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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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13話  1泊2日旅行(1)

 今日一日の仕事を終えていつでも寝る準備が出来た僕は、すぐさま布団の上に寝転がり、背伸びをして深い溜息を吐いた。

 

 あ~、疲れた~。あっ、そうだ。遠藤さんにメールをしないと。


『お疲れさま。昨日、教習所に免許証を見せに来てくれたんだってね。今日、相原が教えてくれたよ。良かった、良かった。それともう1つ聞いたのが、7日誕生日だったんだって、おめでとう!!』


 すると暫くして、遠藤さんからメールの返事が届いた。


『はい、有難うございます。月日が経つのは早いものですね。私も今年で、もう22になりましたよ(^^)v』


 たかだか数行だけど、遠藤さんからの返事を読んでみて、何だか胸の奥がギュッと締め付けられるような、そんな気持ちで一杯になった。


 例えて言うなら、今はむさ苦しい部屋に横たわっているけど、気分は心地の良い太陽の光に浴び、爽やかな風に包まれて、広々とした草原の大地に体を預けて横たわっているかのようなそんな感じだ。

 

『そういやぁ、6日の日、ごめんね。遠藤さんがメールを送ってくれたのに、いつの間にか寝てしまってて』


『いえいえ、何も気にしないで下さい。お仕事で疲れているんですから。仕方ないですよ(^v^)』


『それでこの前のメールに、予定はいつ頃になりそうですか?ってあったけど、7月の22~25日まで夏季休暇をとってて、もし遠藤さんの予定が合えば、22日なんてどうかなって考えてるんだけど』


 遠藤さんは、予定を確認しているのか、少し時間をおいてから折り返し返信が送られてきた。


『はい、大丈夫です。宜しくお願いしま~す(*^_^*)v』


『また時間は、調べておきますので、こちらこそ宜しく』


 その時の事を考えると、7月22日までの時間が何だか長い歳月に感じられて、とても待ち遠しかった。でも、その約束した日が来るまでにどういった経路で行こうか、ご飯はどこで食べようか、他に観光名所はどこかあるのかな、って予定を考えるだけで、何だかわくかくした時間が過ごせるかと思うと、それもまた楽しい時間に感じられた。

 

 何だか小学生の頃、「次の日、学校があるから早く寝なさい」って、母親から口喧しく言われていたけれど、花火大会を見に行く時や年末の紅白歌合戦を見ていた時なんかは、「今日は特別だから」と言われて、遅くまで起きている事が出来る、そんな特別な日が来るのをわくわくしながら待ち望んでいた時の気持ちに似ていた。

 

   

    ****************



 そしてようやく、そんな在り来たりの平凡な生活からやっと抜け出せるその日がやって来た。

 

 僕と遠藤さんとは、9時に教習所の近くにあるファミリーレストランの前で、待ち合わせをする事にしていた。

 

 カーテンの隙間から朝日が差し込み、目覚まし時計のベルが鳴る前に僕は眠りから覚めた。眠気眼のまま「うーん」と声を発しながら、背筋を伸ばし力が抜けた瞬間「はぁ~」と一気に息を吹き出した。


 え~と、今何時だろ?


 枕元に置いてあった目覚まし時計を仰向けのまま手探りで探し、手に取って見てみた。

 

 えっ、まだ6時半か。いつもより1時間も早く目が覚めたんだ。まだ寝たい気もするけど、今寝たら確実に起きれる自信がない。それに、2人きりでドライブに行くんだから、あの埃塗れの車じゃなぁ。よし!パッと起きて車でも洗いに行ってこよう。

 

 そうして僕は、顔を洗って寝癖のまま、朝ご飯も食べずに愛車である黒色のオデッセイをコイン洗車場まで洗いに出掛けた。ある程度、車のボディと室内を綺麗にしたのは良いんだけれど、朝とはいえ7月だけに汗だくになってしまい、また家に戻ってシャワーを浴び、出発の支度をしてから待ち合わせの場所まで車を走らせた。

 

 うん、予定していた時間通りに着けそうだな。


 そう思いながら、待ち合わせ場所のファミリーレストランに近付くと、アイボリーの色をしたスカートに茶色の花柄のノースリーブTシャツを着た遠藤さんが手を上げてアピールしてくれた。


 僕は、遠藤さんが立っている側で車を止めると、助手席側の窓を開けて笑顔で挨拶をした。


「おはよう、遠藤さん」


 声には出ていないが口元を見てみると、「おはようございます」って言っているのが読みとれた。


「もしかして、ちょっと待った?」


『うううん、大丈夫です。私も2,3分前に着いたところですよ』と、頭を振ってスマホに入力した文字を見せてくれた。


「そう、じゃあ丁度良かったね」


 そう言ってから、遠藤さんの横に置いてあった手荷物が目に入った。


 まるで宿泊でもするかのようなカバンだな。


「それにしても遠藤さん。おっきなカバンだね」


「あの~・・・」と、言いたげな感じの素振りをした遠藤さんは、今度は後ろのファミリーレストランの方を振り向いた。

 

 うん、どうしたんだろう?遠藤さんの様子が変だなぁ。オロオロして何だか落ち着かない様に見えるんだけど・・・。


 彼女が振り向いた方に僕も目を向けた。最初は、ファミリーレストランの2階部分を支えている柱で分からなかったんだけど、その薄暗い駐車場の柱から見た事のある3人組みの姿がヒョイっと現れた。

 

 えっ、何?何で?と思い目を細めてジィ~と見ると、その三人は「してやったり」と言いたげに、ニヤッとした不敵な笑みを浮ばせてこっちに向かって歩いて来た。


 えっ~~~~!!!!!!!!!!!!。長谷川さんと相原、それに高野さんまで。な、何でここに?


