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いぶし銀な異世界冒険録  作者: 三叉霧流
プロローグ いぶし銀な一日
3/20

何でもない日 夕・モンスター査定

「ギンジさん、今日も大量ですね。お疲れ様です」

「ああ、ありがとう。モージュも門番、ご苦労様」

 ギンジは町の城門にいる門番と挨拶を交わして、リアカー引きながら町へと戻っていった。

 土壁の木造建築が立ち並ぶ中世ヨーロッパ然とした町並み。比較的大きな町は、王都からも近く交易も賑わい、遺跡や地下迷宮といった物もあり、何時も活気立っていた。門から領主の館へと一直線に続く大通りを彼はのんびりとリアカーを引いている。その銀次の姿を見つけた町の人達は笑顔で近付き、後ろのサーペントの山を見て喜んでいた。

 目的地は冒険者ギルド。その間にあちらこちらからギンジに声をかける者が後を絶たない。

 彼は町の人達の人気者だった。それもそのはずで、彼は普通の冒険者が見向きもしない依頼を二つ返事で引き受けるからだ。農作業地に紛れた小型モンスターの討伐や近くの村への護衛、薬草や食材の採取など。そのどれもが町の一般市民が少ないお金を出し合って依頼する小規模のものばかり。多くの冒険者は遺跡や森の奥深くに入って獲物を狩る。しかし、町の市民が求めるのはもっと現実的なもの。街道や農作業地の安全、手に届く薬草などの採取、そういった地味な依頼を望んでいた。

 リアカーをころころと引きながら銀次はのんびり挨拶を交わしながら冒険者ギルドへと辿りついた。

「おぅ! いぶし銀の、いつも通り励んでるな!」

 後ろからバシン、と衝撃を感じで彼は振り返る。

 そこには巨大な男が斧を担いで豪快に笑っていた。

「ザングルさん。吃驚するので止めてください」

「ハハハ! それが驚いている顔かよ!」

 ザングルは角張った顔の口を隠すような長い髭を揺らして笑う。

「お頭ぁ~。そんな三流ほっといて早く査定終わらせましょうぜ~」

 ザングルの後ろ。そこには五人の男達が馬車に乗っている。その従者台の上から一人の若い剣士の冒険者が不満そうな目つきで銀次を見て言う。その馬車の荷台には大型モンスターの死体が乗せてあった。

 大型モンスター、スカーベアー。強ければ強いほど身体に傷跡が残る熊型のモンスターだ。ざっと銀次が見たところ、傷は十二箇所。単独であれば冒険者ランクシルバー、四人以上のパーティーでカッパー。冒険者ランクブロンズの銀次では依頼さえ回ってこないモンスター。

 冒険者ランクは、ゴールド、シルバー、カッパー、ブロンズ、ウッドの五ランクに別れている。ウッドは駆け出しの冒険者が一年間首にぶら下げるプラカード。いわゆる若葉マーク。その一つ上のブロンズは、町周辺の低レベルモンスターを単独で狩れるようになった新米冒険者。銀次とシルバーランクのザングル率いる冒険者パーティー「剛戦斧の暁」は全く次元の異なる冒険者だった。

 実際に銀次を揶揄した剣士と自分は違うと思い、彼は特段何も感じない。それよりも立派なスカーベアーの黒い毛皮を見て、今年の冬は暖かいスカーベアーの毛皮マントでも購入するかと考えている。

