51話 サプライズ
河川敷の夕日が沈み、僕達はその場所から立ち去ろうとした。
「ねぇ、遥。ちょっと言うのが遅くなったんだけど、今日、晩ご飯家に食べに来ない?」
『別に構わないですけど、どうしたんですか?』と、キョトンとした顔をした。
「それは、着いてからのお楽しみ」
意味有り気な笑みを見せて、僕がそう答えると、彼女はお母さんに、僕と晩ご飯を食べてから帰る旨をメールで連絡を入れてくれた。
帰りは僕が運転し、遥を自宅まで招待した。
遥を家に招き入れ、「どうぞ、ここで少し待ってて」と、そう言って彼女をソファーに座らせ、その間に僕は、朝、下ごしらえしていた料理の続きを再開した。
程無くして、こたつ用のテーブルに、ぺペロンチーノと8種類の野菜が入ったサラダ、そしてスープを遥の前に並べた。
『うわぁ~、有難うございます。でも、どうして?』と、遥に聞かれたけど、僕は彼女に手を出して、「もうちょっと待って」と声を掛け、またキッチンの方へと戻って行った。
それから遥に、「電気消すよ」と、ひと言告げ、キッチンに置いていたリモコンで洋室の電気を消した。
遥は一瞬、『えっ』と思い身をすくめたが、その後直ぐにキッチンから、ろうそくの火の点った苺のショートケーキ2つと、歌声が聞こえてきた。
「Happy birthday to you, Happy birthday to you, Happy birthday dear, HARUKA
Happy birthday to you.」
ろうそくの火の明かりでともされた遥の顔が、『わぁ』と、不安から驚きの表情に変わっていった。
「誕生日のお祝いがちゃんとしてなかったのと、付き合いだした記念に。さぁ、ふぅ~と吹いて」
すると彼女は、人差指を自分の胸に指し、そして、次に僕の方に指して、2人で「ふぅ~」と、火を消す素振りをして見せた。
「何で?」と聞くと、彼女は、『2人の付き合いだした記念なんでしょ』と答えた。
「なるほど」と、僕はひと言言った後、「いっせ~の~で」と、掛け声と共に2人でろうそくの火を消した。
暗くなった洋室に明かりをともすと、遥の目の前には、小さな箱が置かれていた。
彼女は、「うん」と首を傾げた。
「朝、遥が学校に行ってる間に、100均ショップで小物用の箱とリボンを買ってきて、即席で作ったからちょっと雑だけど・・・」
遥は、『開けて良い?』と言う仕草をした。
「どうぞ」と、僕は手を差し伸べた。
中に何が入っているんだろうと、期待を胸に秘めた子供の様な表情を浮かべて、遥は、ゆっくりと箱のふたを開けた。
中には、鍵が1つ入っていた。
「この家のスペアキー何だけど・・・」と、言いつつ、僕は遥の顔色を窺った。
胸の辺りで両手に鍵を握りしめ、『ありがとう』と、彼女は口を動かした。
「指輪じゃなかったけどね」
『うううん、その気持ちが嬉しいんです。中々のサプライズでしたね』
「毎回出来ないから、あの時はしてくれたのにって言わないでよ」と、笑って話す僕に、彼女は『毎年、期待しています』と、笑顔で切り返してきた。
それから2人向かい合って、楽しいひと時の食事を楽しんだ。
まるで世界に僕と遥しかいないんじゃないか、って思えるくらい安らぎの空間だった。
「さぁ、夜も遅いし家まで送るよ」
『うん』と、彼女は頷く。
「あんまり帰るのが遅いと、遥のお母さんに信用なくすからね~」と、少し意味有り気な顔をしてそう言うと、『もぅ~』と、遥も照れた顔をして答えた。
僕等が玄関で靴を履き、外に出ようとすると、遥は僕に向き直り目を瞑って踵を上げた。
そんな彼女に僕はそっと身体を抱き寄せ、お互いキスを交わした。
「大好きだよ、遥」と、耳元でささやくと、彼女は、僕の胸の辺りで「うん」と小さく頷いた。




