第339話 ハラウェイン伯爵令嬢、オドウェイン帝国皇帝からの甘言を拒絶する
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は、オドウェイン帝国皇帝からの甘言を拒絶します。
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オドウェイン帝国の帝都ベーラートにあった全ての軍船が消去された後、吹き荒れていた強風が収まる頃には、謁見の間は異様な光景になっていました。
『鳥船』ご到着時の影響が最小限に抑えられ、被害があってもすぐさま片付けられていたのでしょうが、今は大型のシャンデリアに灯る蜜蝋もほぼ吹き消され、キィキィと揺れているだけなんです。
窓の外に吸い出された方は幸いにもおられなかったようですが、窓枠にしがみ付かれた帝国の帝室、貴族、聖職者の方々は押し黙られたまま、外の光景を茫然と眺められていました。
「……何という」
窓際にいなくても、窓の向こうにたくさん見えていた軍船は跡形もなく消え去り、不思議なことに先ほどまでの風雨も収まっているようでした。
しかし、『鳥船』は今も帝都の上にあり、日食を齎し、神のお怒りを示しているのです。
大司教猊下は、青褪めたご様子で手を上下に動かされ、神への祈りを捧げようとされているようですが、今更でしょう?
帝国のために、貴方方が何をしたのかはわたしもしっかり覚えているのですもの。
「消えた、消えたぞ」
「我が帝国の軍船が押し潰されるようにして消えた!」
「馬鹿なっ、こんなことがあって良いのか!」
「こ、これがご警告だと、あの使徒は、神ではなく、悪魔の遣いなのではないかっ!?」
何て不敬な!
悪魔の手先のように、エルゲーナの秩序を乱されようとしたのはどちらなのかと問い詰めてあげたいです。
「はあ、鎮まれ」
騒ぎ出す、帝室、貴族の方々に対し、窓辺で全てをご覧になられた皇帝陛下は、額にやった手を戻して、落ち着き払ったご様子で玉座へと戻られていきます。
その間にも、わたしはメリユ様のご様子を確認するんです。
メリユ様は『時』を止められ、わたしをお救いになられるのにも聖なるお力をお使いになられてしまっているんです。
ものを消滅させる、消し去るご命令に費やされるお力は結構なもので、街一つ分で九割以上ものお力を使われるようなんです。
軍船を消し去るのに、街一つ分ほどのお力はお使いになられていないでしょうけれど、今残りのお力はどれくらいなのでしょうか?
メルー様とわたしから聖なるお力は譲渡されることにはなっているみたいですが、それにもお時間がかかるでしょうし、メリユ様が倒れてしまわれないか心配です。
「「ショウ エイチピー ステータス」」
きっと、メルー様もわたしと同じことをお考えだったのでしょう。
ご自身のお力の残量をご確認されていらっしゃいます。
エレヴェティング・プレーンのこともありますし、わたしたちの残量はどれくらいなのでしょうか?
コンソールというものがわたしの手元に現れ、わたしのその数値を確認します。
これでも聖なるお言葉の勉強もしていて、聖なるお力の管理をしているわたしは数値程度は読めるようになったんですよ(エッヘン)
「六、〇……六割ですか」
「ハードリー様、あたしのは?」
「七、八……ほぼ八割ほど残っているようですよ?」
おそらく、今もわたしたちからメリユ様へお力の譲渡しはされていっているのでしょう。
まだ余力はありますので、メリユ様が十割にまでご回復されるのには問題なさそうですね。
ただ、半分を切ると、それが二人、いえ、今は三人均等に減るようになったりするようなので、要注意なんです。
「ご警告にしても、結構お力を使ってしまいましたね」
「ハードリー様、大丈夫そう、ですか?」
「ええ、今のところは問題ありません」
それでも、メリユ様が使徒様のお姿になられているのにしても、聖なるお力を使われていますから(二分程度ですが)、帝国側が折れるまで無駄にお力を使わないようにしなければなりません。
そんな確認作業をしている間にも、皇帝陛下は玉座に戻られ、謁見の間は再びあの緊張感に包まれ始めていました。
「さて、使徒殿、貴殿のお力は理解した。
しかし、貴殿も今は地上の王国の一貴族、一貴族令嬢でもあるのであろう?
どうだ、我が帝国に与し、帝国の力の一部として、エルゲーナに平和を齎そうとは思わぬか?」
まだ言うの!?
