99話 相原の策略(4)
「さぁ~てと、あんまり長居しても悪いし、そろそろこの辺で失礼しようかな」
そう言って席を立つと、調理場から相原のお父さんとお母さんが僕等の所にやって来た。
「今日はご馳走様でした。料理も美味しかったのですが、この店の雰囲気が特に居心地が良くて、何て言うか、凄く落ち着きます」
「そう言ってくれると嬉しいわ。ね、お父さん」
「そうだな。その言葉が私達の仕事に対する代価だな」
「またいつでも気楽に寄って下さいね」
「はい、有難うございます」
会計を済ませてから、僕が相原の両親と話しをしているさなか、当の本人は、ずっと椅子に座ったままスマホをいじくっていた。
「さつき、片瀬さんが帰られるのに、そんな所で何してるの?」と、じれったく思ったお母さんは、大きな声で呼んだ。
お母さんの呼び掛けに対して相原は、「は~い」とひと言返事を返すと、手にしていたスマホをカバンの中に仕舞い込み、それから僕達の側へとやって来た。
すると相原は両親に、「いってきま~す」と言ったかと思えば、今度は僕の背中を強引に押して一緒に店の外まで出て行った。
「今日はありがとな、美味しかったよ」
「またいつでもお父さんとお母さんに会いに来て下さい。親しくなりますから」
親しくなってどうしたいんだ・・・。
彼女の意味深な言葉に合わせる事無く、家路に着こうとした。
「じゃあ行くわ。お父さんとお母さんに宜しく言っといて」
「そうですね。それじゃあ2次会は、片瀬さんの家でっと言う事で」
はっ!?と、僕はいぶかしげな顔をすると、さっきまで店にいた相原と違い、いつもの仕事場で見る意味有り気な笑顔を浮かべて、右手の人差し指を自分の方に向けて、1オクターブ低い声で答えた。
「今日は、誰の、誕生日ですか」
「相原の誕生日、だね」
「そう!!私の誕生日です」
「そ、そうだね。で?」
「今、何時ですか?」
「えっ~と、20時40分だけど」
まるで子供の頃、遊ぶのに夢中になりすぎて、両親から日頃言われていた門限よりも遅くに帰ったもんだから、母親に「今何時だと思ってるの?」って、問いただされた事があったけど、まさに今そんな気分だ。
「と言う事は、ここから片瀬さんの家まで大体21時過ぎに着くとして、今日が終わる残りの時間は?」
そう言って相原は、僕に答えさせようとして、「どうぞ」と言いたげな感じで手を差し伸ばした。
「ざっと3時間をきるぐらい、だよね」
「そう!!その通り。今日はまだ、3時間もあるんです」
どこを見ているのか分からないけれど、どこか遠くの方を見つめながら、相原はかなり気合いの入ったガッツポーズをした。
「で、何で家に来るんだよ?」
「私の誕生日だから」
「はっ?答えになってないんだけど」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早くヘルメットを被って下さい」
手にしていた僕のヘルメットを相原は強引に奪い取り、それを自分の頭に被ると、今度は相原が来る時に被っていた半キャップのヘルメットを僕に手渡した。
どうして俺が、半キャップのヘルメットなんだよ・・・
いつもの事ながら、相原のペースに持って行かれる事となった。




