婚約破棄しないための既成事実?
「もうそろそろ、お起きになられた方が…。」
という声に目を開けると、眩しい太陽の光が部屋の中に注いでいた。
「分かった。湯はわいているか?」
ルイスの声が聞こえ、彼の背中が目に入った。“え~と?”状況を整理しようとした。
「ご命令の通り、何時でも、お入りになれるようにしております。」
との声。
「ルシア。起きて‥、いるね。朝風呂で、体を洗おう!さあ!」
と言うやいなや、彼女の言葉も待たず、彼女の掛け布団をはぐと、彼女を抱き上げた。
「きゃあ!」
と声をあげてから、自分が全裸で、ベッドのシーツが“汚れて”いることに気がついて、真っ赤になった、恥ずかしさで。しかし、フラフラと揺れる彼のしがみつくことで精一杯となり、言葉が出なかった。
「全く派手に…。」
「お嬢様は初めてなのにルイス様は、…。」
「ルシア様こそ、あのお声…。」
「でも、まあ、初めてが、あのように…、よいことですわね。」
「本当に、安心しましたわ…。」
自分の侍女とルイスの侍女の会話を背に感じて、“納得しないでよ~!”とルシアは叫んでいた、心の中で。
「無作法だけど、今日はこのまま入るよ。」
ルイスは、ルシアを抱きながら、浴槽に入った。そこで、ようやく彼女を解放した。浴室は簡素ではあるが、2人分にはかなり余裕のある浴槽や明るい光を取り入れる窓など、“これは合格点よね。”直ぐに彼女は、彼から過ごし離れた。
「おやおや、つれないな。昨晩は、というより朝まであんなに可愛いくおねだりしてくれたのに。」
彼が悪戯っぽく笑うと、彼女たちは真っ赤になって、
「あれは、あなたがあんなことを…。」
昨晩、夜着を着た彼女は、
「どういうことですの?」
居間の扉を開けて、声をあげた。そこには、夜着を着て、長椅子に座ったルイスがいた。
「何が、どうしたんだい?直ぐに寝室に行かなかったことを怒っているのかな?まず、話をしようとおもってね、君の侍女は、何も言わなかったのかな?」
彼は、落ち着き払って、微笑みすら浮かべていた。それが益々彼女を苛立たせた。
「寝室が同じだなんて、どういうことですの?まだ、正式な結婚は、していないですのよ!」
昨晩、帰ってから体を洗い、口をすすぎ、夜着に着替えるて、侍女が、
「本日の寝室はこちらです。」
と案内された所には、特大のベッドの上に、2人分の寝具があったのだ。聞くまでもない。即座に、
「王太子殿下は?」
「居間でお待ちになっています。」
“操を失ったら、みんな、失っちゃうじゃない!絶対阻止するわ!”
「大した問題ではないと思うが。結婚式前に、というのは結構あるじゃないか?それに、国王陛下、王妃様、君のご両親、宰相も僕達の結婚を承認している。正式発表はまだだけだけどね。」
ひどく冷静な彼に、さらに腹がたった。
「王太子殿下のお気持ちは…。」
「は?」
当惑しているという顔になった。“嘘っぽいわね。”
「僕は、君との結婚を待ち望んでいるよ。一番待ち望んでのは僕だと思うけどね。美人で、聡明で、性格もいい、国内有数の貴族の令嬢で、幼い時からよく知っている、その上、何故か路頭に、迷った時の対応まで学んでいる頼りになる女性だし、全く問題はないよ。本当に、どこに問題があるというのかね?」
言葉を切った。表情が、変わった。妖しい、探るような、皮肉っぽい顔だった。
「君が婚約解消したくてしょうがないのは、分からないでもないがね。」
“何よ!”あくまでも平静さを保とうとした。
「私が、婚約解消を願っていると?何を根拠に、そのようなお戯れを。」
「だって君は昔から言っていたじゃないか、僕が君を婚約解消して、君はレムス国王やアンダルシア公、近衛騎士とか美男に助けられてハッピーエンド、僕は惨めに処刑されると言っていたじゃないか?」
“馬鹿!子供の頃の私自身!”
「それは、子供の妄想ですわ。」
「今でも、そう思っているようだけどね。でもね、僕達の場合は、婚約、結婚は国家事業だよ、簡単にできるもんじゃないよ。僕が、他の女性を好きになったとしてもね。愛人にすればいいだけだしね。大きな力を持った愛人もいたろう?」
“確かにそうだわ。”
「まあ、でも、婚約解消出来る理由はあるんだよ、実は。」
「ちょっと、言っていることが矛盾してない?」
思わず、ため口がでてしまった。ルイスは、しかし、不快な顔もせず、
「婚約解消を言い出せる理由はある、だけど、僕は、使わない、婚約解消はしないということだよ。まあ、椅子に腰掛けてくれないか?」
黙ってルシアは、向かい側の椅子に座った。2人の目は、これから戦いが、始まるかのようになっていた。