三話
学校帰り、私は公園で光が来るのを待っていた。
読みかけの本を開いているが、頭には全然入ってこない。
「はぁ……」
理沙先輩のことを考えると、気が重くなる。
理沙先輩と一緒に話すのは楽しかった。けど、それ以上の関係は望んではいないのだ。
「友香、お待たせ」
「光……」
本を閉じて鞄にしまう。
立ち上がると、光が顔を寄せて来た。そして、クンクンと匂いを嗅ぐ。
「やめて……」
午後に体育の授業があったので、少し汗臭いかもしれない。一応、シートでは拭いてるけど。
「……」
「光?」
返事がない光を不審に思って、顔を覗き込む。
「っ……」
無表情だった。
「あ、ごめんね。ボーとしてた」
と、すぐにもとの光に戻った。
それから手を引かれ、私の家に向かう。部屋に入ると、光は私の肩を抑えた。
「ひ、光……」
突然のことで困惑するが、光の顔を見て悟った。
ああ、これはまずいやつだ。
「ねえ、誰と会ってたの?」
「っ……」
「嘘ついても無駄だよ。他の女の匂いがしっかりと残ってるから……」
「……」
光が怖い。
普段の明るさ満点の雰囲気とは違う。虚な目が私を見つめていた。
「言いたくない……」
「そっか……じゃあ、そんな悪い子にはお仕置きしないとね」
「っ」
光は私をベッドに押し倒した。そして、手首に手錠をはめる。
「ん……」
光が乱暴に私の唇を奪った。
服を脱がされていく。
「や、やめて……」
懇願するが、光の手が止まることはない。
「友香、可愛いよ」
「っ……」
お仕置きと言いながらも、光に甘い言葉を掛けられる。
あっという間に丸裸にされた。
「っ……」
裸を見られて、恥ずかしいけど手で隠すことは出来ない。
「今日はどんなお仕置きにしようかな……」
光は頬に手を当てて、首を傾げた。
「決めた。友香、うつ伏せになって」
「うん」
今の光には逆らってはいけない。
うつ伏せになるとお尻に衝撃が響いた。
「っ……」
「やっぱり、お仕置きと言ったら、お尻ペンペンだよね」
それから、私は何度も光にお尻を叩かれる。
パンッ、パンッ、と音が部屋に響く。
光が手を止めると、尻にはヒリヒリとした痛みが残っていた。
「真っ赤になったね」
「ひっ……」
光がお尻に触れる。それだけで痛みが走った。
「あ、うぅ……」
光が私のお尻を撫で続ける。
「次は……そうだ」
光は私に覆い被さる。次の瞬間、肩にぬめりとした感触と温かさが伝わって来た。
「何……?」
「友香を舐めてるの……」
舌を這う感触が肩から背中へと広がっていく。
「えへへ、歯形つけちゃった……友香が私の物ていう印。たくさんつけてあげるね」
「っ……」
痛みが背中を走る。私は唇を噛み締めて、耐えた。
「次は前ね」
光が私を裏返す。光と目があい、私に笑みを向けた。私の頬を撫でながら、口を開く。
「その顔好き」
私はどんな表情を浮かべているのか、わからない。
光は私の首筋に顔を埋めると噛みついた。
「いっぱいつけちゃった」
「はぁ、はぁ……」
光は私を見下ろして、満足気に笑った。
「友香は私だけのものだからね。誰かと仲良くしたらダメだよ。わかった?」
「……うん」
「ふふ、良い子だね」
光は私の頭を撫でた。
それから私達は一緒に風呂に入った。
「っ……」
お尻と噛まれた傷口が滲みる。
「ごめんね、やりすぎちゃった」
「うんうん、大丈夫」
私は足についた歯形を見つめる。
光がつけた「光の物」という印。そう思うとそれが愛しく感じた。
「首の印……隠せないね」
「あ……」
鏡を見ると、首には噛まれた跡があった。
確かに他の印は服で隠れるけど、首筋についたのは隠せない。
「大丈夫、絆創膏貼れば……」
「そうだね」
光は私を後ろから抱きしめ、耳元で囁く。
「乱暴して……ごめんね。友香が誰かと仲良くしてると、すごく嫌になって……友香だって、友達作りたいよね?」
「うんうん……光が一緒に居てくれるなら……いらない」
「ありがとう……私も本当は友香だけと仲良くしたいんだけど……」
「ダメだよ。光は人気者だから」
「むー……わかった」
光は人気者だ。
容姿も性格も良い。
そんな子が私だけと仲良くして、他の子と一切関わらなくなったらどうなるか。
周りから見たら面白くないだろう。最悪いじめになることだってあるし、私に被害があれば光は間違いなく、加害者を許さない。
だから、平和のためにも光には交友関係は大切にして欲しいのだ。
と、理性では納得しているが、光が誰かと仲良くしているのは嫌だ。
「っ……」
光の肩に噛み付いた。小さな歯形が残る。
「私の物、印……」
「友香ぁ」
光は私を抱きしめた。
後日、昼休み。私は図書室にいた。
一人本を読んでいる。
光のお仕置き以来、理沙先輩を一度も見かけてはいない。
予鈴が鳴り、図書室を出る。
たぶん、理沙先輩に会うことはもうないだろう。
教室に戻ると、クラスメートと談笑している光と目があった。
光は誰にもわからないように、小さく手を振った。私も振り返した。