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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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23話  1泊2日旅行(11)~蛍編~

 それから僕達は、懐中電灯を頼りに足元を照らしながら、小川が流れている場所まで歩いて行った。


「都会だと夜でも蒸し暑いけど、こっちはさすがに山の方だから。ちょっと涼しい感じがするね」


 遠藤さんがスマホに素早く入力した文字を、僕は歩きながら読んだ。


『そうですね、半袖だけだと少し肌寒い感じもしますね』


「どうする?やっぱり帰る?」


 彼女は、「うううん」と頭を振ってから、少し恥ずかしそうに僕に左手を差し伸べた。


 そんな彼女の行動に一瞬戸惑いを感じたけれど、僕もその差し出された左手を優しく右手で握りしめた。その温もりを感じる事で、彼女が直ぐ側にいてくれているのを実感させられた。


「て、照れるね」

 

 僕の言葉に対して、彼女もはにかみながら頷いた。

 

 暫く歩いていると、草むらの茂みからサラサラと小川のせせらぎの音が聞こえてきだした。


「何だか水が流れる音がしてきたね」


 僕の問い掛けに、「うん」と、彼女は頷く。

 

 僕は草むらを足でかき分けながら、何とか小川が流れている辺りまで辿り着いた。その場所は、川の幅が2メートルちょっとといった所だろうか、僕達が居てる所は、穏やかな弧を描いた場所で、それが川下にある人口に造られた大きな池まで続いている。


 僕等が来たからだろうか?。蛍の光はおろか、さっきまで聞こえていた虫の音さえもいつしか声を潜めて聞こえなくなっていた。


「う~ん、やっぱり来る時期が遅かったのかなぁ。蛍の光、見えないね」


『そうですね~。ちょっと残念』


 それでも1匹ぐらいは、って思いつつ小川の周囲を見回して見たけど、それらしい光は全く見当たらなかった。


「あっ、そうだ。もしかしたら懐中電灯を点けているせいかも」

 

 僕は手にしていた懐中電灯のスイッチを慌てて消して、ここの自然の空気の流れを乱さないよう2人して草むらの中に身をかがめ、息を潜めながら静かに待つ事にした。

 

 するとどこからともなく、「リ~ン、リ~ン」という虫の音が響き渡り、まるで僕達がここに訪れた事への歓迎のしるしとして、歌を奏でてくれているかの様な心に残る音色だった。

 

 どのくらい待っただろう。僕達が居る場所から川を挟んで、草むらの間からほのかに青白く輝く光が1つ、ふわ~と宙を舞い上がった。


 それを見た僕達は、お互い「あっ!!」と、囁くような声を発した。

 

 次第に1つ、また1つと光が増えていき、辺りを見渡してみると、いつの間にか蛍の光が川沿いを灯していた。


 彼女の横顔を見ると口元の動きで、「きれぇ~」っと言っているのが分かった。

 

 僕も虫達を驚かさないよう、小さな声で答えた。


「そうだね」


『何て言ったらいいんだろう?まるで~、そう!!まるで星空を上から見下ろしているみたいです』

 

 蛍の光で微かに見える彼女の横顔には、安らぎに満ちた微笑みが見てとれた。僕は彼女のその微笑みを見て、遠い昔に感じた胸の奥がギュッと締め付けられる想いを思い出させてくれた。


 そう、忘れていた、無くしたくない「想い」を・・・。


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