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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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89話  伏兵、相原


 休み明けの仕事と、昨日、遥のお母さんから聞いた事故の話しが頭から離れる事が出来ないせいもあって、その日の午前中の教習は淡々と仕事をこなしているだけだった。

 

 はぁ~、やっと昼ご飯か。


 背伸びをしながら指導員室に入って行き、自分の席に腰を下ろした。考えている時間が多い為か、今日は時間が経つのが早い気がする。


 それにしても、どうしようかなぁ。何だか今、1人になりたい気分なんだけど・・・。あっ、そうだ。あそこでご飯を食べるか。今日は太陽が出てて、日差もあるからまだ暖かいだろうし。


そう思い、僕は机の上に置いてあったリュックを背負い、指導員室を後にした。すると、ちょうど相原とバッタリと出くわす事に。


「あれ、もう帰るんですか?」


「ちょっとそこの河川敷まで」

 

 僕の向かった先は、教習所を出てバイクで2分ぐらいの所にある大きな川の堤防。そこにはジョギングや散歩をしている人達や、テニスの壁打ちをしている人、ちっちゃな子供とボール遊びをしている親子連れなど色んな人達がこの堤防沿いにやって来て、有意義なひと時を過ごしている。

 

 僕はバイクを道路の端に置き、草むらの斜面に腰を掛け、リュックからクリームパンと缶コーヒーを取り出した。

 

 う~ん、良いねぇ。この解放感。ここはいつ来ても癒されるなぁ。ずっと車の密室された空間に閉じ込められていると気分がなえるんだよなぁ。

 

 時折、草むらの間からバッタらしき虫が飛んでいた。そして、ほのかに吹く風は、葉っぱを撫でるようにサラサラ~という音色と草の香と共に通り過ぎて行き、何だか自然と溶け込んだような感じがして僕の心を穏やかにしてくれた。

 

 しかし、そんなひと時の時間は、そう長くは続かなかった。

 

 僕の気持ちとは裏腹に、突然背後から、「わぁぁぁっ~~~~~~!!」と言う両耳を覆い被せたくなる様な、けたたましい叫び声で僕の体はすくみ上がった。

 

 僕は飲みかけていたコーヒーをブッーと口から一気に吹き出し、咳き込みながら後ろを振り返って見ると、いつぞやの時と同じく、相原が屈託のない笑顔でお腹を抱えながらケラケラと笑っていた。


「な、何、何なん、ゲホッ、ゲホッ、だよ、一体」

 

 僕は目に涙を溜めて、まだ呼吸が整わない状態だったのにも係わらず何とかそこまで喋ると、相原も目に涙を溜めて、笑いを堪えながら僕の問い掛けに答えた。


「片瀬さん。後ろから近付いて来たの、ほんっと~に分からなかったんですか?」


「あ~、本当に分からなかったよ」と、僕は眉間に皺を寄せて言い返した。


 すると相原は、僕の右隣に腰を下ろすやいなや、まるで的を射たかのように僕の心の中の確信を突いてきた。


「何か悩みごとでも有るんでしょう?片瀬さん」


「な、何で!?」


「だって、いつもは皆と話しをしているか、若しくは3階でしょ。そこにもいない時は、大概ここじゃないですか~」


「そ、そうか~!?」と、相原の顔をわざと見ずに、どこか遠くの方を見ながらとぼけた感じで答えた。


「そうですよ。で、ここにいる時は、あれでしょ。1人になって何か考え事がしたいときなんでしょ?」

 

 ビックリするなぁ、相原には。野球で言うカーブやフォークといった変化球じゃなくて、「これでどうだぁ~」て言うぐらいの超ど真ん中のストレートだ。


「ズバリ、遠藤さんでしょ?」


「えっ、う、うん、まぁ、当たってはない事もないかなぁ」


「あれ?違ってました」


「なぁ、相原」


「何ですか?」


「あのさぁ、もしもの話しなんだけど」


「片瀬さん、私の分のコーヒーあります?」


「真面目に聞いてる?」と僕は眉間に皺を寄せて答えた。


「聞いてますよ~、で?」


「え~と、例えば仮に俺と相原が付き合ってるとしよう」


 相原は頬に両手を当てて、はにかんだ表情を見せた。


「えっ、こんな所でいきなり告白されても」


「誰が告白したって?」と、僕は声のトーンを少し下げて言い返した。


「冗談ですよ、じょうーだん」


「つまり、早い話しが、相原の大切な人が交通事故で亡くなったとして、その事故を起こした人がやむを得ない事情でそう言うような事になったんであれば、その人を憎まないでいられるかな?相原だったら」


「う~ん、どうでしょうね~。やっぱりその状況になってみない事には、何とも答えにくいですね~」


「じゃあまた話しを変えるけど、その事故から何年か経って、やがて新たに相原にとって良いなぁと想う人が現れたとしよう」


「うんうん」と、相原は興味深く話しにのめり込んできた。


「しかし、その人を知るにしたがって、その人の父親が昔、相原の好きだった人をこの世から消し去ってしまった張本人だと分かってしまったら、それでもやっぱり相原は、その人の事を今までと変わらず、同じ気持ちで接する事が出来ると思う?」


「う~ん、これまたどうでしょうね~。でも、その好きになった人には罪はないんでしょ?だったら」

 

 そう、その子には罪はないんだ。それは頭では分かってるんだけど・・・。


「まさかその話しって、もしかして・・・」

 

 相原の問い掛けに対して、僕はそれ以上何も答えなかった。

 

 ほんの一瞬、2人の間に会話が途切れた。僕は何となく空を見上げて見ると、さっきとはうって変わって、いつの間にか灰色の雨雲が空いっぱいに広がっていた。まるで僕の心の中を映し出しているかのように。






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