↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄から…てか婚約破棄されない。これでは、私のハッピーエンドは?え、道連れって?  作者: 安藤昌益


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/33

庶民達と?

「お嬢様をこのような場所に…。」

 ルシアの侍女は、さすがに不快そうな表情を浮かべていた。彼女の騎士も同様だった。ルイスの別邸に近い町の場末の居酒屋だった。

「まあ、こういう場所や食べ物、飲み物も、国をになう者としては知っておく必要があるからね。」

 ルイスは和やかに笑っていたが、女達は不愉快そうな顔を変えなかった。

「殿下。お久しぶりですな。武勇伝は、お聴きしておりますよ。」

 酒と食べ物を盆に載せた、大柄な、髭面の男が声をかけてきた。

「女性をお連れになるのは初めてですが、どなたですか?まさか、3人とも…とか、修羅場ではないでしょうな?」

 揶揄っているのがすぐ分かった。

「妻の前で誤解を招くようなことは、言わないでくれないか?まあ、式はまだだが。」

 そう言って、目で向かい側に座るルシアを指し示した。男は、わざとらしく大きく頷いて、

「こちらが…いや、大変な美人で羨ましい。あ、私はここの店主でエルネストと申します。殿下には、ご贔屓にしてもらっております。よろしくお願いします。」

 頭を深々と下げた。それからすかさず、

「それで、もう?」

「今夜…余計なことは言ってないで仕事をしろ。かみさんに怒られるぞ。」

 ルイスの言葉に、男は笑いながら立ち去っていった。ルシアは真っ赤になっていた。怒りと恥ずかしさでだが、周囲はそう見ていないようだった。

「もう~、ルイス様ったら~。」

と女達も見ていた。

 とにかく置かれたワインに口をつける。

「お嬢様。どうかなさいましたか?」

 顔をしかめた彼女を見て、侍女は直ぐに自分の前のワインを口に含んだ。

「ルイス様。どういうおつもりですか?このようなものをお嬢様に!」

 声を抑えながらも、抗議した。

「あまり上等なワインとは言えませんね。」

 ルシアの護衛の女も、ワインを一口含んだ後、公平に裁定を下すかのように呟いた。

「手厳しいな。まあ、だからこそ飲んでもらったのさ。ここでは、やや上等なクラスなんだ。つまり、庶民は通常これよりランクの低いやつを飲んでいるということを知ってもらおうと思ってね。」

「それで、この臭い料理も食べろと言うわけですね。」

“フン。分かったわよ。”彼女は、ハラハラする侍女を尻目に、自分の前に並べられた皿の料理を口に運んだ。

「まあ、おおざっぱなところは変わりませんわね。」

「ああ、繊細さが欠けるね、どれも。」

 ビールを飲みながら返したルイスの言葉に

「?」

と思ったが、

「殿下は戦場では兵士と同じ食事をとってましたからね。」

 ルイスの側近の男が、女達の厳しい視線に耐えかねたように言った。

「完全に同じというわけではなかったが、まずは勝つことが第一だからな。」

 さほど汚くはない店の中は、まあテーブルの8割がたは埋まっていたが、騒ぎも喧騒もなかった。他の客は、こちらをチラチラと見ながら、静かに飲み、食べていた。右端のテーブルの3人はルイスの部下、左端の2人はルシアの家の者だった。“外にも何人か配しているわね。まあ、私の家の者もいるでしょうけど。”ルイスは、彼女のために、万一のことを考えて、いつもの数倍の護衛を配していたのだが、ルシアは“庶民の視察なんて言ってもこんなものよね。”と悪意がこもってしまう。

「殿下。お邪魔します。」

 聞き覚えのある声が耳に入ってきた。イサベラだった。

 彼女は、許しも得ずにテーブルの端に椅子を置いて座った。咎めよう、或いは連れだそうとする部下達をルイスは手で制した。ルシアも、両脇の女達を制した。

「私の意見書をお読みいただけましたか?」

 キッとルイスを睨みつけた。

「君は、どのようにしていた理想を実現しようと言うつもりなのかね?」

 彼は、彼女の問いに答えず逆に問い返した。

 彼女は迷った。彼に改革を期待するようなことを言いたくないし、自分たちの思いの強さを伝えられない、もし実行されなければ、革命で実現させる等と言ったら謀反人だと言われ、処刑、そこまでいかなかったとしても、逮捕されるかもしれない。

「改革は必要不可欠なのです。全ての国民が平等に国政に携われる国家にならなければならないのです。」

 彼女は、彼同様に相手の問いに答えない方法をとった。

「何と!身分の無い者を国政などと。」

 ルシアの隣の護衛の女が批判するように叫んだ。イサベラは、これにも全く動じなかった。

「全ての人間は、生まれながら平等です。国の危機も救えず、特権だけを享受する者達が高貴な存在などと言えましょうか?」

 宣言するように、凜として言った。“この娘は、賤しい成り上がりの男爵家の者が。”という気持と彼女に同意する自分がいることを感じた。“私は彼女の側の社会にいたんだっけ。”

「貴族などいない世界が来るかもしれないわね。」

 皆が驚きの顔をした、ルイスを除いて。特に、イサベラは“意外”という顔だった。それを見てルイスは微かに笑って、

「私は、…、祖父の代から改革をしてきたのだがね。」

「あのような姑息な改革、改革の名に値しませんわ。」

 手厳しい言葉に、騎士達が起ち上がりかけた。彼は、また、手で皆を制した。

「君は誤解しているが、ルシアの父上の協力で何とか実施出来たのだよ。彼が、貴族の反対を押さえてね。単なる反動派の巨魁ではないのだよ、ルシア嬢を見れば分かるだろう。」

 彼女は、ルシアに好意的な視線を送ったが、大胆な改革の必要性を主張した。

「なあ、ええ~と、イサベラ嬢。強引に前に進ませると反動が生じる。100歩進んで、99歩下がる。それを繰り返して50歩まで進む。それは争いの連続で、何十万の犠牲がでて達成される。一歩づつ、犠牲なしに、少しばかり時間がかかっても、50歩まで進めるのとどちらがいいかね?」

「時間がかかり過ぎますわ。」

「どちらが早いかな。もし、何十万の犠牲で50歩まで進む間に、犠牲無しで40歩進むのとは、どちらがいいかね?」

「詭弁ですわ。」

 そう言うと彼女は立ち上がった。 

 すると、彼は、手を上げて他のテーブルの部下を呼んだ。彼に、

「イザベラ嬢を無事宿に送り届けるように。これから捜すなら、それを手伝ってやってくれ。」

「結構ですわ!」

 彼女は背を向けると歩き始めた。彼が頷いたのを見て、彼の部下は彼女を追った。

「折角のところで、邪魔が入ったね。今日は、ここまでにして帰ろう。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。