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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
85/136

85話  11月7日(4)

 

 歩いていて、やっぱり帰ろうか?と言う言葉を何度も頭の中で繰り返し繰り返し言ってはみたものの、それを切り出す事も出来ず、結局、目的地であると思った神社まで辿り着いた。


「ふぅ~、やっと着いた」

 

 僕は両腕を上にあげて背伸びをし、深呼吸をした。


『さては、運動不足ですね』

 悪戯っぽい顔をして人差指で僕のお腹の辺りをツンツンと突いてきた。


「殆んど車に乗って仕事をしてるからね」と、苦笑いをしながら僕は答えた。


「それにしてもやっと着いたと思ったら、又この階段だもんなぁ。何でまた更に階段を造るかなぁ」


『ほんとですよね。確かこの階段、子供の頃数えた時には、除夜の鐘と同じ108段だったような気がします』


「えっ、そうなの?ここが言ってた神社じゃないの?」


『この更に上が言ってた神社ですよ』


「えっ~!!無理~」と、僕は石段に座りこんだ。

 

 今まで歩いてきた道のりと、更にこの急な階段を見上げていると、いつの間にか遥は、本来の目的の神社とは違う横にある公園の方に向かって既に歩い始めていた。


『こっちですよ、片瀬さん』と言いたげに、遥は僕の方を向いて手招きをしたので、重い足取りで先を行く彼女の後をついて行った。

 

 公園と言っても、ゲートボール広場と滑り台、それに砂場とブランコが2台だけある簡素な公園で、その為か、子供さえも人っ子1人遊んでいる姿は見られなかった。


『片瀬さん、早く、早く、あれ』

 

 公園の山の斜面側に辿り着いた僕は、彼女が指でさし示す方向を見てみた。

 すると僕達の目の前には、町に沈みゆくオレンジ色に染まった綺麗な夕日を見渡せる事が出来た。


『ねぇ、どうですか?』と彼女の問い掛けに、僕はただ「うん」と頷くだけで、その景色に見入ってしまっていた。

 

 河川敷の薄暮の時間帯も好きだけど、人気が居ないこの場所も、その綺麗な景色を見ていると心が洗われると言うか、何だか今だったら遥に対する自分の気持ちを素直に言葉として打ち明けられるような気がする。


「ねぇ、遥」

 

 黙って前の景色を眺めていた彼女だったが、名前を呼んだ瞬間、僕の方を振り向いた。


 彼女は、「うん?」といった感じの表情を見せて、首を少し傾げた。

 

 僕が何かを言おうとすると、彼女は顔を僕の胸に沿わせ、そして両腕を僕の背中に回して軽く抱き締めてくれた。

 

 僕はその行動に戸惑ってしまい、彼女に尋ねてみた。


「どうしたの?」


『うううん』と、胸の中で少し顔を振った。

 

 彼女の行動に僕はそれ以上何も語る事が出来ず、黙って彼女の事を受け止めた。

 

 そんな2人の間を心地良いそよ風が通り過ぎ、少しの間、静かな時間が僕達を包み込んでくれた。


 綺麗だった夕日も時間と共に姿が段々と見えなくなり、後にはほのかなオレンジ色の光だけが空を照らしていた。

 

 辺りを見回して見ると、人気のない薄暗くなってきた公園は何だかとても寂しく、完全に太陽が沈んだのを見届けてから僕達も公園を後にした。いつしか町には街灯が灯され、第2の太陽として僕達の足元を照らしだしてくれた。




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