最終決戦に
「あれがプリマベーラ級フリーゲート?まるで戦列艦みたいだけど?」
「よく分かるようになったね。ルシア。」
どや顔のルシアを見ながら、“本当はツクバ型重フリーゲート艦のはずだったんだけど。なんで、あんなひどい艦になったんだ?”
二人は、戦列艦ヤマトの甲板上にいた。対峙するのは共和国艦隊である。
2人が、陸戦から軍艦上に移っていたのは、予定していたことではなかった、また、無理矢理言いだしたわけではない。侵攻作戦がスムーズに進んでいること、そもそも王太子が陣頭になければならないわけではないこともあり、ある事情から後方の港湾都市カレーに移動していた際、共和国艦隊の出撃情報があり、迎撃するするため艦隊が出撃する時に出会わしたという偶然からであった。まあ、自分達もその艦隊に加わると言いだしたのは確かだったが。
カレーに来たのは、海外領土からの使節の引見のためだった。元々、コリントスは、カルタゴとは異なり、入植者を送り込み、土地を先住民から奪う形で開発を進めるようなことはせず、先住民は服属はさせるが、彼らの自治を尊重し、協調、共存する形を取ってきた。入植、開発もしていたが、対立をもたらすことのないように進めてきた。海外領土からの産物の輸入、他国への再輸出などの形での貿易、商業利益が、コリントスの海外領土からの利潤の比率の仲で一番高かった。ルイスの政策は、伝統の政策に沿っていたが、自治制度の整備、先住民の登用の推進、コリントス本国への留学、本国での登用を進めた。だから、士官学校には少なからず彼らがおり、ルイスの側近にすらいた。共和国側も、海外領土に働きかけを行っていた。共和国軍と王太子軍が、海外領土で激突したことも度々あったし、本国から軍が多くはなかったが送られたこともあった。結果としては共和国側は、一掃された。そのことでの関係の使節である。統治体制の確認である。共和国側の敗北は、自業自得だった。自治の拡大か、一律コリントス国民として平等に扱うかの意見が対立し、二転三転した挙げ句、後者に決定してしまった。理屈では、後者のほうが正しい感じがする、慣習、伝統、宗教などは自由な状態で選択するもので、制度で守る必要はない等からだ。“歴史は、それが誤りだと証明しているのだけどね。”とルイスとルシアは心の中で一致していた。その上、入植者への土地配布に固守して、先住民の各部族と戦闘に入ってしまったりしていた。先住民部族の支持を失った共和国側は、あっという間に一掃されたのだ。ちなみに、和平成立後、カルタゴは同意事項を守り、一切、コリントスの海外領土に手をだそうとしなかった。
そして、プリマベーラ型である。もっと大砲を、もっと分厚く、高速の戦列艦に等々と次々とアイデアが付け加えられ、中途半端で、使い勝手の悪い艦が出来上がってしまった。共和国軍の新鋭艦はそうした艦が多く、しかも数的に劣勢な海軍は、艦隊決戦は避け、通商破壊にまわすほうがいいのだが、それも常識的な戦略とそうでない戦略のどちらを採るかで二転三転、決まった直後に覆され、有能な指揮官が処刑、練度の高い将兵が投獄などされ、戦機を逸することが続いた挙げ句、制海権を取るため、艦隊決戦を試みることにしたのである。
イサベラが関与しないところで、既に決まっていて、彼女のところに訴えが上がった時には、もう遅かった。
訓練も不十分で、士気の低い共和国側の艦隊は、ヤマト、ムサシ、シナノに瞬く間に押され、その火砲に圧倒され、コンゴウ、ヒエイ、キリシマ、ハルナに後方を遮断された。ヤマトなどを、簡単に手放した共和国側は、実は、プリマベーラ型などに絶大な、期待を持っていたためで、中には、
「標的として与えておきましょう。」
とヤマトを、評していたほどだ、共和国側は。 操艦がやりにくいプリマベーラ型などは、安々と取り囲まれてしまっていた。結局、短時間の内に僅かに脱出した数艦を除き、沈没又は拿捕されてしまった。いや、かなりの艦が自ら白旗を揚げたのだ。それで、事実上、共和国側は制海権も艦隊も失った。そして、首都のあるカタルーニャ地方のみが、共和国側の残る牙城になってしまっていた。レバント沖海戦後、数日の後、ルイスの軍はカタルーニャ地方に向け出撃していった。
各地からの敗軍をまとめながら、共和国側は起死回生に希望をかけた決戦に向けて準備を行った。最早、イサベラが共和国の頂点に立って動いていた。評議員の一人というだけの立場でしかなかったが、彼女しかいなかったのだ。大統領にも、首相にも、総統にも就任せず、自称もせず、彼女は指示し、走り、指示した。地位など、もう有名無実なものになっていたし、地位を自称したら、勝っても、負けても後から、その行為を糾弾されるだろうからだ。彼女の同志たちは、表情も、目の色も変わっていた。彼女の下で、共和国に命をかけようとしていた。そのことが、かえって誇りに感じてさえいた。それは、軍にも感染し、意気消沈していた敗軍の将兵が士気の高い部隊に変わっていた。しかし、そうは言っても、兵器も弾薬も不足していた。皆が、奔走していたが、少しづつは増えてはいたが、充足はとても…という状態だった。
「私は、共和国に命をかけているのだよ。」
アンダルシア公がふらっと、本当にふらっとという感じで現れた。彼は、巧みに兵器や弾薬の調達を行った。僅かな量であったが、共和国にとっては、神に感謝するほど嬉しいことだった。守旧派の関係やレムス国からの秘密の支援のルートを巧みに利用したのだが、彼でなければできないことだった。
「僕達は、強固な同志じゃないか?体どうしも相性も、最高じゃないか?」
ぐったりしているイサベラに彼は囁いた。彼女達全員に、彼は同志的連帯の確認を求めてきた。彼女は応じた。確かに喘ぎ、涎は流したが、彼女の頭は醒めていた。それは皆同じで、かつ彼女への気持は誰も変わらなかった。
「あいつさ、私らのこと、ひどい味だって他の女たちに言い触らしているらしいよ。」
そんなことを聴いても、どうでもよかった。共和国軍3万5千人、三個師団半は首都の守備兵を残し出撃した。




