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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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18話  1泊2日旅行(6)~打ち上げ花火編~

 騒がしかった長谷川さんと相原が物静かになってきた頃、夕方から始めたバーベキューも、そろそろ終わりに近づいてきた。


 空を見上げると、スカイブルーだった青空は、いつしか水彩絵の具で塗りたくった様に、真っ黒の部分と、水分の多い筆で塗った淡い黒い部分とで、綺麗なコントラストを描き、僕の目を引きつけた。


「あっ、そうら〜。今何時れすか~、絵里ちゃ〜〜

ん?」と、お酒のせいでろれつが回らない相原が、高野さんの背後から抱きつくと、何かを思い出したかの様に尋ねてきた。


「19時を、ちょっと過ぎた、とこ、ぐらいですよ~、相原さ~ん」

 

 何とか振り払おうとする高野さんだったが、相原は、ケラケラと笑いながら離そうとしなかった。


「あっ~~~!!たひか~、19時ひゃんから花火大会らぞ~。ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ~~」


 相原を端から見ていた僕は、こう思った。

 子泣き爺か。


 すると相原は、僕の心の声を見透かしたのか、鋭い眼光を向けてこっちを向くなり「誰が子泣き爺やねん」と長谷川さんばりの関西弁でツッコミを入れてきた。そしてまた、目頭が垂れたと思ったら、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ〜〜と笑って高野さんにじゃれつき始めた。


 出たな、妖怪、子泣き爺〜〜!!


「長谷川さん、花火大会行きます?」


 長谷川さんは腕をバツにして、「む~~~り~~~」と一言言って椅子に座ってへたり込んでいた。


 でしょうね。あなたの周りには、ビール缶だらけですから。


 じゃあ、相原は〜・・・、無理だな。

「絵里ちゅわ~~ん」と言って、相変わらず高野さんにくっ付き、じゃれていた。


 それで次に、遠藤さんの方へ目を向けた僕は、一言「行く?」って聞いてみると、笑みを見せた彼女は、「うん」と頷いた。


「あっ~、遥~、行ってらっしゃ~い」と、高野さんは、いまだに振り払えない相原をよそに、僕達に手を振って見送ってくれた。


 小高い山って言ってたけど、中々急じゃないか。

 普段は車やバイクでの行動なので、運動不足とさっきのバーベキューの食べ過ぎもあって、つい息が上がってしまう。


 ふぅ~、と息が漏れると、遠藤さんは僕の右肩にポンポンと軽く叩くと、心配そうな顔でスマホに入力した言葉を見せてきた。


『大丈夫ですか?しんどかったら無理しないで戻ります?』


「大丈夫。ありがとう」

 僕は頭を振って答えた。


 麻衣と遠藤さんとの性格が違うのは、当たり前の事だけど、困っている人がいれば何とかしてあげようっていう優しい所は、麻衣と似ているかも。


 そう思い、一緒に並んで歩いている遠藤さんの横顔を少し見てみると、彼女も僕の視線を感じたのか「うん?」といった表情を見せた。


 僕はそんな彼女に対して、「うううん、何でもないよ」と答えた。


 暫く歩くと、小高い山の頂上まで辿り着いた。そこは、この町を一望する事が出来る見晴らしの良い場所で、すでにもう、打上花火を見に来ている人で賑わっていた。


「凄い人だね、今日、ずっと歩いてたから遠藤さんもしんどいでしょ?」


『しんどくないって言ったら嘘になりますけど、でも楽しみだったんです、花火を見るのが』

 本当は、片瀬さんと2人で見る花火が楽しみだったんですよ。

 遠藤さんは、その言葉をスマホには入力せずに、心の中に仕舞い込んだ。


 辺りは太陽もすっかり沈み、空には星が微かに見え始めた。

 すると、突然、ピュ~~~~~~~~~っと言う空に舞い上がる音が聞こえると、バァ~~~~~~ンと胸を揺るがす大きな花火が目の前に現れた。


 周囲の人達は、「わぁ~」とか「おぉ~」と花火のショーに感動の声を上げた。


 僕も彼女も同じように、色とりどりの打上花火に目を輝かせて夢中で見ていた。


「綺麗だね」と、僕は遠藤さんに聞くと、彼女も頬笑みを見せて「うん」と大きく頷いた。


 僕は、花火で輝く彼女のその横顔が、何だか愛おしく思えた。





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