91話 大学の講義中に(2)
教授に注意されながらも、絵里は、懲りずに話しの続きしてきた。
「それより遥もやるわね~。昨日メールで話しした時、片瀬さんが遥の家に来てご飯を食べてるって聞いた時には、さすがの私もビックリしたわよ。えっ!もうそんな、って感じ」
『そう?』と、照れくさそうに笑って絵里の方に振り向いた。
「所であの時さぁ」
『あの時って?』と、遥は首を傾げた。
「ほらあれ、私達がメールしてた時ってさぁ、片瀬さんと遥のお母さんって2人きりだったんでしょ?」
『うん、そうよ』
「じゃあさぁ、お互い話しも弾んで、結構仲良くなったんじゃない?」
『う~ん、どうかなぁ?』
遥は講義のメモを取るのも忘れて、遠くの方を見つめながら、昨日の出来事を思い出していた。
「もしかしたら遥、私が前言ってたのが現実になったりするんじゃない?」
『何が?』と、首を傾げた。
「ほら、これを切っ掛けに大学卒業した暁には、晴れて結婚なんかしちゃったりなんかしてって言う話し」
こそこそと話す声が気になるのか、時折周りの学生達が自分達の方を振り向いてくるので、遥は何だか恥ずかしさが込み上げてきて、ノートに向かって書いている素振りをした。
しかし、それでも絵里はたいして気にする様子もなく1人で盛り上がって笑っている。
『絵里、絵里ったら、声が大きいよ』
「そんなの気にしない、気にしない。それよりかさぁ、遥」
『な~に?』
「それで片瀬さんとお母さんってさぁ、一体何の話しをしてたんだろうね」
『色々って言ってたけど、お母さんなりに気を使ってくれたんだと思う。私のお父さんについての話しをしたんだって』
絵里は、その話しについて3年前に遥からある程度聞かされていた事もあって、「ふ~ん」と言ったきり、それ以上は何も聞かなかった。
『実は昨日、お母さんから3年前の事故について、本当の事を聞かされて』
それから遥は、お母さんから聞いた内容を絵里に包み隠さず話し、絵里も遥の目を反らさずに「うん、うん」と言って頷いて聞いてくれた。
「そっか~、お母さんも苦しかっただろうね。本当の話しをする事が出来ず・・・」
『うん』
「でもあれだね。何か今までの話しを聞いていると、確か前に居酒屋さんで聞いた片瀬さんの話しにな~んか似てるよね~」
えっ!!遥は、以前、片瀬から居酒屋さんで聞いた話しを思い返してみた。
「だってほら、3年前の雨の日の夜なんでしょ。それに7月7日で、歳は、当時25歳の女の人。そんでもって、トラックに追突されたって言ってたわよね」
そう言えば昨日、片瀬さんが車に乗り込む時、あまり深くは考えなかったけど、一瞬どことなく淋しげな顔をしていたような・・・。
何か考え事をしている遥の姿を見て、「これはまずい!」と思った絵里は、直ぐさまフォーローに転じた。
「でもまあ、あれだね。1年間で日本全国47万件ぐらいの事故が起きてるんだっけ?え~と~、1日平均にすると大体1300件ぐらいで、時間に換算したら、1時間に約54件だっけ?それで学科を聞いていて覚えてるんだけど、『へぇ~、そうなんだぁ~。いつ事故をもらってもおかしくはない世の中なんだ。おちおち歩道も大手を振って歩けやしない』って思ったの。だからあれだよ、片瀬さんの話しも遥の話しも似ていてもおかしくはないんだよ、うんうん」
遥に向って大袈裟に頷く仕草をして見せた絵里だったが、時既に遅く、遥は本やノート等をカバンに仕舞い込んでいた。
「何、どうしたの遥、急に」
『私、行かなくちゃ』
「どこに?」
『片瀬さん。片瀬さんの所に行って確かめないと』
そう言うと同時に、遥は講義の途中で教室を飛び出し、大学の正門の前にあるバスの停留所まで足早に駆けて行った。
そうだ!お母さんなら。と思い持っていたスマホに文字を入力した。お母さんにメールを送信してみたけれど、遥のはやる気持ちとは裏腹に、仕事が忙しいのか繋がる事はなかった。
もう、聞きたい事があったのに。
遥は、左腕に着けていた腕時計をチラッと確かめた。
今からバスと電車を乗り継いで行けば教習所に2時間ぐらい掛かるから、大体18時過ぎにはなんとか着けるはず。
そんな事を考えながら急いでいると、高さ5センチ程の段差に足を踏み外してしまい、「きゃぁ!」とビックリした瞬間、遥は尻餅をついてしまった。
もう、こんな急いでいる時に私ってドジなんだから。と自分自身に悪態を吐きつつ体を起こそうとした時、右足から突然、ビリビリッと、痺れが頭上まで達した。
イタッ、もしかして捻挫?どうしよう。
遥は、右足を何度も何度もさすってみた。
でも、行かなきゃ。もし絵里の言ってた事が本当だったとしたら、片瀬さんに直接会って謝らないと。
ごめんなさいって。謝ったからと言って許してもらえるとは思わないけど、でもまさか、こんな事になるなんて・・・。
それから何とか立ち上がった遥は、事故の出来事を話してくれたお母さんの言葉を思い出しながら、右足をかばいつつ、再びバス停まで歩きだした。




