第338話 ハラウェイン伯爵令嬢、悪役令嬢が軍船を消滅させるのをその目に焼き付ける
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は、悪役令嬢がオドウェイン帝国の軍船を消滅させるのをその目に焼き付けます。
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メリユ様は、オドウェイン帝国の皇帝陛下に、ご自身が使徒ファウレーナ様のお生まれ変わりでいらっしゃることを明かされました。
それがすんなりと受け取られた場合、いかにオドウェイン帝国の皇帝陛下と言えど、聖教を信仰する国家元首としてメリユ様に頭を垂れなくてはならなくなるでしょう。
使徒様のお姿を晒し、使徒様のお生まれ変わりであることを明かされるというのは、それだけ重大なことなんです!
わたしがハードリーとして出会い、また大好きになってしまったメリユ様に、この世界に留まってもらうことを考えれば、良いこととは言えないと思います。
とはいえ、このエルゲーナに平和と平穏を取り戻すためを思えば、必要なこととご判断されたのかもしれません。
「メリユ様……」
今のメリユ様は、リーラの愛した使徒ファウレーナ様の魂を半分受け継ぎ、テラの使徒様をされている特別なお方。
もし神がメリユ様にテラの使徒に戻るようご神命を出されるのなら、わたしも世界を渡り、テラに赴くことだって真剣に考えています。
ですが、できることなら、このエルゲーナでメリユ様と『人』と『人』として一緒にいたいと思ってしまうのは、贅沢なことなのでしょうか?
メリユ様だって、わたしたちとエルゲーナで同じ生を生きられるよう、頑張ってくださると約束してくれたのですもの。
今は信じるしかないのだと思います。
「今がまさに正念場なんですね、メリユ様」
わたしは、メリユ様の一挙手一投足を見逃すまいと、お翼を広げられたメリユ様のお背中を、そして、その横顔を見詰めていたんです。
そして、案の定、オドウェイン帝国の皇帝陛下は、一筋縄ではいかない相手でした。
いざ謁見が始まれば、お傍にいらっしゃる宰相閣下も帝国中央教会の大司教猊下も皇帝陛下のお言葉に口を挟むことはできないようです。
帝国の全ては、皇帝陛下のお言葉で決まると言った感じでしょうか?
皇帝陛下は頑としてメリユ様のご存在を、そのお力をお認めになられません。
ご神命のご執行のため、メリユ様が敢えて使徒様のお姿をお見せになられているというのに、どこまで不敬なのでしょうか?
ええ、ええ、以前のわたしであれば、皇帝陛下の威圧的な態度に、すっかり怯え切っていたと思います。
しかし、今は違うんです。
メリユ様のお姿をお借りし、聖なるお力でもメリユ様の支える側となったわたしは、それこそ一生この姿のまま、メリユ様たちとエルゲーナの世直しをする旅を続けるのも良いかなと思えるくらいに強くになられたんです。
今だって、メリユ様のお動きを追いながら、先読みを続けます。
雷に、第二皇女殿下の(先遣軍全滅の)ご報告、それでダメなら、更なるご警告でオドウェイン帝国の皇帝陛下のご慢心をくじくよう段階を上げていかれるようです。
ついに、最終手段として、メリユ様はオドウェイン帝国の軍船を消し去られるという選択にまで至ったんです。
使われるに違いないのは、ものを消滅させるご命令。
それによって、ハラウェイン伯爵領の危機からお救いいただいた身としては、ドキッとなってしまいます。
まさか、軍船を消し去るのにそのご命令を使われるとは思いませんでしたが、これ以上ないほどの神よりご警告と言えるでしょう。
軍船を失えば、オドウェイン帝国は、海に面している国々への侵攻手段をなくしてしまうことになります。
ミスラク王国は海と接しない内陸国家ですから、関係ないと言えば関係ありませんが、それにより救われる国々も出てくることになるのでしょう!
「特使の皆様、ものを消滅させるご命令を執行いたします。
バリアで護られてはおりますが、耳を塞ぎ、軍船の消失に備えてくださいませ」
既に話は、事前協議でされていた段階を越えてきていたこともあって、メリユ様はわたしたちを振り返り、そう告げられました。
大丈夫です!
わたしたちだって、もう慣れたものなんですよ?
「“Play warning-sound-2 with volume 100.0 at pin-id 105”
“Execute batch for all_actors_tranlation with cylinder5.conf”
“Execute batch for preparation-clipping with cylinder5.conf”」
メリユ様の聖なるご命令のご執行にあわせ、わたしはメグウィン殿下と頷き合って耳を塞ぎます。
一、二、三。
ウーーーー…………!!
