95話 遥の涙
あれ!?今の片瀬さんのバイクじゃ・・・。
はぁ~、片瀬さんに会えなかったなぁ。
心の中で呟くと、痺れる右足をかばいながら教習所を背にとぼとぼと歩き出した。
今、片瀬さんの後ろに乗ってたのは、相原さんだったような・・・、どこ行ったんだろう?
最寄りの駅まで歩いて帰ろうとした時、遥の背後から2回程軽くクラクションを鳴らす音が聞こえた。
遥は無意識に、クラクションを鳴らした車の方を振り返り立ち止まってみると、そこには、4WDを運転している長谷川が助手席の窓を開け、左手を伸ばして彼女の名前を呼んでいた。
「お~い、遠藤さんや~ん」
遥は、長谷川の姿を見た途端、両目から幾粒もの涙が頬を伝って流れていった。
泣いている遥の姿を見た長谷川は、車を左に寄せて停車し、降りて彼女の側に近寄った。
「おいおい、どないしたんや~、遠藤さん。こんな所じゃなんやから、まぁ、車に乗り~や」
そう言って長谷川は、助手席側のドアを開け遥を車の中に乗せると、何も話し掛ける事なく、教習所の近くにある河川敷の堤防沿いまで走らせた。誰も邪魔にならない所に車を停め、彼女がハンカチで涙を拭っている間、黙って前の景色だけを見続けていた。
程なくして、気持ちが落ち着いてきたのか、遥は、『ごめんなさい』と、声を発する事無く口だけを動かして頭を下げた。
「あ~、別に気にせえへんでもえ~え~。泣きたい時はやな、何も我慢せずに泣けばえ~ねん。俺達は人間なんやから感情だってある。なっ、お腹が空いて食べたい時には食べ、眠たい時には寝て、自分に素直になればえ~ねん。どや、たまにはえ~事言うやろ。そや、今の台詞また誰かに使おっと」
長谷川は、黙っていた分、一気に喋り出し、自分の言葉に納得したのか、1人でうんうんと頷いていた。
遥は手にしたスマホに文字を入力して、長谷川さんにそれを見せた。
『それは、長谷川さんの事でしょ(笑)」
遥は、ハンカチで涙を拭き、少し微笑みながら反論してきた。
「そうや、それでええねん。関西人は、ボケとツッコミが命やからな。ボケた事にツッコミが無いと恥ずかしいんやで」
長谷川は、彼女の顔を見ずに遠くの景色を見ながら答えた。
『そうなんですか?』
「そうや~。ツッコマヘンかったらな、なんで今のツッコマヘンね~んって、逆にツッコミ入れるからな」
長谷川の言葉に元気付けられた遥の顔には、笑顔か戻ってきた。
「まあ、あれや。その話しは置いといてやな、気が滅入っている時は、体を動かして、美味しいもんでも食べて、そうするとやな、気持ちもほっこりすんで~。どや、今からバッティングセンターにでも行ってみいへんか?」
『えっ、今からですか?』
「そや、今からや」
『え~、それじゃあ、長谷川さんのおごりと言う事で(笑)』
さっきまで涙を流していた遥と違って、いつもの感じの彼女に戻りつつあった。
「はっ!?ちゃっかりしてるなぁ、女の子は」
『はい』と、遥は頷いた。
長谷川は、彼女の気持ちがちょっとは和らいだだろうと思い、街灯が殆ど無い河川敷の堤防沿いから、明るい市街地へと車を発進させた。




