52話 どうしてここに?
教習所は、4月から大学に入学した人や、就職された人で一気に教習生の人数も減り閑散期に入る。しかし、1月から3月みたいな繁忙期にはならないまでも、また7月後半から8月の中旬にかけて高校生や大学生が夏休みに入り、プチ繁忙期に入ってくる。
因みの僕は、4輪教習だけでなく、2輪教習や検定、学科、講習関係で日々忙しく動き回り、そして遥も、夏休み前の前期の試験と、来年の就職に向けて色々忙しいみたいだ。
それでも僕等は、毎晩のメールのやり取りだけは、お互い欠かさずしている。
でも、この前の車の練習以来、彼女の顔はみていない。
そんなある日、僕は2輪教習を朝からこなしていた。朝から照りつける太陽と、アスファルトが熱せられた暑さと、そして、バイクのエンジンの熱とでもうヘトヘト。
そこに追い打ちをかける様に、夕方から大きな雨粒がポツポツと降って来てかと思いきや、それが突如、ゲリラ豪雨となって、僕等の頭上に降りそそいだ。その時の僕は、レインコートを着る暇もなく、ずぶ濡れのまま教習を続けていた。
あ~、やっと1日の仕事が終わった~。
服が雨と汗でビチョビチョの濡れた状態で、教習所にあるシャワー室に行き、帰るまでに今日1日の疲れをここで洗い流した。
帰る準備して更衣室から出ると、何だか身体がやけに重たい。足かせでも付けてるみたいだ。
はぁ~、早く横になりたいなぁ。
ボォ~としながらバイクを運転し、家に辿り着いて洋室に来た途端、膝が崩れ落ち、立つ気力もなくなっていた。
う~、身体が重い。てか、熱い。間違いなく風邪だな。昼間の太陽で身体が火照ってて、夕方のあの雨で身体が一気に冷えたんだろうなぁ。しかもそのままの状態で2輪教習を続けてたし。あぁ~、体温計を取りに行く事すら、面倒くさい。
目を閉じるといつの間にか、僕は仰向けの状態で眠りに落ちていった。
「悠、悠、悠ってば。そんな所で寝てたら風邪ひくよ。悠、起きてってば~」
うん?何だか身体を揺すられてる様な?
僕は、薄っすらと聞こえてくる心地よい声に耳を傾けた。
誰だろう、この声?僕の寝ている側で座っている女性は・・・。若しかして、遥?
「あれ、遥。どうしたの?声、出るようになったんだね」
「もぅ~、何寝ぼけてるの?悠。て言うか~、遥って誰よ~」
頬を膨らませた麻衣は、僕の寝ている側で座っていた。
あれ?確か身体が・・・、重くて・・・。
「もぅ~、悠たったら。朝から違う女性の名前を言うわ、しかも、レディに向かって体重が重たいって言うわ。熱でも有るんじゃない?もし熱が無かったら、ランチの刑だからね」
そう言って麻衣は、自分の額を僕の額に近付けてきた。
うん?何か良い匂いがする。
僕はその匂いに誘われて、ゆっくりと目を開けた。
すると僕の目の前には、リアルに女性の顔が直ぐ近くにあった。
熱のせいで、ボォ~としていた僕は、何が起きているのか分からず、額をくっ付けられたままでいた。
しかし、段々と意識がはっきりしだし、今現在のこの出来事に、「うわっ」と驚いた途端、身体が反射的に動いてしまい、ゴンッと鈍い音と共に、その女性の額とぶつかってしまった。
「痛ぁ~。何で急に動くかなぁ」と、その女性はぶつかった額を手で擦りながら、不機嫌な声で答えた。
僕も額を擦りながら、横に座っている女性の方に目を向けた。
「あれ、どうしてここにいるの?」と、僕の側で座っているその女性に、気だるそうに聞いてみた。
「もぅ~、ほんとぉ~に、呑気なんだから~」と、呆れた顔をして、その女性は答えた。