「グルド! お前は何も分かってねぇな! いいから黙って先に査定終わらせてこい!」

 銀次がスカーベアーを眺めているとザングルは、不満そうに声を上げた若い剣士に怒鳴り黙らせる。そして、銀次の方を向いて謝った。

「すまねぇな、いぶし銀の。若い奴らはお前さんを甘く見るようだが、お前さんほど町に貢献している冒険者はいねぇよ」

「気にしてませんよ、ザングルさん」

「ならよかったぜ。後で一杯飲もう」

 銀次の返事を聞きザングルは笑顔を向けて、くぃくぃとグラスをあおる真似をする。

「いいですね。ギルドへの報告が終わったら俺の行きつけの所で」

「おぅ!」

 ザングルは短く返事をして、自分の馬車へと戻っていた。それを見送り銀次もコロコロとリアカーを冒険者ギルドの査定場へと向ける。

 冒険者ギルドの横には、市場のような査定場がある。夕暮れになり戻ってきた冒険者達がお宝やモンスターの素材を換金する場所だ。高レベルモンスターの査定場所は様々な大型モンスターが運び込まれ、競り市のように活気づいている。この場所で査定をする商人達は冒険者ギルドから綿密な調査を受けて選ばれる。人物、資産金額、その信用度などを調べ、高レベルモンスターを取引する商人は一流の商人でなければならない。冒険者から賄賂を受け取り証文を誤魔化し冒険者をランク上げたり、取引資産が少なく破産するような者は言語道断。厳選な審査を受けた老舗商会の商人だけが立てる特別な場所だった。

 賑やかなその高レベルモンスター査定場所から銀次だけは離れて、リアカーを何時もの場所へと運んだ。

「あ、ギンジさん! 今日も大量ですね」

 折りたたみ式の簡単なカウンターで冒険者を待っていた若い商人が飛びっ切りの笑顔でギンジを呼びかけた。

 このあまり人がいない査定場所は低レベルのモンスター専門

 低レベルモンスターは少金額の取引で、大量の死体を解体する人件費がかかる薄利多売の商売だ。必然的に人気が無く、独立を目指す商人達が登竜門的に携わっていた。しかし、今の時代が悪いことに、人手が足りない冒険者達は新米冒険者を荷物運びとして雇いフィールドに出てしまう。低レベルのモンスターの供給は低くなり、若い商人達は独立を諦め、低レベルモンスターの査定場所は閑散としている。

「マリポーリ、今日もお願いするよ」

「はい! 任せてください!」

 マリポーリと呼ばれた若い商人は元気よく返事する。

 彼にとって銀次は英雄だ。若いながらも独立心のある彼はなんとかこの査定場所に商売を広げることができたが、だれも来ない。そこに大量のモンスターの死体を詰めたリアカーを引いて現れる銀次。夕日を背にしてリアカーを引く黒髪の英雄に彼は心酔していた。

 元気よく返事した彼はさっそく日雇い労働者達を呼び集めてリアカーからスモールサーペントの死体を地面に広げたゴザの上に並べさせる。一つ一つ丁寧に数えて、首と胴がきっちりと合っているかを調べていく。

 銀次は、査定場の鍛冶師の所へ行き、片手剣と盾を磨いて貰い。その間に銅貨でお湯を購入して身体と鎧を綺麗に拭く。さっぱりした後は、何時ものようにハーブの香油をひと(すく)い買い込んで髪に振りかけて臭いを誤魔化した。

 その姿を見つけたマリポーリがとことことやって来て話しかける。

「ギンジさん。査定終わりました。数は二百十九体。金額は一体につき小銀貨一枚。合計金貨二枚と大銀貨七枚、小銀貨二枚になります。内訳をつけますか?」

 そうたずねるマリポーリに銀次は頷く。

「ギルドへの証文と一緒に内訳表をつけてほしい」

「わかりました!」

 彼は独楽鼠(こまねずみ)のようにちょこちょことカウンターに戻って書類を書き始めた。

 銀次はそれを見送り、土器に入った蜂蜜入りの葡萄酒を銅貨二枚で二つ購入してマリポーリの横にことりと置いた。

「あ、気がつかず、す、すみません! 本当なら僕が用意するのが普通なのに」

 その土器を見てマリポーリが頭を下げて謝った。銀次は微笑みながらちらりと書類を見て言う。

「いい値で買い取ってくれたみたいだからね」

 その内訳表には市場取引価格よりも値段が高く設定されている。これはマリポーリが人件費を差し引いて残った金額から回しているものだ。それにかこつけて銀次が言った。

 マリポーリは恐縮しながら答える。

「ギンジさんが来てくれるだけで一週間の目標取引額になりますからね。本当に僅かですけどお礼になればと思って・・・」

 マリポーリは駆け出しで資金も少ない商人だが、この人柄で許可されている。誠実な彼の言葉に銀次は微笑んだ。

「気持ちだけで十分」

 そう短く答えた。

 銀次は何人もこの低レベル査定場から巣立っていく商人達を見ている。マリポーリならいい商人になると思いながら彼と少し世間話をして、ギルドの証文と内訳表を受け取り、冒険者ギルドの受付へと向かった。

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