第333話 ダーナン子爵令嬢、悪役令嬢に続き帝城内院へと入る
(ダーナン子爵令嬢視点)
ダーナン子爵令嬢は、使徒形態の悪役令嬢の後に続き、帝城内院へと入っていきます。
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あたしはオドウェイン帝国の主城門が崩れ落ちる様をバリアの中から見たの。
もちろん、お姉ちゃん=ファウレーナ様のバリアは絶対的なものだって思っているから、怖くはなかったわ。
むしろ、ワクワクが止まらなかったかな?
頭上で砕け、割れ、左右に分かれるようにして崩れ落ちていく主城門を形作っていた石材。
あたしがメルサ・サンクタ・スピリアージ・アリファナードだったときにはもう完成していて、世界一と称えられたオドウェイン帝国の主城門が壊れていく。
あの頃から既に世界を威圧していたオドウェイン帝国だけれど、お姉ちゃんの前には形無しね!
まさか、わたくしが今のあたしとして、その主城門の最後を見ることになるなんて思いもしなかったけれど、今まさに世界が変えられようとしているんだと思った。
「凄い凄い凄い!」
メルサだったときにもエルゲーナ=世界には理不尽なことがあった。
それでも『人』に寄り添われる使徒様でいらっしゃったお姉ちゃんは、一つ一つご奇跡を起こされて、世界に幸福の種を撒かれていたのだわ。
そして、落ち着かれた頃には、メルカ様、リーラ様とささやかながら、穏やかなエルゲーナ=地上での生活を送られるようになっていたの。
そう、そのはずよ。
メルサだったときに目にしたご奇跡は、その地方地方の『人々』を感謝の祈りを捧げるような、小規模なものだった。
あの有名な、涸れた泉を復活させた逸話なんかがそうよね?
サラマ様がご神託を受けることになった元の泉の方がそれで、今でもセレンジェイ伯爵領の聖地になってるって聞いたわ。
でも、そんなご奇跡を起こされたお姉ちゃんは天界にお戻りになられてしまった。
もしあたしの前世で、お姉ちゃんがもっと長くエルゲーナに留まられていたなら、どれほどのご奇跡が起こされていたんだろうか?
そんなことを、あたしは考えずにはいられなかった。
本当に辛い記憶なの。
誰も悪くなくて……たまたま運悪くリーラ様がお姉ちゃんの正体に触れてしまうようなことがあったために、お姉ちゃんは天界に帰るしかなくなってしまったの。
メルカ様とリーラ様の悲しみはもちろんだけれど、あたし=わたくしもまた失意のどん底に落とされちゃったのを覚えてる。
「でも」
それも必要なことだったのかもしれないって今は思うんだ!
増長に増長を重ねたオドウェイン帝国が、ついにエルゲーナ=世界を統べる野望を実現すべく動き出した今のこの時代に、あたし=わたくしたちが生まれ変わってここにこうして集えたというのはそういうことだと思うのよ。
メルカ様=メグウィン様は、ミスラク王国のお姫様=第一王女殿下に生まれ変わられた。
リーラ様=ハードリー様は、ミスラク王国のお貴族のご令嬢様=ハラウェイン伯爵令嬢に生まれ変わられた。
そして、わたくし=あたしは、お姉ちゃんと薄いながらも血の繋がりがある、女の子に生まれ変わることができ、今生でも聖女の立場を得ることができたの。
あたし=メルーはお姉ちゃんを慕っているの。
好きなの、大好きなの。
お姿がね、あたしと同じじゃなくなっても、お姉ちゃんはお姉ちゃんだと思う。
お姉ちゃんは絶対にあたしを護ってくれるし、あたしもお姉ちゃんを護りたい……ううん、それだけじゃなく、もっと色々お手伝いしたいと思っているの。
メルサとしてのわたくしも、メルーとしてのあたしも、姉妹のような関係でも良いから、ずっとお姉ちゃんの傍にいたいと思っているのよ!
「ここが、オドウェイン帝国の帝城……」
バリアに護られたあたしたちが、元主城門だったところを通り過ぎ、バリアの上からもその残骸が崩れ落ち去ると、いよいよ内院に入る。
ここがお偉い『人たち』、つまりは帝室の関係者や各国の外交使節も使う庭園が広がっているはずだったんだよね?
あたしもうっすらとだけその美しい庭園の光景は覚えていたんだけれど、今は……。
あのショウゲキハというもので滅茶苦茶になっちゃっているの!
決して敵国の侵入を許さない、絶対的な美しさを永遠に保ち続けるとまで謳われた庭園も、神のお力を前にそのメッキも剥がれ落ちたって感じよね?
倒れ砕けた、過去の皇帝陛下たちの彫像の数々にだって、ついにお姉ちゃんが神の代理として、オドウェイン帝国にご神罰をくだされるんだわと思っちゃう。
「主城門が……そんなっ!」
「何という……まさに結界か!」
「ほ、本物だ、本物の使徒様だ!
わ、我らは本物の使徒様に、攻撃を仕掛けてしまったというのか!?」
そして、その内院の庭園に茫然と突っ立っている、もはや戦う気力も失っちゃったらしい近衛騎士様たち。
城壁の上にいる弓兵(?)さんたちも、矢を射るのをやめて、使徒様なお姉ちゃんをタダ怯え、見ていることしかできないみたい。
そうよね?
