくことできませんでしょうか?
神のお力による結界、バリアを『人』の手でどうにかすることなど決して叶わないのでございます」
「はぁ、はぁ、アレム、テーナ、なぜお前たちがそちらにいる?
帝国を裏切ったのか?」
はあ、本当にラスコレーお兄様には、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下のお姿しか見えていなかったのね?
今更何を……とは思うけれど、今はお父様との交渉が先決よ!
「黙れ、ラスコレー。
これ以上、場を掻き乱すな、この愚か者が」
「し、失礼いたしました、陛下」
お父様の静かな怒りの籠ったお声に、ラスコレーお兄様も引き下がられる。
「テーナ、先ほど帝国へ神罰がくだると申していたな。
詳しく説明してみせよ」
お父様が食い付かれた!
ええ、今の帝室で神のお怒りをお父様に説明申し上げられるのはわたくしのみ。
これでお父様が折れてくださらなければ、さすがのメリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下もご仲介を諦められてしまうかもししれないのよ。
だから、しっかりしなさい、テーナ・インペリアフィリーノ・オドウェイン!
「先日の聖国の夜を染めた白き光は、聖都ケレンを焼き尽くさんとされた神よりのご警告でございました。
聖女、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下が間に立ってくださっておられなければ、聖都は灼熱地獄となり、その存在自体が失われていたことでございましょう。
先ほど、軍船の消失も、あくまで軽いご警告で、神が本気でご神罰をくだされるとなれば、て、帝都は……滅びを迎えることになるかと思いますわ」
「滅びか? 神が『人』の営みに無粋にも関わってくるだと? 全くもって愚かしい話だ。
聖国や小王国にとっては、受け入れられぬかもしれんが、我が帝国が他国を飲み込まんとするのも帝国人としての『人』の営みの一つなのだ。
戦をするな、血を流すな、など、『人』の営みを無視した偽善の言葉だ」
……やはり、わたくしの言葉程度ではダメかしら?
「陛下のお言葉の通りだ!
戦を止めるなど、帝国の血の流れを止めよというのに等しい!
力ある者は、その力を振るってこそ、この世の秩序を保てるというものだ」
ラスコレーお兄様まで!
余計なことを言わないで欲しいのに。
わたくしは(冷や汗を人知れず流しながら)お父様の目を見続ける。
そう、ここで逸らしたら、もうそれで『負け』なのよ?
「わたくしは……」
「軍事が貴国にとって、一つの産業のようなものであり、それに関わられている方々も多くいらっしゃるというのは理解できますわ。
しかし、貴国の軍事行動が他の多くの国々に不幸を撒き散らすことだけは看過できないということなのです」
メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下。
その猊下のお言葉から穏やかさがまた(更に)失われたように感じられて、わたくしは手足に鳥肌が立つのを感じてしまったわ。
「看過できぬか。
それは神が、それとも貴殿が、か?」
「……致し方ございません。
ご神命の代行者として、ご神罰の第一段階を執行させていただきます。
陛下は、『人』の痛みを感じられたことがないのでしょう?
まずは貴国にその痛みをご理解いただくことにいたしましょう」
ご神罰の第一段階。
その怖ろしいお言葉に、わたくしは自分の顔が強張るのを感じてしまっていたわ。
そう、わたくしでは陛下を止めることが叶わなかった。
言葉を尽くすだけでは、止められないような嫌な予感はしていたのだけれど、まさに現実になってしまうだなんて。
こう、なってしまっては、帝国はその痛みを知って、初めて後悔することになるのでしょうね?
わたくしは、帝室の一員として、ご神罰を止められなかったことにタダ帝国の民たちに(心の中で)懺悔し続けることしかできなかったの。
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追記でございます。
リアルな戦争、紛争が起きる前に構想し、その構想の通りに書き続けております拙作でございますが、まさかこう立て続きに色々起こるとは予想もしていないことでございました。
早く平和な世界に戻って欲しいものでございますね。