さすがは、悪名高きオドウェイン帝国の皇帝陛下、まさかメリユ様を取り込もうと画策されるだなんて。
「申し訳ございません。
お断り申し上げます」
「何、貴殿の望む戦なき世界は、帝国によってこのエルゲーナに齎されるのだ。
何も悪い話ではなかろう?」
「残念ながら、神は『血を流さぬ道を選べ』と仰せでございます」
「くだらぬ、神がどうだの、所詮エルゲーナに直接は関与できぬ象徴的存在であろう?」
何ということを!
(あまりの暴言に、隣にいらっしゃる大司教猊下もおろおろしていらっしゃいます)
これがオドウェイン帝国の皇帝陛下のお考えなのですね?
「陛下、これでもわたしにはこのエルゲーナを消滅させる権限も下賜されております。
もちろん、貴国のみをエルゲーナから消し去ることは不可能ではございません」
メリユ様のご警告の段階が更に一段階上がるのが分かりました。
オドウェイン帝国への喧嘩……いえ、宣戦布告に等しいお言葉、皇帝陛下も沈黙されていらっしゃます。
「はあ、つまらぬなあ。
それで、そこの聖女たちよ、貴殿らもその神より与えられし力を使えるのか?」
これは……。
「「もちろんです」」
メルー様とわたしは皇帝陛下の目をまっすぐに見詰めながらにそうお答えしました。
「ふむ、そうか。
そこの、ハラウェイン伯爵令嬢と言ったか?」
「はい」
わたし?
なぜ皇帝陛下がわたしを?
若干戸惑いも感じますが、わたしだってメリユ様のお姿をお借りしている身、挑発には受けて立ちます!
動揺なんて一切見せませんよ?
「貴殿は、我がオドウェイン帝国の帝室の、分家の血筋であったであろう?
皇族の一員として迎え入れる故、我が帝国に与する気はないか?」
「………」
はあ?
このお……いえ、皇帝陛下は何をおっしゃっていらっしゃるのでしょう?
確かにハラウェイン伯爵家は、かつてオドウェイン帝国からミスラク王国に移り住んでいて、今となっては相当に薄いながら、皇族の血も引いているとは知っています。
でも……いえ、しかし、帝国はキャンベーク街道沿いに位置するそのハラウェイン伯爵領に工作をしかけて、伯爵家を滅茶苦茶にしようとしていたんですよ?
しかも、わたしは(伯爵領のとは別件ですが)工作活動で一度命を落としているんですが?
今更そんなわたしを甘言で惑わそうなど、腸が煮えくりかえってどうにかなりそうです!
「陛下、残念ながらお断り申し上げます」
本当に……大昔に帝国を出ていって、今は帝国とは完全に無関係で、ミスラク王国に忠誠を誓っている我が家を馬鹿にしているんでしょうか?
「自身に流れている血に抗うか?」
「ふふふ」
そんな皇帝陛下のお言葉に、わたしは思わず笑い声を漏らしてしまいました。
本当にメリユのお声ですと、自分の声とは違って、凛々しいと言いましょうか、強き女性の声と言う感じがしまして、とても気持ちが良いです。
「何が可笑しい?」
「ええ、今神がなぜわたしにメリユ様、メリユ聖女猊下のお姿を下賜されたのか、よぉく分かりましたもの。
よろしいでしょうか、陛下?
わたしは一度貴方方の工作活動によって命を落とし、神よりメリユ聖女猊下のお身体を賜ったんです。
そう、今のわたしには、皇族の血など一切流れていないんですよ?」
「何!?」
そうなのですね。
神がなぜ事前にメリユ様にわたしの危機をご神託で告げられず、わたしを救われようとされなかったのか、その理由がよく分かりました。
わたしが命を落とし、メリユ様のお姿をいただいたのは必然のことだったんです。
メリユ様のお力の支えになるだけではありません。
今のわたしはもうハラウェイン伯爵家の血を一切引いておらず、つまりはオドウェイン帝国の皇族とも縁が切れているんです。
そう、わたしが自身の血に惑わされることもなく、胸を張って、メリユ様をお支えできるんですよ!
本当に、メリユ様も読み切れないところで、神がこのようなご介入をされるとは……少しばかりうれしくなってきてしまうのでした。
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何とか伏線回収できました!
一応悪役令嬢設定なメリユの声ですから、ハードリーちゃんも笑い声を上げているときはさぞ気持ち良かったことでございましょうね?