使徒様のお姿だけでなく、その聖なるお力もまた神より賜った特別なものなのよ。
そりゃあ、エルゲーナにおいて、教皇猊下よりも遥かに上位におられるお姉ちゃん=本物を相手に、どうしたら良いのか分からなくなるのも無理はないわ。
でもね、でもね、突っ立っているのは許せない。
貴方たちは、他の小国の使節に対してどんな態度を取ってきたと思うの?
今は貴方たちが、敬意を払わなければならない番なのよ?
……と、そんなことを考えていたら、そこへ走り込んでこられた、とても偉そうな近衛騎士様がおられたの。
「はぁ、はぁ、このっ、愚か者どもがぁ、帯剣解除ぉっ、脱帽し跪けぇ!」
「閣下!?」
「か、閣下、しかしっ」
「使徒様を前になんて様だ! さっさとせんかぁ!
外交使節対応可能な者は、直ちに配置に付けぇっ!」
もしかすると、王国の騎士団長様と同じような立場なのかもしれない?
息を切らしながらも、必死に全うなご指示を出しておられて、うん、ちょっとは良い『人』かなと思える。
その『人』の指示で、近衛騎士様が次々と剣を地面に置いて、兜を脱いで、跪いていく。
そして、残りの近衛騎士様は城扉の方に駆けていくのが見えるの。
「……」
あたし=わたくしがメルサとして、この帝城にも来たときだって、儀仗は受けても、兜を脱ぐところまではされなかった。
聖教の高位聖職者の中でも最上位に近いわたくしでもなのよ?
うん、お姉ちゃんのご存在が、どれだけ、オドウェイン帝国に衝撃を与えたかが分かって、とてもドキドキするの。
兜の下にあった近衛騎士様たちの顔色は一様に悪い。
主城門を開かず、落とし格子を二重に落として、拒絶したにも関わらず、使徒様なお姉ちゃんに押し通られて、主城門は崩壊、しかも、空には未だ『鳥船』があって、日食が続いているということに、いよいよ恐怖を覚えたみたいね!
「おお、神よ……」
オドウェイン帝国の『正義』というものは、昔も今も変わってないと思うの。
エルゲーナ=世界の中心こそがオドウェイン帝国であり、オドウェイン帝国の皇帝陛下、貴族の方々が決めたことこそが『正義』そのものなのだと信じて切っているのだわ。
外から見れば、世界の秩序、神の定められた聖なる秩序にすらも反しているようにしか見えないのに、彼らには自分たちのしていることが『悪』だとは決して思わない。
軍事力に劣る小国を蹂躙して、多くの兵や民を死なせても、それは軍事力を持たない小国が悪いのだと当たり前のように考えているの。
それは本当に怖ろしいことなのよ?
神を信仰し、聖なる秩序について学んでいれば、そんなことを考えたりはしないはずなのに……自分たちは世界の頂点に君臨しているんだって思い込んだ『人々』は、小国を滅ぼし、自分たちのものにすることの方が『善』なんだって思ってしまうんだから。
けれど、神、そして、お姉ちゃんはそれを良しとされなかった。
本来であれば、よほどのことがない限り、エルゲーナ=地上に干渉されることのない神とそのご眷属様が数百年ぶりに直接介入されることになったのよ。
そして、お姉ちゃんはミスラク王国とセラム聖国で秩序を正され、今こうしてオドウェイン帝国に直接その愚かな行為を止めようとされている。
「ああ、日食が収まらぬ……一体、帝国はどうなってしまうのだ!?」
「か、神の怒りに触れてしまったのでは?」
「何と怖ろしい!」
これまで驕りに驕ってきた帝国の近衛騎士様たちがお姉ちゃんとあたしたちを見て、怯えているのが可笑しい。
『鳥船』によって帝城内を滅茶苦茶にされ、続いてお姉ちゃんに主城門を破壊された今、彼らにとっての帝国の威厳は地に落ちたんだ。
そう、『人』の世で、絶対的な『強者』に見えていたそれは、『神』からすれば矮小で脆弱な存在でしかなかった。
神、使徒様が帝国を断罪するとなれば、帝国は容易に瓦解してしまうということが分かってしまった今、彼らはお姉ちゃんの前に平伏すことしかできなくなってしまったのだわ。
「はあ、少しドキドキし過ぎちゃったかも……」
あたしの中で、メルサが興奮し過ぎちゃって、少ししんどくなってきちゃった。
あたしと違って、メルサは大人だし、頭も良いから、子供なメルーの方じゃどうしてもきつくなっちゃうのよね?
うん、それでもね、メルサの考えていたことはメルーにも分かるんだ。
この数百年の間に『人々』によって歪められてきた聖なる秩序がいよいよ正されるんだって。
そして、本当なら、誰にでも分かるはずの『正義』がこのエルゲーナに戻ってくるんだって、メルーはメルサとしてもうれしくてならなかったの!
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平日ではありますが、ストック1話分を更新いたします。