三つ数えた後、世界の悲鳴のようなあの轟音が鳴り響き、謁見の間にある調度品類もビリビリと震え始めていました。
手で耳を塞いでいてもその音の大きさには、本当に毎回驚かされてしまいます。
バリアでお護りいただき、メリユ様と同じお姿をいただいてでさえ、身体の奥深くにまで空気の震えが伝わってくるのが分かるんです。
貴重な窓ガラスのほとんどが割れ、風雨に重厚なカーテンが揺らされる中、窓の向こうでは、外に浮かぶ船々から灯火による信号が何度も瞬き、帝国の軍船にお乗りになっておられる方々も混乱に陥っておられるようでした。
まあ、それはそうでしょうね。
海の港というものはまだ見たことがないのですけれど、港に接岸していたはずが(何時の間にか)帝城の上に浮いていて、しかも、このような轟音が鳴り響いているのですから。
弓矢や投石器があっても、彼らには攻撃できるような対象はないんです。
ただ、聖なるご命令のご執行を待つのみ。
もちろん、メリユ様が(敵であろうと)犠牲者を決して出されないよう取り計らってくださるのは分かっています。
神は、どれほどの帝国兵の方々が神隠しに遭おうと気にされないのでしょうが、メリユ様はたったのお一人のお命ですら、ご自身の聖なるご命令で失われてはならないとお考えになられるようなお方なのですよ?
だからこそ、心配なんです!
そのご配慮のために、どれほどの聖なるお力を失われてしまうのか?
やっぱり、わたしがメリユ様のお姿で、聖なるお力を得たのは、メリユ様を助けるためだったのですよね?
神の目を通して見ていて分かるようになってきましたけれど、神は地上に対して大雑把なことしかできないんです。
地上を焼き尽くしたり、『人々』を神隠しと称して天に召されてしまったり。
エルゲーナの地で生きている一人一人の『人』と向き合うことなんてまず難しいのでしょうね?
神の目では、小さな蟻が地上で蠢いているようにしか見えないんですもの。
仕方のないことです。
だからこそ、メリユ様にお任せになられている……そういうことなんだと思います。
「ぁ」
暗い空に瞬いていたたくさんの灯火による信号が一斉に消え、わたしは、軍船に乗船されていた方々が今瞬間移動させられたのだと分かりました。
ええ、わたし、わたしたちだからこそ、何が起きているのか、はっきりと分かります。
メリユ様、軍船の方々全員をお救いになられたのですね?
本当に毎度のように無茶をされるお方だと思います。
もちろん、そんなメリユ様だからこそ、大好きですし、尊敬できるのですけれど……もう少しご自身を労わって欲しいなあと思うんです。
あとでしっかりとわたしの聖力を受け取ってもらいますから、そのつもりでいてくださいまし!
「それでは、皆様、これより軍船を消去いたします。
“Stop playing warning sound and warning sound”
“Execute batch for clipping with cylinder clipper”」
忘れられる訳もない、聖なるご命令。
ハラウェイン伯爵領を災厄からお救いいただくため、キャンベーク川の『土砂ダム』を消去されたときにお使いになられた、ものを消し去るあのご命令ですよね?
メリユ様のおかげであの土砂崩れの現場から下流にあったハラウェイン伯爵領の街や村は滅びを免れることができたんです。
わたしにとって、まさにご奇跡そのものと言って良いご命令なんですが、帝国の方々にとっては絶望にしかならないのでしょうか?
ゥー………。
ご警告の音が鳴り止んでいき、いよいよ軍船がまとめて神隠しに遭うことになります。
一、二、三。
ズドムッ!
ゴゴゴゴゴォッ
「「「ギャアアアア!??」」」
一瞬外が明るくなり、白い雲が見えたかと思った途端、船々が砕けるように縮み、消えていく光景が見えたんです。
そして、襲い来る強烈な暴風。
わたしたちはバリアに護られていますけれど、その周囲にある空気がものすごい勢いで流れ、窓から吸い出されていきます!
帝国の帝室、貴族、聖職者の方々は窓にしがみ付き、吹き飛ばされまいと必死になられているようです!?
キャンベーク川でも砦でもバリアに護られていましたから、気になりませんでしたが、本当はここまで危険な状況になってしまうんですね?
「ひぃぃ、助けてくれぇ!」
「飛ばされるぅ!?」
「手が、指が千切れ……あぁぁぁ」
風切り音に混じって、そんな悲鳴が(耳を塞いでいても)聞こえてくるんです。
彼らはこれでも幻術などと言うのでしょうか?
ご神命の代行者でいらっしゃるメリユ様のお力が幻である訳がないですのに!
帝都ベーラートの港にある軍船を全て失ったのを知ってからではもう手遅れなんですよ?
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ハードリーちゃんではありませんが、まさに正念場という感じでございますね?