 長谷川さんと相原は、想像していた以上に僕が驚いた顔をしたからだろう。ますます2人は、ニコニコした表情で話し掛けてきた。


「おはよう、片瀬くん。今日は、めっちゃくちゃ良い天気やな~。何て言うか~、バーベキュー日よりって言うんかな、こんな日を。まぁ、何とも楽しい1日になりそうやで~」


「ほんとですよね~。こんな日は、外でバーベキューですよね~」


「な、何で朝早くからこんな所にいるんですか~」


「だからバーベキューしに行こうって言ってるやんか、なぁ、相原」


「そうそう、言ってるじゃん」


 2人して同じ事言うなよ・・・


「いや、言ってるじゃんじゃなくて・・・」


 僕は、戸惑いながらも3人の持ち物を確かめて見ると、それぞれが大きなカバンを持って来ており、取り分け長谷川さんに関して言えば、バーベキューセットと炭が入っている箱を地面に置いていた。


 確かに冗談を言ってるようには・・・見えないよなぁ~、やっぱり。それにしても、ここまで用意してこられちゃーなぁ。今更帰って下さいなんて言える訳ないし。


 ちらっと遠藤さんの方に目を向けると、僕に片目を瞑って手を合わせている彼女の姿が目に映った。

その後、彼女はどういった経緯でこうなったのかをスマホに入力して僕に説明してくれた。


『片瀬さん、ごめんなさい。私が絵里に片瀬さんとドライブに行くんだって言っちゃったもんだから。それでその話しが絵里から相原さんに、相原さんから長谷川さんに伝わっちゃって・・・』

 

 そうか、あの時か。相原が「その日にしましょう」って言ってたのはこの事だったんだ。何でそんな事言うんだろうって思ったんだけど、やっとここで話しが繋がった。


『向日葵畑にドライブに行く話しを聞いた長谷川さんが、「それやったら、人数の多い方が絶対面白いって。確かその近くやったら、市が運営しているログハウスがあったはずや。そこで夜バーベキューして、そこのログハウスで寝泊りしてから、次の日に帰るっていうプランでどうや?異論がないんやったら、ほな決まりにすんで」と言われて、話しがトントン拍子に進んじゃって、片瀬さんには「俺から言っとくわ」って、それでこんな事に・・・』


 なるほどね~。長谷川さんと遠藤さんだったら、始めから勝負が決まってたも同然だな。


「でも長谷川さん、ログハウスに泊まるって言ってましたけど、行き成り言って部屋が空いてるんですか」


「そう来ると思ってやな、片瀬くん。そこは抜かりなくインターネットで予約を取ってるんで有りますわ。ハッー、ハッハッハッハッー」


 何だよ~、この勝ち誇った笑いは・・・今まで考えてた計画が全部パ~じゃん。


「あの~、着替え無いんですけど~」と、ちょっとふて腐れ気味に僕は答えた。


「あ~、そんなん心配せえへんでもええやん。どうせ向こうに行ったら、スーパーでバーベキューに使う材料を買いに行くから、そん時に片瀬の着替えも調達したらええやん」


 えっー!!、と呆気にとられた僕は、心の中で呟いた。

 あんたにゃ負けるわ。え~いも~、仕方がないなぁ。分かったよ、分かりましたよ。連れて行けば良いんでしょう、連れて行けば。

 

 そうして僕は、苦笑いしながらこう言った。


「それじゃあ、行きますか、皆で」

 

 長谷川さんと相原は、お互い右手を出して「イエーィ」と言うと同時にハイタッチした。

 

 まあ、皆で楽しく過ごすのも、悪くないか。

 

 3列目の座席とその後ろの僅かなスペースに皆の荷物を置き、4人を乗せて一路向日葵畑を目指し出発した。

 

 助手席に乗っていた遠藤さんが、申し訳なさそうに僕にスマホを見せて話し掛けてきた。


『本当にすみません。こんな事になって』


「良いよ、別に。最初はちょっとビックリしたけど、でもまあ、皆でどこかに出掛けるのも悪くないかなって」


『そうですね。何事もポジティブ、ポジティブですね』


 えっ!?ポジティブ、ポジティブって?


 その言葉を聞いた僕は、心臓がドキッとして、大学時代の麻衣の事を一瞬思い出してしまった。


 そんな僕の言葉が詰まった表情を見て、遠藤さんは、僕の様子を窺ってきた。


 『どうかしましたか?』


「うん?あっ、いや、何でも。まぁ、あれだよ。また今度、時間を合わせればいつでも行けるしね」


 片瀬さん・・・と照れながら頷いた。


 すると、後の座席に座っていた相原が、運転席と助手席の間からにょきっと顔を出して、意味ありげな表情を浮ばせながら僕達2人に話し掛けてきた。


「そうそう、気にしない、気にしない。片瀬さんもこう言ってる事だし。それに私達には時間もあるしね~、片瀬せんぱ~い」


「おい、危ないから後ろでちゃんと座ってろよ」


「はーい」

 

 相原は、ゴソゴソとそのまま後ろの席に素直に戻っていった。


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