肯定
ちょうど太陽が沈む頃、ライカは目を覚ました。
「ふぁ〜ふ」
欠伸をして暗闇に包まれている辺りに手を伸ばして爪を刺し貫く。
『グギャaAッ』
目覚まし代わりの悲鳴にでもライカにはあまり効果がなく、ぼんやりしながらライカはもう片方の手で貫いた場所を掴んで引きちぎる。
淡い光が漏れてきてライカは眩しそうにした。
ライカは自分で開けた穴から飛び出した。
そこはライカが知らない風景が広がっている。
荒野が広がる無人の世界、そこにはライカと今しがた動かなくなった餌だけだ。
とりあえず食べてもらってから話を始めよう。
「もう一眠りしてから考えるかー」
起きて下さい。
軽く朝食(夕食)をとったライカは身体を鳥に近いカタチにして飛び上がり、バタバタと翼を羽ばたかせるが飛べはしないので滞空時間が僅かに延びるだけの意味の無い行動をとりつつ周囲を空から見渡す。
地上は荒野の世界だけで太陽が沈む頃の映し出す綺麗な色の空の世界は美しいのだろうと思ったライカは地上に墜落した後、頭を悩ませた。
「ん〜空綺麗だったな〜」
「て、そっちじゃないか、寝過ぎて何処かまったく分からないとこ来ちゃったな、元から何処歩いてるかとか分からないけどさ〜」
見渡す限り建造物や草花も見かけない夢も希望も無いが星が見える。
「いっちょ一番星に向かうか」
アテもないライカは一番星に向かって歩き始めた。
その様子を映し出すモニターを凝視する紅い目。
『あれは…鯀様がお探しになられている王子様ではないですかな?』
舜は映し出されている一匹の狂獣の腹から出てきた人型をしている狂獣がとっている行動から下級狂獣のような本能で動くものではない、知能を持つ上級種と見立てた。
その割には結晶体ではなく下級狂獣と同じように見て取れる。
ちぐはぐな点を持つ異常体、鯀様から承りした特徴と一致する。
そして何より、同胞を躊躇わずに喰らう様は畏怖を感じる。
『私が王子様をお迎え出来れば魔王様によい恩返しが出来ますな…ですが、私の役目はこの施設を早く完成させること、王子様のお迎えではない』
舜は悩んでいるとモニターに映し出された王子様?に新たな動きがあった。
急に立ち止まると王子様は下を見つめた。
しばらくそうしていると首を傾げて突然地面を掘り返し始めた。
『まさかこちらに気付いたのですか⁉︎』
慌てる舜をよそに王子様?は地面を掘り進めやがてモニターから姿が見えなくなった。
『どうやら王子様の歓迎をしなければならないようですな、せめて王子様が良心的な方だったら良いのですが』
何かの気配が下からしたので何気なく掘ってみたがなんか硬い物体にぶつかったのか全然掘れない。
周りを掘り返しても硬い物体が出てくる為これ大きいね。
コンコンと叩いてやっぱ硬い。
うーむ、明らか人工物だ。
地下にある何かの基地的なものかなワクワクします。
ではお邪魔します。
けたたましい警報音が舜のいるモニタールームに鳴り響き、とある場所にあるカメラがピックアップされて拡大される。
モニターから映し出された光景は差し込む光と立ち込める土埃、逆さに倒れている王子様?を捉えている。
『あの外壁をいとも容易く粉砕されるとは…結晶体よりも硬い金属なのですかな?王子様は不思議な方だ。さて、お迎えに向かわなければ』
舜はモニタールームを後にして王子様?のたどる道を予想して先回りを開始した。
痛いだろうなこれ。
ライカは九十度程曲がった首を戻してから立ち上がる。
「思ってたより力入れ過ぎたね、勢い余って落ちて首折れたわー、ん〜さてさてさーて、此処は…どっかの通路!だよね?うん、右左どっち行こうかな」
アッチコッチそっちどっちと決めあぐねているとライカは上を選んで帰るなよ!
「じゃあお邪魔しました〜は嘘嘘、怒らない怒らない、餌の気配がしっかりあるしそっち行こう」
右の道を行くライカ。
その先には何があるのか次回、「完結」に続きます。
まだ続きますよ。
ライカが右の道を行くと大きめな部屋に出た。
そこには大きな狂獣、舜が待ち構えていた。
『ようこそいらっしゃいました王子様、私の名は舜、四王鯀様の配下にして魔王様よりこの施設を預かるモノです』
舜は慇懃な礼をしてライカを迎えた。
何時もならライカは有無を言わさずに喰べるところだが、今回は。
「オージ・サマ?誰それ?自分はライカですよ初めましてです」
普通に挨拶したし。
ライカは舜の後に着いて歩いて今いる施設について説明を受けていた。
「へぇここは狂獣って言うんだっけかな、その狂獣の餌を生産する牧場なんだ」
『その通りですな、最も今は実験段階の為まともな生産は行ってませんが』
「そーなんだ、ここ完成したら餌に困ることなさそうでいいね」
『そうですな、我々狂獣の王、魔王様がこの世界を治めるのは確定されていますが、魔王様が統治する世界では我々の食糧問題がすぐに訪れるのですな』
『魔王様が統治する際に多くの新鮮な生物は必然いなくなりますな、なので魔王様に私の方から提案を出したのです。新鮮な生物の代わりとなるモノを』
『人間には養殖、という技術があるそうですな、私が行うのは広義では畜産に分類されているそうですな、いやはや、人間の技術とは素晴らしいですな!これが成功すれば食糧問題など簡単に解決出来るのです』
舜の解説を聞きながら、ライカは通路から窓越しに部屋の様子を見る。
部屋の中はとても大きな円筒型の容器が並び、ライカと同じ様な人型狂獣が試験管とにらめっこしている。
『さて、次に参りますですな』
「はーい」
『次は実験段階のものですが今飼育している生物をお見せします』
そう言って舜が始めに見せた生物は手足で四足歩行する生き物だ。
次は二足歩行する生き物、最後は三本足、とても有名な生物だ。
「なるほどなるほど、ここで飼育している生物って人なんだな」
『その通りですな、人間はその他の生命体よりも強い精神性を有しているのでとても食糧に向いております、ただ、育成が難しく今のままではその他の生命体と代わりになりません』
「ふーん」
『おや、ライカ様はあまり興味がありませぬかな?』
「そうだね〜人はマズいからさ〜だからもういいや、飽きたし」
舜の背後から一閃、舜は視界が逆さになる。
「マズいものしか作れないのに興味わかないから御飯になってね」
舜の視界がライカの開けた口の闇に包まれる。
『ああ、やはり良心的な方ではなかったですな』
舜の最後はあっけなかった。
「ふぅ、結構な数いたなぁ」
ライカは舜を喰べた後、この施設にいた狂獣全てを喰らい歩いていた。
だいぶ時間が経っていたのかライカが入ってきた穴からは日の光が消え失せて星が見える。
「ここも自分の帰る家がなかったな、どっかの戦争的なやつに使うとか何とか色々あったけど自分の記憶にはこういうの無かったし、外れかぁ」
ライカは穴をよじ登り外に出る。
外は相変わらず荒野だ。
仕方ないとライカは歩き出す。
今日は一度も人にならなかったがいいか、戻るの面倒だし、そうごちて今回はお終い。